第19話 ポキン
私は自分の肉体と語り合うことで、自分の怪力が制御できることがわかった。私は血の滲むような激しい特訓をするつもりで意気込んで冒険者になったが、あっけなく怪力の使い方をマスターしてしまった。
「もう怪力の使い方はわかったわ。せっかくオークの森に来たけど・・・どうしようかしら?」
私は木の下に座ってプリンツが来るまでどうするのか考えることにした。
「でも、全力で走るのってとっても気持ちが良かったわ。それにこんなに長い距離を全速力で走ったのに息が切れることもないわ。なんて丈夫な体なのかしら」
ここは町から100Km離れたところでオークがたくさん生息している森である。オークとは猪のような顔をした魔獣であり、体長は2mほどで屈強な体をしていてかなり凶暴な性格をしている。オークは人間や自分より弱い魔獣を捕食して生活している。町や村の近くにオークが現れるとギルドから討伐依頼が出される。
オークの森にはたくさんのオークが生息しているのでかなり危険な場所なので、冒険者すら近寄ることはほとんどない。オークの2本の大きな牙は、鋼のように硬くかなり貴重な素材であるとアイリスから聞いていた。
「怪力の使い方はわかったわ。せっかくここまで来たのだから、プリンツが到着したらオークの牙でも採取しようかしら」
私がのんびりと木陰で休みながら、そんなことを考えている姿を少し離れた森の奥から監視するものがいた。もちろんオークである。
「人間がいるぞ」【オーク語なので人間には何を言っているのかわからない】
「こんなところに人間が来るなんて珍しいな」
「ホントだぜ。人間の肉は柔らかく甘味があって最高の食材だ。特に女の肉は上質で最高の品だ」
「キング様に献上すれば俺たちも褒美をもらえるかもしれないぞ」
「そうだな。しかし、少しくらいは味見はさせてもらうぞ。俺は右腕をお前は左腕を食べろ」
「美味すぎて全部食べてしまいそうだけどな」
「その気持ちわからんではないが、キング様に献上するのが目的だ。そのことは忘れるなよ」
「わかったぜ」
オークは私に気づかれないように気配を消してじわりじわりと近づいてくる。
「プリンツちゃんまだかしら?心地よい風に背中のツボを刺激してくれる木の感触、まさにお昼寝日和だわ。私の肉体ちゃん寝相が悪くてもこの木を破壊しないでね」
私は肉体にお願いして少しお昼寝をすることにした。私がちょうど眠ると同時に2体のオークが私の腕にかじりついてきた。
『ポキン』
オークの自慢の牙が簡単に折れてしまった。
「なんて硬い皮膚をしているんだ!」
「俺の・・・俺の・・・牙がぁぁ〜」
一体のオークは私の皮膚の頑丈さに驚き、もう一体のオークは自分の牙が折れて泣き叫んでいる。
「オブルンゴ、泣いている場合じゃないぞ」
「だって、だって、俺の牙が・・・」
「冷静になれ、俺たちの牙が折れるなんて考えれない。俺たちの牙は鋼と同等いやそれ以上の硬さを誇るはずだ。それがこんなに簡単に折れるなんてありえないぞ」
「俺の牙が・・・俺の牙が・・・これでは俺は結婚できなよぉ〜」
オークの牙は男の魅力の証である。牙鋭く艶があるほど女のオークにモテるのである。
「今はそんなことを考えている場合じゃないぞ。近々ヴォルフ族と戦争をする準備をしていたのに、こんなところに俺たちの牙を砕く人間が現れた。もしかすると、人間たちが放った刺客かもしれない。すぐにキング様に報告行くぞ」
「俺の牙が・・・俺には好きな女の子がいたのにぃ〜」
1体のオークはオークキングの元に走っていき、もう一体のオークは涙の水溜りを作りながら泣き喚いてた。しかし、そんな環境の中でも私は気にせずに眠りについていた。
「キング様!大変です」
オークキングは普通のオークのよりも大きく3mほどあり、体つきも大きな樽のような楕円形であるがほとんが筋肉でできている。
「お前・・・牙はどうした」
「折られました」
「まさか・・・ヴォルフロードが攻めてきたのか?」
「違います。人間の女が1人で攻めてきたのです」
「・・・」
「本当です。私を信じてください」
「確かに人間は魔法を得意として、俺たちを倒す者もいる。しかし、オークの森に人間の女が1人で乗り込んでくることはありえない。もし、お前が言っているのが事実ならば、人間たちは万の軍勢を率いているか、腕利きの冒険者たちを集めているに違いない」
「そ・・・そうかもしれません」
「今この場にいる全員を集めろ。デポレ、お前はこの森に住むオーク全員に戦争を始めると伝えろ。幸いにもヴォルフ族との戦争に備えて準備はできているはずだ。ヴォルフ族との戦争は延期して、まずは攻めてきた人間どもを皆殺しにしろ」
こうして、私が寝ている間にとんでもない事態になっていたのである。
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