第25話 名探偵ハツキ

 「ハツキさん、先ほども言いましたが、英雄ランクの魔石は私どもでは取り扱いできません。英雄ランクの魔石で魔道具を作ることができるのは王国専属魔道技師だけですわ」


 「そうだったわね。でも、魔道具を作るのがダメなのであってただの宝飾品としての加工なら問題ないんじゃないのかしら」


 「確かに、魔道具としての加工をせずにただ魔石をブローチにするだけなら、問題はありません・・・が!魔石を魔道具として加工せずに宝飾品にする人なんていないわよ!」


 「ここにいるわよ!」



 私は魔法が使えない魔力量0の人間である。魔道具とは魔石と素材を加工し組み合わせて作る道具や装備品などのことで、魔道具を使うには基本魔力が必要である。なので、魔力量0の私にとって魔道具とは猫に小判であり豚に真珠である。



 「ハツキさん、本当にいいの?」


 「いいのよ!私にとって英雄ランク魔石とかどうでもいいの。ただこの綺麗な魔石を麦わら帽子につけたら、とっても似合うと思っただけなのよ」


 「ハツキさんがそれでいいのであれば、私がとやかく言う権利はありませんが・・・」



 アイリスは渋々ブローチを作ってくることを了承してくれた。私はアイリスに作ってもらったブローチを麦わら帽子に付け、もう一つをプリンツの首のあたりにつけてあげた。



 「プリンツちゃん、とても似合っているわ」


 「これは・・・バンビーノお兄ちゃんの魔石なのだ」


 「そうなの?どっちがどっちか全然わからないわ」


 「アンファンお兄ちゃんのが方が強いから、少しだけバンビーノのお兄ちゃんの魔石の輝きが薄いんだ」


 「そう言われると・・・いえ、やっぱりわからないわ」



 どちらの魔石を見ても輝きは全く変わらない。それに私にとってはどうでもいい区別であった。しかし、プリンツはバンビーノにとても可愛がられていたようで、バンビーノの魔石をもらえてとても嬉しそうに部屋の中を走り回っていた。





 次の日、私は朝食を食べて部屋に戻りこれから何をしようか考えていた。思いのほかすぐに怪力の制御をマスターしたので、せっかく手に入れた冒険者証を使って、魔獣を退治する必要もなく暇であった。


 セリンセは午前中は勉強中なので一緒に遊ぶことはできないし、ヘンドラーもアイリスも仕事で忙しくしている。屋敷で何もせずにゴロゴロしているのは私とプリンツだけである。



 「暇だわ。私このままだとひきこりになってしまいそうだわ。何かしなきゃだめだわ。あ!そうだわ。皆さんの仕事の手伝いをしようかしら?ヘンドラーさんもアイリスさんもすごく忙しそうにしているから、何か手伝ってあげようかしら」



 私は仕事の手伝いをすることにしたので、ヘンドラーのいる執務室に向かった。しかし、私は執務室に向かう途中で見てはいけないものを見てしまった。それは、ヘンドラーが背の高い赤髪ショートカットの綺麗な女性と、親しげに2人で執務室に入って行くところであった。



 「これは・・・危険な関係ですわ。あんなに鼻の下が伸びた姿のヘンドラーさんを見たことがないわ」



 いつもと違ってヘンドラーの顔が、デレデレとニヤけているように私は感じたのである。



 「アイリスさんのために私は、ことの顛末を知る義務がありますわ」



 私は執務室のドアに顔をべったりとくっつけて、2人の話の内容を確認することにした。



 「全然聞こえませんわ」



 執務室では大事な商談をすることも多いので防音効果は抜群である。



 「ちょっと、穴を開けてみようかしら」



 私は頑丈な体と人並外れた怪力があるが、聴力は人並みであった。なので、怪力を利用して、執務室の扉に穴を開けて、2人の会話がよく聞こえるようにすることにした。



 「ハツキさん・・・そこで何をしているのですか?」



 私に声をかけてきたのは執事のルフトクスである。



 「ちょっと・・・暇だったので・・・ド・・ドアの掃除でもしようかなって思ったのよ」


 「そうですか・・・ハツキさんは大事なお客様とご主人様から聞いております。ドアの掃除は私たち使用人がいたしますので、ハツキさんはお部屋でゆっくりと休んでいてください」


 「そうしたいのはやまやまなのですが、ちょっと気になることがあったのよ」


 「どのようなことでしょうか?」


 「今から私が言うことは絶対に内密にしてくださいね。特にアイリスさんには絶対に言わないで欲しいわ」


 「わかりました」


 「実は、ヘンドラーさんが浮気をしている可能性があるのよ!」


 「何を言っているのですか?そんなことはありません」


 「そう思うでしょう。実は私は見てしまったのよ!執務室に入るヘンドラーさんと赤毛の綺麗な女性をね。とても親しげにしていたから絶対にお客ではないはずよ」


 「・・・それで、ドアに聞き耳を立てていたのですか?」


 「あれ?バレていたのね」


 「あまりに不自然な格好をしていましたので」


 「バレてたらしょーがないわ。でも、私はアイリスさんのために危険を承知でやっているのよ」


 「奥様を心配して下さるのは、執事としてお礼を申し上げますが、旦那様は浮気などしていません。執務室に入って行った女性は商業ギルドマスターのカリーナさんです」


 「えっ!でも、ただならぬ関係に見えましたわ。あの、ヘンドラーさんが鼻の下を伸ばしてデレデレしてましたわ」


 「確かにそのような態度はとるでしょう。カリーナさんは旦那様の歳の離れた妹さんですから、目に針を入れても痛くないくらいに可愛がっています」


 「そうだったんですかぁ〜」



 私は思わず執務室の前で大声で叫んでしまった。



⭐️25話まで読んでくださってありがとございます。よろしければ⭐️⭐️⭐️で評価して下さると嬉しいです。




 

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