6 ローザの正体

「おいおい、んな、アホな! じょうだんだろ?」


 いっしゅん、ポカンとなったけれど、シグマはおおいそぎでわらってやった。

 だって、そうすべきだろ? ジャンもハンナせんせいも、そうしきのときみたいにかおつきのままだけど、ここはわらってやるところだぞ!


「なにわらってんの!? シグマ、ひとりだけ! わたしはじょうだんなんかってないのに」


 マジかよ……。

 じょうだんじゃないのなら、ウソつきだ。シグマはいぶかしげに、ローザをにらみつけた。


「あのたたかいでわたしはきずい、しょくりょうもなくて、せいめいのためにはカプセルにはいるしかなかった。でもまさか、きゅうじょされないまま五〇〇ごひゃくねんっていただなんて……」


 ローザはふかぶかとためいきをついた。なんも、なんも。


「たぶんやまくずれかなにかでぐちがふさがって、はっけんされなかったんだとおもう」

「カプセルってのは、ローザがねむってた、あのひつぎのことかよ……?」

 いまだにしんじられないちでシグマがきく。

「そう」とこたえてくれたローザのよこから、「れいとうすいみんだ!」とジャンがくちをはさんだ。


 れいとう……なんだ、そりゃ?


れいとうすいみんってのはね、きたままひとこおらせてねむらせるじゅつのことさ」

 はつみみのシグマがたずねると、ジャンがせつめいしてくれた。

「ぼくもほんんだだけだから、くわしくはらないんだ。ぼくがんだそのほんによると、何十なんじゅうねん何百なんびゃくねんも、としをとらずにすごせるんだってさ」


 へえ、すげえなあ、そりゃ――って、ほんとかよ!?


 何百なんびゃくねんとしをとらない? ええぇ、そんなのしんじられないけどなぁ……。

 シグマがそううと、「ウソじゃない!」と、ローザがになってはんろんしてきた。


 ローザのやつ、ほんか? だとしても、ごめん、おれはやっぱりしんじられないよ。


 そうおもったものの、「てよ……」とつぶやいて、シグマはすぐさまかんがえなおした。


 ローザがしゃべるゴーグルのぬしなのも、ジュズまるってまえのロボットとともだちらしいのも、じつかのじょうとおり、ローザが五〇〇ごひゃくねんまえ――つまりこうがくぶんめいはったつしていただいきていたにんげんなのだとしたら……うん、たしかにせつめいはつく。


 シグマはごくりとツバをみこんだ。


 ローザにかえいえがないのは、五〇〇ごひゃくねんまえにんげんだからか……?


 このだいれっしゃまちふうけいておどろいていたのは、この五〇〇ごひゃくねんですっかりすい退たいしてしまったがくぶんめいのことを、しょかん調しらべるまでらなかったから……?


 ローザがときどきくちにしていたはなしは、五〇〇ごひゃくねんまえにはあたりまえだったこうがくじゅつのことだったってこと? だとしたら――。


「わかる、しんじられないよね。わたしがシグマのたちならしんじてないもん」

 ローザはひどくつかれたようなおもちになって、ゆっくりとくびゆうにふった。

「だけど、ウソはついてない。わたしは、ひとりでもようもりく。調ちょうだんめるために。そのためにも、まずはテンルウやまに行って、ジュズまるしゅうしないと」


 こんつよ宿やどしたかのようなひょうじょうになって、ローザはからこしをあげた。


「テンルウやまに行くならってよ!」あわててジャンがびとめた。「こんなかんだよ」

かんなんてかんけいない!」

いそいでいるのならくるま使つかいなさい。いちだい、うちにもありますから」

 ハンナせんせいやさしげな調ちょうでローザにていあんした。

「……せんせいは、わたしのはなししんじてくれるんですか?」

 あるきだそうとしたローザのあしまる。ローザはがいそうなひょうじょうせんせいにふりいた。

「もちろん! わたしはれきがくしゃですよ。わたしのせんもんかいれき。マルスのやくさいのころにはれいとうすいみんじゅつがあった。そのていのことならっています」

 ハンナせんせいはローザにあゆみより、しょうじょのやせているかたにそっとをかけた。

ようもりには、なにがあるの?」

「それは……えません」

 くら調ちょうこたえたローザのくちびるがプルプルとすこしだけふるえはじめた。

うのがいやだとか、そういうんじゃなくて……。このだいひとたちにちゃんとせつめいするのがむずかしいんです。ただ、とにかく、そう……もりには、がいるから」


 よくないもの? ようもりにはどうぶつたちのゆうれいるってうわさがある。

 まさか、そんなはなししんじてるのか? 十五じゅうごさいのローザが?

 あんなバカバカしいはなしほんしんじているのはようえんくらいまでだぞ!


 そうおもったシグマが、おもわずにがわらいをかべると、

「ジュズまるをなおすってってたけど、ローザにできるのかい?」

 ジャンがきいた。

「それは……」とほそこえして、ローザはことをつまらせた。

「できないんだね。よぉぉし! じゃあ、ぼくもくよ!」

 うとおもった。ジャンはむかしっから、おひとしだから。

「これでもはつめいのタマゴなんだ。ロボットをいじれるかいなんていっしょうものさ!」

「じゃあ、おれも」とって、シグマがげる。かたがないな、とおもいながら。

「シグマ・ノルニル……」ローザはびっくりしていた。「あなたまで?」

「だってくるまくんだろ? ジャンはめんきょなんかってないぜ。どもでくるまめんきょれるのは、プロのぼうけんだけなんだから」


 それに、ハヤトのつるぎりたままだ。ローザにはりがあるってこと。

 くわしくははなしてくれないけど、けんなことをしようとしているみたいだし……。


「プロのぼうけんってのは、こまっているひとたすけるものなんだよ」

 だから、シグマもローザについていく!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る