3 友だちのジャン

 それからすぐに、たくさんのけいさつかんたちがけつけてきた。

 けいかんたちはこんいろせいふくている。かざのないブーツをはき、たいていみんなげんだ。だからけいさつの連中だと、ひとでわかる。


「こいつは、さんちょうぼうじゃねえか。シグマが、ひとりでやったのか?」


 わかおとこけいさつかんが、シグマのよこからぼうてんしゅかおをのぞきこんだ。

 プロのぼうけんをやっていると、けいさつかんいなんてやまほどできる。


ごとさ、ごと。そのひとどろぼうだからね」

どろぼう!?」


 けいさつかんがシグマのかおる。なにかいたげに、ふうっとふかいためいきをついた。


「なるほどね。はなしはわかったよ」

 一六二ひゃくろくじゅうにセンチのシグマよりも十五じゅうごセンチほどたかいこのけいさつかんは、あらかたじょうえると、とうひんのソーサリー・ストーンをナイフからぬきった。


「けどな、どもがどろぼういかけるだなんて、かんしんしないね」

「そんなの、よけいなおだろ」


 けいさつたよりないからだ。そんなんだから、ぼうけんらいまわってくるんだよ。

 けいさつかんたちにあしをつかまれ、ぜつしたままはこばれていくぼうてんしゅをながめながら、こんはシグマがためいきをつくばんだった。


せっきょうなら、やめてくれよ。おれはらいされたごとをこなしただけさ」

「シグマはなんさいだ? プロのぼうけんってったって、まだどもだろ」


 まだども――そうっておけば、せっきょうをしてもいいゆうになるとしんじこんでいる。

 じつりょくじっせきではなく、ねんれいというすうひとはんだんするおとたち……。

 しょうじき、うんざりするよ。どろぼうつかまえてあげたのにかんしゃことひとつてこないなんて、そんなのおとたいじゃない。シグマはそうおもってしまう……。



 それよりもさらにショックなごとが、つぎあさっていた。

 うすいにガウンいちまいだと、みなとからのしおかぜが冷たい。そんなつめたいかぜですら、どことなくちよくかんじる、よくれたあさだった。


 シグマはひとりらしだ。

 ふねまるちいさなみなとちかくに、ひらたいいえりている。


 このいえはもともと、となりのくすりそうだった。ひとりらしにはじゅうぶんなひろさと、なにより、もとはそうだったからちんかくやす。そこがすごくいい。


 みんなは〝じゅうさい〟ってすうだけで、ひとどもあつかいする。けどさ、てみろよ、とシグマはおもう。ちゃんとひとりでらせてるんだ。しんぶんだって、まいにちとってるし――。


 はそのしんぶんに、とんでもないことがいてあった。


しょうきんないだって!?」


 きの、シグマがつかまえたどろぼうかんするだった。


 はんにんたいのためにされたしょうきんは、ソーサリー・ストーンをぬすまれたてんしゅたちがすこしずつおかねしあってあつめたものだ。

 そのしょうきんを、けんはんにんだったぼうてんしゅが、まとめてあずかっていたらしい。さいしょがいにあったとさわてたあのおとこが。このがいほうこくはウソだった。


 しんぶんによると、はんにんてんしゅはギャンブルきで、キタウミのしまいちばんサー・ホローにあるカジノのじょうれんだったそうだ。

 ぬすんだソーサリー・ストーンをこっそりったり、とうなんけんようしてしょうきんあつめていたゆうは、カジノで使つかうおかねしかったから――しんぶんにはそうかれている。


 ほんとうならシグマがもらうはずだったしょうきんは、ぼうてんしゅがすっかり使つかいきっていた。ギャンブルにハマりすぎてしゃっきんまであった――にはそんなことまでいてある。


