第56話 火炎竜王の鱗その後

 『氷雪座敷』は一面が氷で覆われていた。1000平米の敷地内全て氷河で覆われていて、凍てつく冷気が中央にあるベットから、止めどなく放たれている。そして、中央にあるベットには顔以外は氷に覆われた色白の少女がちょこんと座っていた。



 「あなたがブランシュ王女様でしょうか?」



 凍てつく冷気が私を包み込むが火炎竜のオーブが冷気を弾き返す。



 「そうよ。私のことはブランシュって呼び捨てでもいいわよ。私のためにわざわざこんなところに来てくださってありがとうございます。あなたのそばに近寄りたいけど、これ以上近づくのは危険だからやめとくわ」


 「大丈夫ですわ」



 私はブランシュ王女のベットに近づいていく。ブランシュ王女に一歩近づくにつれて、凍てつく冷気の勢いが増していくが、丈夫な体の私には全く問題はない。



 「だめよ!それ以上近づくと、いくら火炎竜のオーブを纏っていても危険よ」


 「大丈夫ですわ。問題ないわよ」



 私はブランシュ王女の言葉を無視して目の前まで進んでいった。すると火炎竜のオーブは凍てつく冷気に耐えれなくなり、パリンと音を立てて壊れてしまった。



 「早く逃げて!!!」


 「心配しなくても大丈夫ですわ。だって私にはこのワンピースがあるのだから」


 「あれ?ハツキちゃんが凍らないわ」


 「だから、このワンピースがあれば問題ないのですわ」



 実際は私の強靭な体のおかげで大丈夫なのだが、説明するのが大変だと思ったのでワンピースのせいにすることにした。



 「そんな薄着のワンピースで本当に大丈夫なの?」


 「問題ありませんわ。このワンピースには特殊な加工がされていてどんなに寒くてもへっちゃらですわ」


 「国宝魔道具に匹敵するアイテムなのですね」


 「そうね」


 「今日は本当に来てくれてありがとうございます。心からお礼を申し上げます」


 「そんなにかしこまらなくてもよろしいですわ。私は平凡な平民だからね」


 「危険を冒してまでこんなところに来てくださったことに対して敬意を示しているのです。本当にありがとうございます」


 「いいのよ。私もかしこまった話し方は苦手なので、お互いにかるくお話をしましょ」


 「ハツキちゃんがそこまで言うのならわかったわ」


 「それでいいのよ。ブランシュちゃんお体は大丈夫なの?」


 「そうね・・・だいぶ食欲も無くなってきたし、体もほとんどが凍りついてしまったから、もう長くはないわね」



 ブランシュ王女は笑いながら言った。



 「でも、最後に0の少女に会えてよかったわ。魔力量が0なのに冒険者になったり、専門魔法学院の入学を目指したり、本当に自分に悲観することなく強く生きるあなたのことが私は大好きなの」


 「そんなことないわよ。私なんて大したことはしてないわ。あなたの方こそすごいわよ。生まれてからずっとこの場所に閉じ込めれて、外にも出ることができないなんてつらずぎるわよ」


 「そうね。でも、私には私を大事にしてくれるたくさんの方々がいるわ。母は私を産んでから白の厄災の王女の呪いで亡くなってしまったが、家族、友人、王族関係者などが私に会いにきてくれるので、とても幸せな人生を歩めたのよ。だからいつ死んでもいいのよ」


 「死ぬなんて言わないでよ」



 ブランシュ王女は私と同じ14歳。雪のような真っ白い肌に真っ白な長い髪、瞳は氷のように透き通るブルーである。彼女は生まれてからずっと『氷結座敷』のベット上で生活をしていた。私はこの環境を見た時私と一緒だと思った。私もこの異世界に来るまでは、人生のほとんどを病院のベットで過ごしてきた。なので、他人事だと思えないのである。



 「この呪いは解く方法ないの?」


 「解く方法はあるの。でもそれは不可能なのよ」


 「どういうことなの」


 「『白の厄災の女王』の呪いを解くには、火炎竜の鱗が10個いるのよ」


 「火炎竜の鱗?そういえば、さっき羽織っていたのは火炎竜のオーブだったような気がするわ」


 「そうよ。火炎竜の鱗を元に作られたオーブよ」


 「それなら、火炎竜の鱗があるのじゃないの?」


 「あのオーブは火炎竜の鱗でも、『抜け落ちた火炎竜の鱗』なのよ。必要なのは火炎竜を倒した時に手に入る鱗なの。火炎竜は英雄ランク魔獣で、私の母を救うために、ゼーンブスト陛下は、10万の軍隊と冒険者を集めて火炎竜の討伐に向かったの。しかし、火炎竜の住む爆炎湖は火炎竜だけでなく3体の火炎竜王がいるの。結果は一体の火炎竜を倒すことなく撤退を余儀なくされたわ。その時に何個かの火炎竜の抜け落ちた鱗を回収することができて、それを使って火炎竜のオーブを作ることができたのよ」


 「火炎竜王???そんなに強いかしら?」


 「ハツキちゃん。火炎竜王は強いってレベルじゃないのよ。火炎竜王の発する熱は2000度もあり近づくことすらできないのよ。しかも、火炎竜の住処の爆炎湖は、炎が獣ように蠢いていて並の装備じゃ一瞬で燃え尽きてしまうの。そんな劣悪な環境の中での戦いで火炎竜を討伐するなんて無理だったのよ。母は自分のために多くの死者が出たことを嘆き、2度と火炎竜の討伐をすることを禁止したわ」


 「そうだったのね。でも火炎竜の鱗が10個あればブランシュちゃんの呪いは解けるのね」


 「そうね。でも、不可能ね」


 「そういえば・・・」



 私は麦わら帽子に手を入れた。



 「火炎竜の鱗・・・ちぇっ!火炎竜王の鱗ならあるのに。火炎竜王のヤツ、こんな使えない鱗をよこすくらいなら、火炎竜の鱗の方をくれたらよかったのに」



 私は怒りのあまり麦わら帽子から火炎竜王の鱗を取り出して床に投げ捨てた。



 「えっ・・・ハツキちゃん今なんて言ったのかしら?」


 「火炎竜王の鱗ならあるって言ったのよ。でも、こんな役立たずの鱗なんて使えないわね」


 


 私は、再び爆炎湖に行って火炎竜の鱗を手に入れることを決意した。

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