第39話 幽霊の村?

 「うぉ〜うぉ〜」

 「あぁぁ〜あぁぁ〜」

 「はぁ〜はぁ〜」



 地下に通じる階段を降りていくと、不気味な声は次第に大きくなってくる。



 「やっぱり幽霊がいるのよハツキちゃん。これ以上進むのは危険よ」


 「いえいえ、幽霊なんていませんよ。私たちはこの不気味な声の正体を探るべきだと思うわ」



 カリーナは怖がって私の後ろに隠れてしまったので、私が先頭になって階段を降っていく。



 「ここは地下の倉庫・・・ではないみたいです。鉄格子があるので牢屋なのかな?」




 地下に降りると、ろうそくのような魔道具によって、うっすらと明かりが灯っている。私は恐る恐る牢屋を除いてみた。



 「うぉ〜〜」

 「はぁ〜はぁ〜」

 「ふんぬぅ〜ふんぬぅ〜」



 牢屋に近づくに連れて、不気味な声はいっそう大きくなってきた。



 「あれは・・・」


 「どうしたのハツキちゃん。何があったの?やっぱり幽霊なの」



 カリーナは怖くて目を瞑りながら私に抱きついている。



 「もしかしてムスケルさん?」



 私が牢屋を除いてみると、ムスケルがニーゼンを背にのして腕たせ伏せしていた。しかも片手で!



 「おう!お嬢ちゃんじゃないか?何をしているんだい」


 「地下室から不気味な声が聞こえたから様子を伺いに来たのよ」


 「そうだったのか。俺たちは酔っ払って暴れたせいで、村人に牢屋に閉じ込められてしまったぜ。牢屋から出ることができないので、日課のトレーニングをしていたところでだぜ」


 「トレーニングお疲れ様です」


 「おおう。それよりも村人たちを呼んで来てくれないか?ここから出して欲しいんだが」


 「そんなに急がなくていいわよ、ムスケル!今は日課の朝のトレーニングのが大事よ」



 隣の牢屋でシェーンがスクワットをしている。



 「皆さんトレーニングを頑張っているんですね」


 「もちろんよ。私たちは朝晩のトレーニングは欠かさず行っているのよ。でも、昨日は酔っ払って寝てしまったみたいなので、晩のトレーニングをサボってしまったので、その分を取り戻さないといけないのよ」


 「そうなんですかぁ〜。皆さんはトレーニングを頑張ってくださいね。私は村人さんを呼んできます」


 「お願いするわ」


 「カリーナさん、カリーナさん、幽霊なんていませんでしたよ。地下室にいたのは『肉の壁』さんたちですよ」


 「本当なの?本当に本当なの?」


 「カリーナさん、目を開けて自分の目で確かめてください」


 「本当に本当なの!」


 「カリーナさんにも『肉の壁』さんの声は聞こえたはずですよ」


 「あの声が本当に『肉の壁』さんのものと断言するには、まだ情報が少なすぎるのよ。だから、あの声の主は幽霊である可能性を捨てきれませんわ」


 「カリーナさん、目を開ければすぐに解決することですよ」


 「ちょっと待つのよ。一旦ここを離れてから検討するわ」



 私とカリーナは『肉の壁」を地下の牢屋に残して、地下室から出ることにした。



 「カリーナさんお食事処に戻ったわよ」


 「本当に、本当なの」


 「カリーナさん、私を信じてください」


 「わかったわ。ハツキちゃんを信用するわ」



 カリーナは恐る恐る目を開けてみた。



 「さて、地下室には何もなかったしこれからはどうしようかしら」



 カリーナは目を開けると何事もなかったかのように淡々と喋り出した。



 「カリーナさん、地下室には『肉の壁』さんが牢屋に監禁されていたわよ」


 「もし、仮にハツキちゃんの話が真実だとすれば、なぜ?『肉の壁」さんは地下室に監禁されたのかしら?」


 「ムスケルさんが言うには、酔っ払って暴れたからだそうです」


 「私が起きている間は、『肉の壁』さんはお酒を飲んでいなかったわ。私が眠った後にこっそりとお酒を飲んだのね!私たちの護衛中にお酒を飲むなんて依頼料を少し割引してもらわないとね」


 「カリーナさん、依頼料の話よりも『肉の壁』さんを牢屋から出してもらいましょうよ」


 「そうね。『肉の壁』さんは酒に酔って村人達に迷惑をかけただろうから、私たちが謝罪して許してもらわないとね」


 「仕方がありませんね」



 私とカリーナは、『肉の壁』を牢屋から出してもらうために食事処を出て、村人を探しに行った。



 「どこの家を訪ねても誰も出て来ないわ・・・」


 「カリーナさん、やっぱり幽霊の村だったのかしら?」


 「ひえぇ〜〜」



 カリーナさんは白目を剥いて倒れてしまった。



 「カリーナさん、カリーナさん、しっかりしてください」



 いくらカリーナに声をかけても、カリーナは白目を剥いたまま動く気配がない。



 「仕方がないわ。お食事処に戻ろうかしら」



 私はカリーナをおぶって食事処まで戻ってきた。



 「なぜ?どこを探しても村人さんはいないのかしら。昨日私たちをもてなしてくれてたのは・・・本当に幽霊だったのかしら?」



 いくら考えても埒があかないので、とりあえず『肉の壁』を牢屋から出してあげることにした。もちろん牢屋の鍵はないので力ずくである。私が地下室に降りていくと、『肉の壁』は一心不乱に筋トレに励んでいた。



 「えい えい」



 私はこっそりと鉄格子を手で掴み強引に鉄の棒を引っこ抜いた。



 「これで通れるわね」

 「『肉の壁』のみなさぁ〜ん。トレーニングはそのくらいにして外に出ませんかぁ〜」


 「お嬢ちゃん、村人を呼んで来てくれたのか?」


 「それが、村を隈なく回ったんですが、村人さんの姿が全く見当たらないの」


 「なんだと。村人がいないなら俺たちは一生ここから出れないのか」


 「ムスケル、これはもしかしたら神から与えられてた試練なのかもしれないぞ」


 「ニーゼン、どういう事だ!」


 「この鉄格子を壊せるほどの筋肉をつけろと、神が俺たちに試練を与えたのかもしれないぞ」


 「その通りだな。それなら村人がいないのに納得がいく」


 「ムスケル、何をバカな事を言ってうのよ。鉄格子をよく見なさい!」


 「シェーン・・・どうやって牢屋から出ることができたのだ」


 「私たちは初めから牢屋に閉じ込められていなかったのよ。牢屋のような部屋に居ただけだったのよ」


 「どういうことだ」


 「まだわからないの?しっかりと鉄格子を見るのよ。出入りできるように大きな隙間があるじゃないの」


 「ほ・・・本当だ」



 『肉の壁』は、私が鉄格子の鉄の棒を引っこ抜いたこと気づいていない。



 「私たちは、寝ぼけてこの鉄格子の隙間に気づかなくて、牢屋に閉じ込められていると勘違いしていたのよ」


 「なんてこったぁ〜」



  『肉の壁』は鉄格子の隙間から出て、私と一緒に階段を登り地下室から出るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る