「ウソだろ? こんなのが大人おとなかよ!」


 ガキ、ガキ、ガキと、ごろからくだされているぶんのほうが、ずっとじゃないか。そうおもいながら、シグマはためいきをつく。それから、あちこちにシミのてんじょうあげた。


 きょひさびさいちに行って、しんせんさかなってくるつもりだったのに、しょうきんてにしていたから、それもなくなった。


びんぼうだ……」

 こんなボロらしているプロのぼうけんなんて、きっとぶんだけだろう。


 プロのぼうけんというのは、かいせいみとめているぼうけんのこと。


 シグマがまだきゅうさいだったころ、じゅつじゅぎょうけんじゅつさいのうがあることがわかった。

 そのことをさいしょおしえてくれたのは、じゅつたんとうしていたおんなせんせいだ。かのじょがシグマに「ぼうけんけんけてみたら?」と、すすめてくれたのだ。


 そのころのシグマは、なるべくはやく〝いえ〟からたかった。

 シグマの〝じっ〟はどうようせつばれている。おやのいないどもたちや、おやはいるけどいっしょにはらせないどもたちがあつまってくるしょ――それがどうようせつだ。


 シグマにおやはいない。ものごころがつくころにはせつにいた。そこでのせいかついやだったわけじゃない。でも、できるだけはやく、ぶんひとりでらせるようになりたかった。

 プロのぼうけんになれば、それができる。シグマはそうかんがえたのだ。


 もちろん、そんなにかんたんにプロになれるわけじゃない。プロのぼうけんねんれいせいげんはない。だから、どもでもなれるけれど、ひっけんじゅつけんごうかくしないといけなかった。


 シグマはひっけんよんかいちた。あたりまえだ。おとたちがけるのとおなないようけんけるんだから。こんなときは、だれもどもあつかいしてくれない。


 シグマはしょかんかよってさんこうしょもんだいしゅうみあさり、ひっべんきょうして、かいで――ぎりぎりのてんすうだったけれど――やっとごうかくできた。

 じゅつけんかんしては、けんじゅつじつテストでさいこうてんをたたきして、いっぱつごうかく

 それがいちねんほどまえはなしだった。とうは、それなりにだいにもなった。

 でも、プロのぼうけんになれたところで、どもはどもあつかいのままらしい。


じんだよなぁ。だいたいさ、プロのぼうけんならソーサリー・ストーンつきのってるのが、ふつうだよな」


 ほんものそっくりの・サーベルなんてありえない。

 そのニセモノ・サーベルにしたって、このしてくれたくすりのオヤジさんにあたまげ、いのしょうかいじょういてもらって、やっとってもらえたのだ。


 シグマはくらぶんてんじょうのシミからをそらした。


 ぼうけん組合ギルドか、やくしょかなくちゃ……。そこでぼうけんごとしょうかいしてもらえる。

 なにかごとまわしてもらわないと、こんげつちんすらはらえない。というのがシグマのげんじつだった。どうせどものぼうけんしょうかいされるのは、いぬさがしとかねこさがしなんだろうけど!


「シグマ、たいへんだ!」

 げんかんのドアがノックもなしにひらいた。

 やせているたかしょうねんが、あわててびこんでくる。

 すぐにいちかけるつもりだったから、ドアにかぎはしていなかった。

「シグマっ、だいけんだぞぉぉぉ!」


「なんだよ、ジャンか」

 シグマはからちあがろうとして、やめた。

 しかけてきたしょうねんまえは、ジャン・タナカ。

 きんいろかみあおひとみしろはだにソバカスがつジャンは、シグマとおなどししょうねんで、おさななじみだ。

 のほつれたくろいコートのしたに、いろあせたぬのふくと、しわくちゃのズボンというかっこうのジャンは、シグマとおなどうようせつそだったなかでもある。


「シグマ、これだよ、これ! これて!」

 ジャンはかたにかけているカバンにっこんだ。

 それから、とやらをテーブルのうえいた。ジャンがいたのはゴーグルだ。

 ゴーグルのレンズのフレームは、たぶんてつせいで、そのまわりはかわでおおわれている。

 そこまでは、よくあるデザインだ。だけど、フレームやかわのところにゆびさきほどのちいさなとつ――ボタンのようなものが、たくさんついていた。

 こんなゴーグル、シグマはたことがない。


「なんか……へんだよな、このゴーグル?」

「だろ!」

 ジャンははないきをあらくした。いまにもはしりだしそうなほどこうふんしている。

「ジャン、ちつけよ! 朝からきんじよめいわくだぞ」

ちつくなんてのうさ! このゴーグル、んだから!」

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