第38話 ポジハラはやめましょう
「いつまでもここにいるわけにもいかない」
「そうだな。村人たちはかなりのご立腹のはずだ。ここを出て誠意ある謝罪をして許してもらうべきだ」
「しかし、この頑丈そうな鉄格子からどうやって抜け出すのだ?俺たちの武器は馬車と一緒に置いて来てしまったぞ」
「シェーンを起こすか」
「そうだな」
「シェーン シェーン起きろ!」
「そんなやり方でシェーンが起きるわけないだろ。いつものあれで起こすしかないぞ」
「そうだな。よっ!背中の鬼を見せてくれよ」
「その背中の翼で空が飛べるぜ」
これは筋肉を褒める掛け声である。シェーンを起こすには筋肉を褒める掛け声が1番効果的である。
「そんなに私の背中の筋肉を拝みたいのかい!」
シェーンはスクっと起き上がりバック・ダブル・バイセプスのポーズをとる。
「シェーン、今はポージングはいいから俺たちの話を聞いてくれ」
「なんですって!私のポージングを見たいのではないのね」
シェーンは悲しげな目をして座り込む。
「シェーン、落ち込んでいる場合じゃないぜ。周りの様子を見てみろ。俺たちは牢屋に閉じ込められているのだぞ」
「そんなことどうでもいいわ。私はただポージングができればそれでいいのよ」
「そのポージングが原因でこうなってしまったことを、お前はまだわからないのか」
「もしかして・・・またやってしまったの私」
「そうだ、ポジハラをしてしまったのだ」
ポジハラとは無理やりボディービルのポージングを見せたりさせたりするハラスメントの略である。
「これで何度目かしら?」
『肉の壁』のメンバーは、お酒を飲み過ぎるとポジハラをする常習犯であった。
「でも、今回は任務中だったからお酒は飲んでいないわ」
「ああ、しかし、今のこの状況から察すると、俺たちは途中からお酒を飲んでしまったのだろう」
「やっちまったのね」
「そうだ。でも、俺たちはこんなところで監禁されている場合じゃないだろ。いつものように誠意ある謝罪をしに行くぞ」
「そうね」
シェーンが鉄格子をつかんでみる。
「これは、粗悪な鉄格子ね。魔道具を利用していないから簡単に壊すことができるわ」
「そうか。それなら好都合だ。身体強化魔法の得意なお前なら、なんとかなりそうだな」
「そうね。鍛え抜かれた筋肉と魔法の強化があれば、こんな鉄格子くらい簡単い壊すことができるわよ」
シェーンは魔力を全身に流し込み筋力を強化し、鉄格子を両手でつかみ強引にぶち壊そうとした。
「あれ・・・あれあれあれ・・・」
鉄格子はビクともしなかった。
その頃、食事処で眠っていたカリーナが目を覚ました。
「私いつの間に眠ってしまったのかしら?」
カリーナは目を覚まして辺りを見渡してみる。
「誰もいないわ。村人たちはどこへ行ってしまったのかしら?それにせっかく宿を用意してもらったのに、こんなところで寝てしまうなんて、私、かなり疲れていたのかしら」
カリーナは、食事処の玄関のあたりに寝転がっている私の姿を発見した。
「あら?ハツキちゃん。あんなところで眠っているなんて、何かあったのかしら」
私は寝相の悪さでコロコロと転がって、食事処の玄関まで転がっていたのである。もし力の制御の仕方を覚えていなければ、食事処は大破していただろう。
「ハツキちゃん、起きて!」
「もう朝ですかぁ〜」
「そうね。朝なのは間違い無いけど、ここは宿屋じゃないわよ」
「私・・・お腹がいっぱいになったから眠ってしまいましたぁ〜」
「ハツキちゃんは、どこでも寝ることができるのね」
「そうみたいですぅ」
「でも、私もここで眠ってしまったみたいだから一緒ね」
「お仲間ですね」
「そうね。それよりも村人たちが誰もいないみたいなのよ。それに『肉の壁』さんたちも見当たらないわ」
「みんな私たちをおいて帰ったのかしら?」
「そうかもしれないわね。『肉の壁』さんたちは自分たちだけ宿屋に戻ったのかもね」
「平穏な村ですね」
「そうね。外に出て村人に『肉の壁』さんたちが、どこの宿屋に泊まったのか確認してみるわ」
「ちょっと待ってカリーナさん。何か下の方から声が聞こえないかしら」
「本当だわ。なんか激しい息遣いが聞こえるわ」
私たちは床の下から何か『はぁ〜はぁ〜』とか『うぉぉ〜うぉぉ〜』など不気味な声を聞いた。
「もしかして・・・幽霊かしら」
「そんな怖いこと言わないでよ。全ての村人が魔獣に食い殺されて、幽霊の住む村になったなんて話もあるくらいだから、本当に怖いのよ!」
「カリーナさんは幽霊が苦手なんですね」
「当たり前よ。幽霊に遭遇するくらいなら魔獣や盗賊に出くわしたほうがマシよ!」
「カリーナさん、幽霊なんて作り話ですよ。そんなに怖がらなくても幽霊なんていませんよ」
「わかってるわよ。ハツキちゃんが私を怖がらせるようなこと言うからいけないんじゃない」
「ごめんなさい。でも、いったいなんの声なのかしら」
「ハツキちゃん。そこに地下に降りる階段があるみたいよ」
私とカリーナは恐る恐る地下に通じる階段を降りて行った。
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