第三話 作業厨、10階層を踏破する
その後も順調に2階層、3階層、4階層……と、順調に踏破していく。
道中で出てくる魔物はスライム、ゴブリン、オークといった弱い魔物が多く、稀にロックウルフという、全身が岩で覆われた狼や、ミノタウロスといったレベル40前後の魔物が出るような感じだった。
ただ、7、8階層あたりからほんの少しだけ難易度があがり、レベル50相当のゴブリンロード率いるゴブリンの群れなんかが出てくるようになってきた。
だが、ぶっちゃけその程度は俺たちからしてみれば誤差もいい所だった。
全く苦戦することなく、足止めることもなく、どんどん先へと進み、とうとう10階層踏破が目前となっていた。
「……そろそろ10階層も踏破かな……ん?」
襲い掛かってくる魔物を見向きもせずにダークを振るって斬り殺していると、前方に行き止まり――じゃなくて、扉が見えてきた。その前には何人か冒険者もおり、皆その扉が開くのを待っているように見える。
「ああ、階層ボスの部屋か。こんなすぐあるのか」
あの扉の先が何なのかを、かつて踏破したダンジョンで培った経験から理解する。
階層ボス。
それは、一部階層の最後にある部屋の中にある魔物のことだ。
その部屋に入ったら最後、その魔物を倒すまで、決して外に出ることは出来ない。まあ、そこそこの距離転移できる奴なら問題ないけど。
で、中にいる魔物は大概、そこら辺にいる魔物よりも強い。何も知らずに、今まで通り行けると思って入れば、返り討ちに遭うだろう。
ただ、ちょっと速すぎないか?
ディーノス大森林のダンジョンだと、100階層ごとだったのに、ここでは10階層でもう出るのか……
すると、またまたダークが俺の考えていることを察し、念話でわめく。
『だーかーら! そんな余裕はなかったのじゃ! 一々そう思わんと気が済まんのかお前はー!』
『ダークのことを馬鹿にはしてないって。ただ、気になるもんは気になるんだよ』
俺は、わめくダークを頑張って宥める。
このダンジョンに入ってからこうなること多いし、ちょっと心配だなぁ……
こうなっているのは俺のせいって?
いや……まあ、その自覚はあるよ。でも、そう思っちゃうものは思っちゃうんだよ。
仕方ないんだ……
そんなことを思いながら、俺はニナと共に前方の扉の前にある列に並ぶ。
「は~癒される~」
ニナはほっこりとした顔になりながら、シュガーをぎゅっと抱いて、頬擦りする。
いくら余裕のあるダンジョン探索とは言え、シュガーやソルトを抱きながら進む……なんてことは出来ない。
そのせいで、こういう魔物が出現しない階層間付近での休息時には、いつも以上にシュガーとソルトにスキンシップをするのだ。
まあ、見ているこっちとしては、すっごいほっこりとするから、大歓迎なんだけどな。
ただ、待っている冒険者……の中の一部の男が、ニナにちょっとよからぬ視線を向けてるなぁ……
いやまあ、年頃の男性諸君なら、この光景を見て、そんな気持ちになっちゃうのは仕方ないかもだけど、ちょっと不快だなぁ……
そう思った俺は、そいつらだけに殺気を向ける。すると、彼らはビクッと体を震わせたかと思えば、冷や汗を流すと同時に視線を逸らす。
「よし」
ニナの休息が守られたことに安堵した俺は、ほっと息を吐くと、肩に乗るソルトを抱きかかえ、そっと頭を撫でてあげた。
少しして、前方にいた冒険者たちが全員いなくなった。皆順番に中に入ったのだ。
踏破できたのかどうかは目視では確認できないが、気配から察するに、皆無事踏破出来ているようだ。
すると、シュガーを俺に返したニナがおもむろに目の前にある扉に手をかける。
すると、ギギーっと音を立てて、扉が開いた。開いたってことは、さっき入った奴らの戦闘が終わったのか。
「あ、開いた。行きましょ、レイン」
「だな。行くか」
俺は頷くと、ニナと共に前へ進む。
そして、扉の中へ入る。
完全に中に入ったところで、扉がひとりでにバタンと勢いよく閉ざされる。まるで、ここに俺たちを閉じ込めるかのように。
それと同時にこの部屋の床の中心に赤い魔法陣が出現する。そして、その魔法陣から5体の魔物が姿を現した。
その内の4体は、道中でも見たオークの上位種、ハイオークだ。レベルは50。棍棒を持ち、腰には魔物の皮が巻かれている。
だが、その中心に毛色の違うオークがいる。ちょっとボロい深緑色のローブを羽織り、右手には杖を持っている。
明らかに、他4体のオークよりも強い。
あれは見たこと無いな。鑑定してみよっと。
======================================
・名前 なし
・年齢 不明
・性別 オス
・種族 オークメイジ
・レベル 72
・状態 健康
身体能力
・体力 5400/5400
・魔力 7300/7300
・攻撃 5100
・防護 5900
・俊敏 5400
魔法
・火属性レベル3
パッシブスキル
・魔法攻撃耐性レベル1
アクティブスキル
・魔力操作レベル2
======================================
なるほど。オークメイジか。
魔法を使うオークっていうのもいるんだな。
まあ、他より強いと言ってもレベル72だし、全然余裕だ。
ニナも、今まで同様あれらは脅威とは思っていないようで、余裕の表情だ。
「グオオォ!」
すると、4体のオークが咆哮を上げ、一斉に突撃を開始する。
狙いは……ニナか。オークらしい。
じゃ、ニナに任せようかな。
そう思い、俺はニナにアイコンタクトを送る。
するとニナは小さくコクリと頷き、こちらの意図を受け取ったかと思えば、いきなりハイオークたちに向けて
「ガアアアアァ!!!」
そして、当たりどころの悪かった2体がそのまま息絶え、地に伏せる。
残るハイオークは2体。いずれも深い傷を負っている。
「
そこにニナは躊躇なく追撃を仕掛け、2体を仕留める。
「グフォ!? グフォオ!」
4体のハイオークが瞬殺されたことに、オークメイジは明らかに動揺したような反応をする。そして、まるでやけになったかのように右手の杖を天に掲げる。
その直後、オークメイジが持つ杖を中心に赤い魔法陣が展開されたかと思えば、そこから炎の球が数個飛び出した。
飛び出た炎の球は、そのまま一直線にニナへ襲いかかる。
だが、あの程度なら――
「
水圧によって強度の上がった水の壁が炎の球の行方を阻む。
炎の球は、
「お返し。
炎の球を受けきったことを確認した直後、ニナがオークメイジに魔法を放つ。
「ブフォ!」
オークメイジも即座に杖を掲げる。すると、今度は炎の壁が展開された。あれでニナの魔法を受ける算段なのだろう。
だが、甘いな。
パン!
まず、ニナが放った
それによって炎の壁が消え、オークメイジの姿が露わになる。
そこに、
「ブフォオオオ!!!」
オークメイジの頭を消し飛ばすのであった。
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