第20話 地獄の爆炎球
私がお昼寝している木の下に集まったオークの数は100体以上、私を中心にオークがステージ上のアイドルを応援するかのように取り囲んでいた。そして、私を見下ろすように側で立っているのがオークキングである。
オークキングは私が背にしている木と同じくらいの高さがあり、私の顔をまじまじと睨んでいる。
「本当にコイツがお前の牙を折ったのか?」
「そうです。私だけではなくオブルンゴの牙も折ったのです」
オブルンゴはまだ牙が折れたショックで泣いている。
「確かにオブルンゴの牙も折れている。しかし、こんな華奢な子供が俺たちの牙を折るなんてありえないだろう」
「本当です。その女の腕に噛み付いたら私の牙は折れてしまったのです」
「本当かどうか俺が試してやる」
オークキングの牙は普通のオークの3倍ほどの大きさがある。その長さは15cmほどで他のオークの牙は白いのだが、オークキングの牙は金色に美しく輝いている。
オークキングは大きく口を開けて私の胴体にかぶりついた。
『ポキン』
オークキングの牙は大きな音を立てて折れてしまった。
「このガキがぁ〜俺の大事な牙を折りやがって!無事で帰れると思うなよぉ〜」
これは完全に逆ギレである。
オークキングはマルタよりも太い腕で私を何度も何度も殴りつける。しかし、私はスヤスヤと気持ちよく昼寝をしている。
私の体には傷一つついていないが、私が背もたれにしていた木は砕け散り、地面にはオークの拳型の大きな穴がたくさんできていた。
「俺のパンチを全て避けたのか?違う・・・」
オークキングは自分の拳を見る。するとオークキングの指は変な形に折れ曲がっていたのである。
「ぐおぉぉ〜〜」
オークキングは断末魔のような叫び声をあげる。その声は静かなオークの森の全域に響き渡るほどの大きさであった。オークキングは無我夢中で私を殴っていたので、自分の指、手の甲などの骨が全て砕けたことに気付いていなかったのである。そして、自分の拳を見たときに現実を知り激しい痛みが体を突き抜けたのであった。
「コイツを殺せ!肉片一つも残すな」
オークキングは集まった全てのオークに指示をする。オーク達はヴォルフ族との戦争用に、マルタに抜け落ちた牙を刺した武器を用意していた。オークの牙は一っヶ月に一度抜けてすぐに新しい丈夫な牙が生える。オーク達はその抜け落ちた牙をマルタに突き刺して武器にしている。しかし、オークの牙は物理的に壊されると栄養神経が破壊されて、2度と生えることがないのである。
オーク達は丸太を振り上げて私を執拗に殴りつける。しかし、用意された全てのマルタは壊れてしまった。私は100体以上のオークにマルタでタコ殴りされていたので、ようやく異変に気づいたのである。
「プリンツ、お昼寝の邪魔をしないでよ」
私はプリンツを軽く叩く。もちろんプリンツではなくオークである。私は筋肉に力を制御するように伝えているので、私の力はか弱い女の子程度の力である。
「こいつ、攻撃力は全くないぞ」
オークの1人が叫ぶ。
「しかし、俺たちの武器は全て壊れてしまったぞ」
「キング様どうしますか?」
「コイツの体は頑丈みたいだが、攻撃力は恐るるにたらずだ。魔法を使ってコイツの体を焼き尽くせ!」
「キング様、魔法を使える部隊はまだ到着していません」
オークで魔法を使える物は少ない。この森には2000体ほどのオークが生息しているが、魔法が使えるの100体ほどである。
「少し距離を取るぞ。全部隊が到着するまで様子を伺うぞ。
オーク達は私から100mほど離れて行った。そして、30分後オークの森の全てのオークが、私の周りを埋め尽くしていた。私はそんなことも知らずにまだスヤスヤと眠っている。一方プリンツはオークの森に到着していたが、体長を1cmほどにして身を隠して震えていた。
「ハツキお姉ちゃん・・・僕は・・・僕は・・・お役に立てなくてごめんさない」
いくら勇敢なヴォルフ族のプリンツでも、オーク2000体を目にしてビビり倒しているのであった。
「やっと到着したな、魔法部隊よ。あそこで俺たちを威嚇している女を焼き尽くせ」
「キング様、あの女は寝ているだけではないのでしょうか?」
「馬鹿野郎!あの女は寝たふりをして俺たちを監視しているのだ。あいつの合図で何万という人間達の軍勢が襲ってくる可能性がある。いや、もしかしたら、腕利きの冒険者達の到着を待っているのかもしれない。今がチャンスなのだ。あの女が応援を呼ぶ前に焼き殺してしまえ」
「わかりました。対ヴォルフ族用に訓練した魔法部隊の力をここでお見せしましょう。危険ですので皆さん離れてください」
魔法部隊の指示通りにオーク達は500mほど遠くに離れていく。そして100体ほどのオークが杖を構えて何か呪文のようなものを唱えた。すると、杖から大きな炎が現れた。そして、100本の杖から現れた大きな炎が合体して、空を覆い隠すような大きな炎が私の上空に出来上がった。
「キング様、これが対ヴォルフロード用に魔法部隊があみ出した『地獄の爆炎球』です」
「これは素晴らしい。これならアイツも一瞬で消滅するだろう」
地獄の爆炎球の激しい熱風により、そこらは灼熱地獄のような暑さに覆われていた。
「早く放て!このままでは俺たちの森が燃えてしまうぞ」
「わかりました。いけ!地獄の爆炎球よ」
魔法部隊のリーダの掛け声とともに地獄の爆炎球が私に目掛けて落ちてくる。爆炎球は私にぶつかると同時に大爆発を起こした。私が寝ていた場所に直径100mほどの大きな穴ができ、その穴は火山の噴火口ように炎の柱が生き物のように燃え上がっていた。
「やりすぎだ・・・」
オークキングはボソリとつぶやいた。
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