第35話 風前の灯火
「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね!今回は1人で王都まで行くので退屈だと思っていたけど、ハツキちゃんと一緒なら楽しく王都まで行けそうね」
カリーナは私が同行することにとても喜んでくれた。
「お!あの時のお嬢ちゃんじゃないか。あんたも王都に一緒に行くのかい?」
『肉の壁』のムスケルが声をかけてきた。
『肉の壁』Cランク冒険者
リーダー シェーン 金髪ソバージュヘアーの細身のグラマナスな女性。ギリシャ彫刻のような美しい肉体美でビキニアーマーを装着している。肉体強化の魔法を得意とし、拳にメリケンサックをつけてのガチンコ勝負を得意としている。
ムスケル スキンヘッドの強面の男性。身長は1m90cmでボディビルダーのように筋肉モリモリの体型である。常に上半身は裸であり大きなハンマーを使いこなす。魔法を武器に流し込む魔法武器の使い手である。
ニーゼン 同じくスキンヘッドの強面の男性だが、ふさふさの顎髭を蓄えている。身長は2mとムスケルよりも大きく、体型も相撲取りのような筋肉と脂肪の塊のような体型をしている。常に上半身は裸であり大きな金棒を使いこなす。魔法を武器に流し込む魔法武器の使い手である。
「おひさしぶりです、ムスケルさん。私、王都にある専門魔法学院の面接に行くのです」
「そ・・・そうか、頑張りなよ」
『肉の壁』のメンバーは私が魔力量が0なのを知っている。なので、絶対に専門魔法学院に受かることはないと思っている。
「お嬢ちゃん、気合いだ!気合があれば叶わぬ夢も掴み取れるはずだ」
ニーゼンが目頭を熱くしながら私にエールを送る。
「何事もチャレンジすることが大事なのよ!だから失敗してもいいのよ。もし面接に落ちたとしても、頑張った自分を褒めてあげるのよ」
シェーンは私が面接に落ちることを前提で励ましてくれた。
「はい。頑張ります!」
私は笑顔で元気よく返事をする。そして、馬車の中へ入って行く。私の姿が見えなくなると、『肉の壁』のメンバーは円陣を組み出した。
「わかっているわね」
「もちろんだ!今回の本当の目的はギルマスの護衛ではない。お嬢ちゃんが面接に失敗した時の対処をすることだ」
「そうだ。お嬢ちゃんは魔力量が0なのに、あの入学するのが難しいシュテーネン専門魔法学院の面接を受けに行くと決断したのだ。100%無理だとわかっていても・・・しかし、チャレンジする姿勢は素晴らしいことだ。俺たちができることは何もない。しかし、面接に落ちた時に俺たちが側にいて、お嬢ちゃんを励ますことはできるはずだ」
「そういうことね。私たちの今回の任務はお嬢ちゃんに、結果よりも大事なものがあるってことを教えてあげることだわ」
『肉の壁』のメンバーが私のことで熱く語り合っている横で、『風前の灯火』のメンバーが内密の話をしていた。
「俺たちの任務はマグノリアの村に誘い込むことだ。『肉の壁』は脳筋馬鹿だから問題ない。ギルマスに気づかれないように誘導するぞ」
『風前の灯火』は盗賊ギルドに雇われた冒険者であった。『風前の灯火』のメンバーが不穏な話をしている時、私はカリーナさんに冒険者証を自慢していた。
「カリーナさん、実は私は冒険者なのですよ」
「本当に!全然強そうに見えないわ」
「私ねぇ〜こう見えて実は強かったりするのよ」
「本当に?冒険者証見せてもらえるかしら」
「いいわよ」
私は冒険者証を自慢げに見せた。そして、親指で注意事項をうまいこと隠すことに成功した。
「まだ冒険者になりたてなんですね。いずれすごい冒険者になることを期待しているわ」
「もちろんよ」
王都への道のりは安全な公道を通るので、特にトラブルもなく日が暮れる前に王都への中間地点にある小さな村に着いた。
「あれ?ここはブリガントの村じゃないわ」
「カリーナ様、冒険者ギルドマスターのアーベンから、ブリガントの村でなくマグノリアの村に行くように指示があったらしいので、マグノリアの村に来たらしいです」
「そんな話、私は聞いていないわ」
「おかしいですね。『風前の灯火』からは前もってカリーナ様に連絡をしていると聞いていましたが」
「『風前の灯火』はどこにいるの?」
「あいつらなら宿屋の手配をしてくると言って、先に村に入って行きました」
「今からブリガントの村に戻ることはできるかしら?」
「それはやめておいた方がいいでしょう。もう日が暮れます。夜の移動は魔獣や盗賊たちの格好の餌食になってしまいます。いくら公道が安全といっても夜の移動はお勧めできません」
「わかったわ。今日はここに泊まることにするわ」
カリーナは少し違和感を感じたが、無理して夜に移動することの方が危険だと感じてマグノリアの村に入ることにした。
「ようこそマグノリア村へ!『風前の灯火』様からお話は聞いております。この村で1番の宿を用意させていただいておりますが、宿屋に泊まる前に、お腹は空いていないでしょうか?この町1番の美味しい料理を提供する食事処を紹介したいと思いますが、どうでしょうか?」
「『肉の壁』さん、お腹は減っていますか?」
「ああ、ペコペコだぜ」
「俺もだぜ」
「私もね」
「ハツキちゃんはどうする?」
「私もお腹が減ってきましたわ」
「みんなお腹を空かしているみたいだし、宿より先にご飯にしようかしら」
「どうぞ、ご案内いたします。馬車はこちらでお預かりしましょう」
「いや、馬車は常に側に置いておいてもらうぞ。何かあったらたまったもんじゃねぇ」
「この村では盗みをする者などいませんよ。でも、それほど心配でしたらそのまま馬車も一緒に案内させていただきます」
「ちょっと待ってくれ。俺たちが馬車を見張っておいてやるぜ」
『風前の灯火』のメンバーが戻ってきた。
「あなたたち、なんで私に断りもなく別の村に来たのですか!」
「えっ!言ってませんでしたか?」
「聞いていませんわ」
「おい、カミーラ。お前アーベン様からの報告をカリーナ様に言ってなかったのか?」
「俺は、カイトが言っているものだと思っていた」
「俺はジルが報告していると思っていた」
「カミーラ様、申し訳ありません。私たちパーティー内で誤解があったみたいです。私たちはギルドマスターであるアーベン様より、より安全に積み荷を届けるようにブリガントの村でなくマグノリアの村に行くように言われていたのです」
「マグノリアの村なんて聞いたことはないわ?知らない村に来る方が危険だわ」
「だから安全であるとアーベン様が言っておられました。今各々の町で王都へ向けて大量の魔石と素材が運搬されているとの情報が届いています。正規ルートで行くことはかなり危険だとアーベン様は想定したのでしょう」
「もう今さら話あってもどうしようもないわね」
「申し訳ありません。私たちが馬車の監視をしているので、カリーナ様はお食事を楽しんでください」
「・・・わかったわ」
カリーナは少し嫌な予感を感じたが、『風前の灯火』に馬車の監視を任せることにしたのであった。
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