【第四夜 軌跡】
目蓋を閉じた祖母の、その軽い痩躯を、そっと抱き上げる。ブランケットを掛けた程度では、眠るには冷えるだろう。
私は、祖母をベッドへ運び、ゆっくりと横たえた。そこで気付く。
祖母は穏やかに微笑んだまま、既に息をする事をやめていた。
満月の光を眼鏡のレンズが反射し、悲しみの跡を優しく隠す。
込み上げる嗚咽を堪え、床に置いた鞄を手繰り寄せ、私はベッドの横に座り込んだ。
中から取り出したのは、一冊の分厚い日記帳。
何年か前に発見した祖父の手記には、祖母と出逢ってから亡くなるまでの日々が書き連ねてある。
それを、本来なら祖母に返すべきだったのだろうが、私にはその判断がつかず、祖母の元へ行く際には必ず持ち歩いていた。
ぱらり、と最初の頁を捲り、二人の軌跡をもう一度辿る。
*
祖父は天文学者であった。
月を専門にしており、未発見のクレーターを見付けることを志していた。
もし発見できたなら、祖母の名をつけることを約束していたと言う。
その夢が叶ったか否かを、私は知らずにいる。それは二人だけが交わした約束なのだから。
共に月という存在に焦がれた者同士、今は空を歩いているのだろう。
今夜、ベランダに降り注ぐ月明りは、とても穏やかであった。
月の光が降る夜に お白湯 @paitan
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