2 妖魔の森

 マリナのまちから西にし西にしへ――テンルウやまよりもずっと西にしかうと、そこにはたかうつそうしげもりがある。つうしょうようもり」が。


 ようもりいっぱんじんることはかたくきんじられていた。

 そもそも、このあたりにはみんしょうてんも、テンルウやまのようにくるまとおれるみちもない。

 くるまけるのはもりぐちまで。

 ぶあついぞうきんのようなくもぞらすきから、わずかにの光がしこんでいる。

 あさろく、シグマたちはようやくようもりいた。


「まずいことになってるかも……!」

 くるまからりると、ローザがそうってしたちした。「さきをこされたみたい!」


 もりぐちたいりょうくるままっている。

 調ちょうだんあさはやくにる。そんなうわさはきいていたけれど、もういているのか!


「シグマ……あれろよ、あれ! ミサキたちのくるまだよな?」

 てつけでしゃないではねむっていたジャンが、メガネのおくのまぶたをこすりながらった。

 カクカクとかくっているあのくるまは――うん、まちがいない! ミサキたちのくるまだ!


「あいつら、こんようもりでなにかぬすもうとしてんのか?」

 だとしたら、やつらだ!


「あのひとたち、とうぞくだとかってたけど、あんなによわいんじゃあ、ころされちゃう」

 ジュズまるはいにしたがえたローザがこわかおになる。

 ころされる!? ほんったのか、ローザは……!?


「なあ、ローザ。ジャンもめたわけだし、そろそろおしえてくれよ。このもりにはいったいなにがいるんだよ?」

あるきながらはなそう。かんがないから」

 ローザはシグマをちらりとてから、ジュズまるとともにもりのなかへとはいっていった。



 ぜんろくすぎのもりのなかはうすぐらかった。ほしかりのすくないよるみたいだ。

「シグマとジャンは、マルスがどんなものかってる?」

 はやあしあるきながら、ローザがとつぜんうしろにふりかえった。


 こうせんのエンジンに使つかわれたり、そうすることでかくだんりょくがあがるもの――それがマルスだ。ようするにほう。だからみんな、マルスのことをほうんでいる。

 シグマがおもかべるマルスはそれ! だけどジャンは、べつのことをくちにした。


むかしひとたちはマルスをみだした。それによってエネルギーのかつもんだいかいけつした。古いほんにはそうかれている。でもそれって、どういうなんだろう?」

「そのままのだよ」とこたえたローザが、ちいさなためいきをつく。


 そのまま? かつって、ものがなくなるってことだよな。

 つまり、エネルギーのかつもんだいかいけつしたっていうのは、えいえんになくならないエネルギーをつけたってことなのか……? あっ、それがマルスか!


せきにしろ、せきたんにしろ、でんにしろ、エネルギーにはかぎりがある」

 こうしてしゃべっているあいだも、ローザはもりのなかをはやあしあるきつづけている。

「ところがマルスだけは、ひとがこのそんざいするじょう。なぜならマルスは、ひとによってあらわれ、ぞうだいするエネルギーだから」


 ひとによってあらわれ、ぞうだいするエネルギー!? そんなの、はじめてきいたぞ!


「マルスはもともとひとようするためのものだった。くちめいれいしなくても、あしうごかさなくても、ただあたまのなかでかんがえただけでどうでドアがひらいたり、しょうめいがついたりする便べんちからちょうのうりょくみたいな――そういうものとしてかいはつすすめられていた」


 あたまのなかでかんがえるだけでか……。めちゃくちゃ、すげえな!


便べんだから、ゆたかになれるから――ひとはそんなゆうだけで、そのちからがどんなものなのかくわしくかいめいされてもいないのにたよってしまう。使つかってしまう。もののエネルギーにしたり、ときにはとして……」


 ローザがうには、マルスがひとによってやすことができるエネルギーだとわかると、かいかくへいとしてようされはじめたそうだ。

 へいようはなしならシグマもっていた。きょうしょんだことがあるから。


「マルスへいたいはんじんへいだったの。そう、ひとっていなかった。だけど、そのじんへいにはのうがあった。にんげんのようにかしこじんこうのうがね。みんかんじんぐんじんか、てきかたか、どのていはんこうげきするのか、そうしたことをはんだんするためのじんこうのうが」


 どんどんむずかしいはなしになってきたぞ……。


じんこうのうっていうのは、たとえば、このハヤトがそうだよ」

 ローザはくびいている〝しゃべるゴーグル〟のボタンをした。


「おはようございます。みなさん、おはやいですね」

 ゴーグルが――ハヤトが――つまりはじんこうのうがしゃべった。


「わたしがかつてきていた西せいれき二三〇〇にせんさんびゃくねんごろにかいはつされたじんこうのうは、とてもゆうしゅうなんだ。ひとなのか、じんこうのうなのか、そのはんべつができないくらいかしこいの。それほどゆうしゅうじんこうのうにマルスがはんのうした。かいはつちゅうしんへいとうさいされていたじんこうのうと、どうりょくげんとしてさいようされていたマルス、そのふたつがはげしくはんのうってぼうそうしたの!」


 ぼうそう!? どうしてマルスがじんこうのうはんのうしたんだろう? 

 それはローザにも「わからない」そうだ。


「とにかく、ほぼどうかいかくおなげんしょうこった。マルスのぼうそうによってにんげんのコントロールからはなれ、どくそうつようになったいちじんこうのうが、にんげんはいじょをはじめた。それが、シグマとジャンもごぞんじの、マルスのやくさい!」


 じんるいはんすうじょうにいたり、たくさんのりくがけずりられたさいあくだいせんそう

 マルスへいかずおおくのりくしょうめつさせたゆうは、「このきゅうじょうからひとめるしょをできるかぎりなくすためだった」とローザがおしえてくれた。

 ひとひとあらそせんそうなら、りくをなくすなんてはっそうはまずまれない。

 じんるいほろぼすことをもくてきとしているかいならではのかんがえだけど、おそろしすぎるよ!


 ――にしても、マルスへいはどうしてにんげんほろぼそうとしたんだろう?

 シグマがそんなことまでかんがえたとき、ゴーグルのハヤトがとうとつおおきなこえした。


「ローザ、みなさん、をつけて! てきです!」と。

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