第66話 続お茶会

 「ヘンドラー男爵、アードラーの事件についてもっと詳しく聞きたいのですが」



 シェーネはヘンドラーと2人で話をしたいと言って、2人で執務室に入って行った。



 「ギルドに報告した内容に納得がいかないのですね」


 「もちろんです。大体の想像はつきますが。今回のお茶会の件と関係があるのですね」


 「それは・・・」



 シェーネは、ヘンドラーが真実を告げることができないのは、『真紅の爪』と盗賊ギルドを恐れてのことであると推測しているが、本当は私が口止めをしているからである。



 「やはりそうでしたか。アードラーを倒した冒険者から口止めをされているのですね。イーグルネイルの中でも『真紅の爪』は冷酷非道で有名な組織です。『真紅の爪』のボスであるアードラーを殺されたとなると、どのような手段を使って報復してくるかわかりません。なので、『月下の雫』と相打ちという形にしたのですね」


 「はい。たまたま通りかかった冒険者様が、私たちを救ってくれました。しかし、その冒険者は富や名声に全く興味がなく、自由気ままに暮らしたいと言って、『月下の雫』がアードラーを倒したことにして欲しいと言われたのです。そして、シェーネさんの推察通り、最悪の事態を考慮して、最善の方法として詳しい事情をギルドに報告しませんでした」


 「富や名声を欲しない冒険者・・・とても気になりますわ。でも、お話できないのなら無理強いはできません」



 シェーネは、冒険者のことが気になったが追及することは諦めて執務室から出て行った。




 「お兄様、何か新しい情報は得ることができましたか?」


 「今のところ、ヘンドラー男爵邸を襲う気配は全く感じられない。『真紅の爪』はヘンドラー男爵への報復よりも、お茶会を通じてセリンセ嬢の誘拐を優先したのだと思う」


 「依頼の達成を優先させたってことね」


 「そうなるだろう。なので、今回のお茶会には護衛者として盗賊たちが潜入している可能性が高い。本当にお前たち2人で大丈夫なのか?」


 「今回のお茶会にはシックザナール伯爵も参加するようなので、王女であるショコラの前で堂々と誘拐はしないと思うわ」


 「それはショコラが大人しくセリンセ嬢と一緒にいた時の話だ。もし、あいつがいつものように暴走したら・・・」


 「問題ないわ。それも私の作戦の一つなのよ!上手くやるから私に任せておいて。お兄様は、屋敷の外で睨みを効かせておいてね」


 「任せろ。この町の騎士団所の団員にも話はつけてある。シックナザール伯爵は人望が薄いので、簡単に俺たちの味方になってくれたのは幸いだった」



 カノープスの騎士団所の団員は領主であるシックナザール伯爵の命令に逆らうことはできない。それは、会社であれば、社長と社員の立場であるからである。しかし、王族の専属の『青天の霹靂』は国王の命令で動いているので、社長の上である会長の方針に従った方が、団員たちは得策と判断したのである。




 次の日、私とセリンセを乗せた馬車がクロイツ子爵の屋敷の前に到着した。馬車を護衛するかのように、『青天の霹靂』が並走していたので、屋敷の門の門兵は、すぐに、クロイツ子爵に『青天の霹靂』のことを報告した。


 数分後慌てた様子でクロイツ子爵が門の前に姿を見せた。



 「お前たち何しに来た!」


 「お前がクロイツ子爵だな。俺たちはセリンセ嬢を護衛をしている」


 「護衛だと。この安全で警備の整ったカノープスの町で護衛など必要ない。この町で護衛をつけるなんて、領主であるシックナザール伯爵への冒涜だ!さっさとお前たちは王都へ帰るのだ!」


 「なんて騒がしいお方なのですね。まるで何かに怯えて吠えている犬のようですわ」


 「そうよんよん」


 「うるさいぞ小娘が!」


 「うるさいのはあなたの方ですよ。私とショコラはセリンセ嬢と共にお茶会に参加しに来たのよ」


 「そうよんよん。すぐにお茶菓子を用意するよん」


 「俺が招待したのはセリンセだけだ!他の女は必要ない」


 「私とショコラは今回は冒険者でなく、フリューリング公爵家の令嬢とヴァイセスハール国の王女として参加するのよ。そのような態度をとってもよろしいのでしょうか?」


 「お前たちは冒険者だ!冒険者に身分など関係ない。都合の良い時だけ身分をひけらかすな!」


 「クロイツ子爵、その辺にしておけ。いくら冒険者といっても相手はフリューリング公爵家と王女殿下だ。揉め事は避けた方が良い」



 クロイツ子爵を止めに入ったのはシックナザール伯爵である。



 「しかし、あいつらを入れてしまったら計画が・・・」


 「屋敷の中には、鍛え抜かれた貴族の子息たちがいるだろ。相手はたったの2人だ。外で揉めて話を大きくするよりも、屋敷の中で処理した方が得策だと思わないか」


 「さすが、シックナザール様。そうしましょう。そうしましょう」


 「おい!お前たち。心の広いシックナザール様がお前たちのお茶会の参加を認めてくれたぞ。シックナザール様に感謝するのだな」



 シェーネとショコラのお茶会の参加が認められて、私とセリンセは馬車の中から出て、クロイツ子爵の屋敷の中に案内された。もちろん魔力量が0の私は何ら咎められることなく屋敷に案内されたのは言うまでもない。

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