第55話 氷結座敷

 次の日、私はシェーネに連れられてヴァイセスハール城に向かった。宿屋からお城には距離があるので、シェーネは馬車を用意してくれていた。



 「ハツキちゃん、私のお願いを聞いてくれてありがとう」


 「いえいえ、私でもお役に立てることがあるのなら喜んで協力をするわよ」


 「嬉しいわ。ブランシュ王女殿下にハツキちゃんが会いに来てくれると言ったらすごく喜んでいたわよ」


 「本当に!喜んでもらえるのなら嬉しいわ。ところで、シェーネちゃんとブランシュ王女様はどうしてお知り合いになったの」


 「ショコラからの紹介されたのよ」


 「ショコラちゃんから?」


 「そうなのよ。ショコラはああ見えてもこの国の王女様なのよ」


 「えぇ〜〜」


 「とても王女様には見えないよね」


 「全く見えないわ」


 「この国の王族は冒険者になって力をつけるのが風習になっていて、ショコラの2人の兄も冒険者出身よ」


 「ショコラ王女様のお兄上様というとこの国の王子様になられるのでございましょうか」


 「そんなにかしこまって喋らなくてもいいのよ。冒険者は貴族であろうが、王族であろうが平民であろうが皆平等なのよ。だから、私たちもショコラと呼ぶし、みんなも王女殿下とは呼ばないわ。ショコラは王女殿下ではなく、冒険者ショコラなのよ」


 「そうなのね。それは助かるわ。それじゃ、ブランシュ王女様はショコラちゃんの妹になるのかしら」


 「いえ違うわ。ブランシュ王女殿下はゼーンブスト陛下の弟君であるメルクーア大公の御子息になるのよ。ちなみにショコラはゼーンブスト陛下の娘になるから正真正銘の王女様よ」


 「それなら、なぜ?ショコラちゃんは今日は一緒に来なかったのかしら」


 「それは、ブランシュ王女殿下がみるみる体調が悪くなってきたので、その姿を見るのが辛くなってきたのよ。みんなにそんな姿を見せないように、いつものように明るく振る舞っているのよ。自分の弱い姿をハツキちゃんに見せたくなかったのかもね」


 「・・・」


 「ハツキちゃんが気にすることないのよ。昨日もショコラはブランシュ王女殿下に会いに行って、ハツキちゃんのことや、オークの森の視察のことなど色々とお話をしていたわ。ブランシュ王女殿下はショコラの冒険話を聞くのをいつも楽しみになさってるのよ。さぁお城に着いたわよ。ちょっと許可をもらってくるわね」



 シェーネは馬車を降りて、城門にいる兵士のところへ向かって行った。シェーネはすぐに許可をもらい馬車に戻り城門をくぐってお城に向かった。


 ブランシュ王女はお城の地下に作られた周りをコンクリートの壁に覆われた大きなスペースに隔離されている。その広さは1000平米ほどあり、1000平米とはテニスコート5個分くらいの広さである。そこは『氷結座敷』と呼ばれ一部の関係者しかその存在を知らない。


 『氷結座敷』はブランシュ王女の発する凍てつくオーラによって、氷の広間となっている。ブランシュ王女殿下の呪いは程度が低いが、凍てつくオーラによってキンキンに凍らされた広間は、王国の魔導士などによって随時解凍していくが、完全に消し去ることができず、永久凍土の部屋になっている。



 「ハツキちゃん、この長い階段を下ると『氷結座敷』があるわ。この火炎竜のオーブを纏うと寒さを凌げることができるわ」



 私はお城から少し離れた場所にある小さな古屋に連れてこられた。この古屋には特に何もなく地下に通じる階段のみがある部屋であった。この古屋は『氷結座敷』に通じる階段を隠すため作られた古屋なのである。


 『氷結座敷』に入るには火炎竜のローブを纏わないと、ブランシュ王女が発する凍てつくオーラによって氷漬けにされてしまう危険性がある。特に私のような魔力量が0の人間なら尚更危険であるらしい?火炎竜のローブはそれ自体が保温効果発熱効果があり、魔力を燃料としない国宝魔道具なのである。なので、私でも使用することができる貴重な魔道具である。しかし、私には強靭な肉体があるので、火炎竜のローブなど必要ないのだが、断ることもできないので、ご好意を受け入れることにした。



 「ハツキちゃん、階段を降りるわよ。さぁ乗って!」



 シェーネは膝を下ろして、私をおぶろうとする」



 「シェーネちゃん。私階段くらい1人で降りれるわ」


 「この階段は見た目よりも急なのよ。しかもかなり段数があるわよ。魔力量が0のハツキちゃんがこの階段を下るのは危険だわ」


 「大丈夫よ」


 「無理よ」


 「大丈夫よ」


 「無理よぉぉ〜」



 私はシェーネの迫力に負けておぶってもらうことになる。


 階段はシェーネが言ってた通りかなり急であり、降りるのに10分ほどかかった。



 「着いたわよ」



 目の前には小さな灯りで照らされた分厚い鉄でできた扉があった。



 「この扉は3層になっているのよ」



 分厚い鉄の扉は1つではなく3つあるらしい。この鉄の扉は魔導扉であり、魔力によって自動で開くのである。なので、魔力のない私にはぶっ壊すしか入る方法がない。なので、私は拳を握るそして・・・



 「ハツキちゃん何をしているの。扉は私が開けるから少し待っていてね」


 「・・・そうね」



 危うく私は扉をぶち壊すところであった。


 シェーネが魔法で扉を開き、3枚目の扉が開くと同時に冷たい冷気の突風が襲う。



 「ハツキちゃん、ブランシュ王女殿下が2人っきりで話をしたいと言っていたから、私はここに残るわね。何かあったら大声で叫んでね。すぐに助けに行くからね」



 私は今にも体が吹き飛んでしまうような突風を押しのけて、『氷結座敷』の中に入って行った。

 

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