第67話 ショコラ無双
私たちはお茶会が開かれる大広間に案内された。大広間にはお茶菓子どころがテーブルもなく、鎧を着た貴族の子息たちが剣を構え私たちを出迎えてくれた。
「おい!『青天の霹靂』のシェーネとショコラがいるぞ」
「そんな話聞いていないぞ。確かヘンドラー男爵の娘セリンセと使用人が2.3人いる程度だと聞いていたはずだ」
「俺もだ」
「俺もだ」
シェーネとショコラの姿を見た貴族の子息たちは明らかに動揺している。
「お前たち、相手は所詮女の冒険者2人だ。お前達には俺が付いている。だから何も恐れることはない。好きなだけいたぶって殺してしまえ」
シックナザール伯爵が笑みを浮かべながら命令する。
「しかし、いくら冒険者といっても伯爵家の令嬢と王女殿下です。下手なことをすれば、貴族の身分が剥奪されてしまいます」
「冒険者になるということは、どのような事件に巻き込まれても自己責任だ。たまたまこの屋敷に潜入していた盗賊に殺されてしまったって事にすれば問題はない。俺がそのように証言するから安心しろ。それに、伯爵令嬢と王女をお前たちの好きにできるのだぞ。こんなチャンス滅多に訪れることはないぞ」
「確かにそうだな」
「しかし、相手は天才魔法少女シェーネと魔法剣のスペシャリストショコラだ。俺たちが勝てる相手なのか?」
「こっちは総勢30人だ。それに、いざとなればシックナザール様の護衛兵士が100名待機しているはずだ。負ける要素を見つける方が難しいのかもしれない」
クロイツ子爵は万全の体制を整えるために、シックナザール伯爵にお願いして、屋敷に100名の兵士を配属していた。セリンセ1人を手に入れるためにクロイツ伯爵は、完璧な布陣を敷いていたのである。
「どこにもお茶菓子がないよん」
ショコラが大声をあげて叫ぶ。
「本当だわ。私美味しいものが食べれると思って楽しみにしていたのに」
私はお茶会というものを知らなかったので、ショコラにお茶会のことを詳しく聞いていた。お茶会とはタダでお腹が一杯になるまで美味しいものが食べることができる素晴らしいパーティーだとショコラが教えてくれた。
「初めからお茶会などするつもりはなかったのね」
シェーネは冷静に判断するが、ショコラはお茶菓子がなく今にも暴れそうな勢いである。
「ケーキを持ってくるよん。ビスケットも必要よん。あとドリンクも10種類は必要よん」
ショコラはクロイツ子爵に詰め寄っていく。
「誰か、このうるさいガキを黙らせろ」
「わかりました」
貴族の子息数名がショコラを取り押さえようとする。ショコラは床を軽く蹴ってジャンプをして、子息たちを飛び越えた。そして、腰に携帯している短剣を取り出し魔力を流し込み短剣を2mの大剣に変化させた。
ショコラは2mの大剣を片手で持ち、舞を踊るように大剣を振り回す。するとショコラを取り押さえようとしていた貴族の子息の鎧が、パックリと割れて丸裸になった。
「お茶菓子を用意するのよんよん」
「セリンセちゃん、ハツキちゃん私の側から離れないでね」
シェーネが私とセリンセを守る様に私たちの前に立つ。
「お茶会って剣を振るってお菓子を奪い合う場所なの?」
私はショコラを見てお茶会って恐ろしい場所だと思った。
「ハツキちゃん違うのよ。クロイツ子爵は初めからお茶会を開くつもりなどなかったのよ。アイツはセリンセちゃんを奪うために、自分たちの味方の貴族の子息を集めてたのよ」
「そうなの・・・私はたくさん美味しい物が食べたかったのに」
私がガックリしてしょんぼりしている間に、ショコラは広間にいた全ての貴族の子息の鎧を破壊した。鎧を破壊され丸裸になった貴族の子息たちは逃げるように広間からいなくなってしまった。
「クロイツ!早くお茶菓子を用意するのよん」
「こいつは化け物か・・・シックナザール様助けてください」
「兵士ども何をしているあの女を殺せ!」
シックナザールの一声で屋敷に待機していた100名の兵士が、次々と広間にやってくる。しかし、ショコラの振りかざす大剣の斬撃で、兵士たちはショコラに近寄ることもできずに鎧を破壊され、全裸になって逃走する。
「アーベンどこに隠れている。お前が立てた計画が失敗しているぞ。すぐに責任を取れ!」
兵士が次々に逃げていく様を見てシックナザールが大声で叫ぶ。
「相手は『青天の霹靂』だぞ。無能な貴族の子息や田舎町でのんびり過ごしている兵士たちが束にかかっても勝てる相手ではないぞ」
アーベンは屋敷でシェーネとショコラの姿を見てすぐに逃げ出していた。しかし、屋敷からアーベンが逃げる姿を目撃したカーネリアンは、すぐにアーベンの後を追った。
「逃げるが勝ちだ。『青天の霹靂』がこの町に来たってことは、イーグルネイルの情報を探りにきたに違いない。俺が盗賊ギルドマスターだと疑われる前に、しばらく身を隠す必要があるな」
「やっぱりお前が盗賊ギルドマスターだったのだな」
カーネリアンがアーベンの前に姿を見せた。
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