第55話 学年最強の座
「よし、その槍で俺を突いてくれ」
俺は神宮寺にケツを突き出しながら言った。
「意味が分からないよ」
「俺はHPが減ってた方が実力が出せるんだよ。ひと思いにやってくれ」
観客席の裏に回り、俺たちはレベルを隠すための策謀を巡らせていた。
30%くらいのデバフじゃ気休めにしかならないが、これでHP以外はかなり下がる。
それでも異様過ぎるステータスだが、何もしないよりははるかにマシだ。
花ケ崎にアサシンを向けられるようなことはなんとしても避けたいから、もしもの時は俺が倒すしかないので、筋力だけは下げておきたい。
わざと倒されるような真似をすれば、HPからかなり正確なレベルがバレてしまうので、負けるわけにもいかなかった。
瀕死の大怪我で闘技場にあがるわけにもいかないしな。
これで一条あたりが俺の一撃に耐えてくれたら、かなり誤魔化せるはずだ。
武器は用意してあった普通の打ち刀を使う。
急にケツが激痛に襲われた。
「いってえ」
さすがに割合ダメージ付きの槍だから、めっちゃくちゃ痛い。
「あたり前じゃん」
「だが、もっとだ」
そう言って俺は神宮寺にケツを差し出した。
ステータスが三割さがったところで、俺たちはパーティーを組みなおして観客席に戻った。
最初に凄惨な試合があったせいか、みんなわりとあっさりギブアップするので、試合はどんどん進んでいく。
俺たちの最初の対戦相手はBクラスだった。
盾を持った男が突っ込んでくるので、神宮寺に相手をさせながら俺は後ろに回り込んだ。
飛んできた魔法をスペルシールドで防ぎ、神宮寺が弱らせた盾持ちを俺が攻撃すると、その男は一発で場外へと飛ばされていった。
まわりからどよめきが起こる。
残りの二人は、それだけであっさりとギブアップしてしまった。
「やっぱり高杉って攻撃力が高すぎるよね」
神宮寺がそんなことを言いだす。
「武器がいいんだろ」
「ふーん」
一回戦が終わったら、かなり絞られてきたようで、Dクラスで勝ち残っているのは一条たちと伊藤たち、それに二ノ宮のパーティーだけになっていた。
そこで昼食となって、いったん解散となった。
昼食を食べて集合場所に戻ると、最後の組み合わせが発表された。
一回戦を勝ち残った中で、見込みアリとされたパーティーだけが残されたようだ。
最初の対戦は一条のパーティーと魔眼使いのパーティーだった。
本当なら、魔眼使いが一条と戦うのは二学期に入ってから、対校戦の出場枠をかけて揉めた時だったはずだ。
ずいぶんと前倒しになっている。
どっちが勝つのかと思って見ていたら、やはり瑠璃川がいる分だけ一条が有利に戦いを進めていた。
魔法はかなり見切られてしまうが、アサシンの回避力の前では魔法職が不利になる。
どちらもギブアップする気がないから、両陣営ともボロボロになるまでやり合って、なんとか一条が勝利を収めた。
あの魔眼の男は、俺が直々に倒してひとこと言ってやりたかったが、場外に飛ばされて手当てを受けているからそれもできない。
「どうするのよ。優勝してしまってもいいの」
「HPを知られる方がまずいから勝つしかない」
「そうなの。面倒ね」
俺たちの二回戦の相手は、やはりAクラスの貴族を集めたパーティーだった。
普段は手下と組んでいるのだろうが、今日だけは貴族同士で組んだようである。
観客席からは歓声が上がり、ずいぶんと周りは盛り上がっていた。
手当てを受け終わった一条が闘技場から降りてくる。
その表情はAクラスに勝ったのに、誇るでもなく、余裕のある表情だ。
「決勝で会おう」
すれ違った一条がドヤ顔でそんなことを言う。
俺は、やかましいわと思いながら横を通り過ぎた。
「頑張ってくださいね」
一回戦で早々に負けて、観客席に座っていた西園寺が言った。
最前列まで確保して、この茶番を心の底から楽しんでいるようだった。
俺はため息をつきながら通り過ぎて闘技場にあがる。
Aクラスの三人は槍、槍、盾だった。
試合開始とともに、神宮寺が駆けた。
「はああああッ!」
先頭の男に近接し、そのまま刺突から三段突きを放つ。
四回目の攻撃に合わせて、俺が攻撃を入れると盾を持っていた男は場外に飛ばされていった。
これで誤魔化せているのだろうか。
神宮寺の槍では大した傷すらできていないだろうに、俺の方の切り傷は大きく開いているはずだ。
その後も神宮寺が攻撃を入れたところを狙って、俺はふらふら近づいて行って攻撃を入れ続ける。
目くらまし程度で放ってきた魔法が神宮寺に当たったところで、花ケ崎から過保護とも言えるヒールが入った。
最後の一人が場外に飛ばされると、終了のブザーが鳴った。
「ねえ、やっぱりキミの攻撃力おかしくないかな」
「そんなことない」
残りのチームは、拮抗した試合だったからなのか、勝ったほうも次は戦わなくていいと言われて、けっきょく俺と一条のチームだけが残った。
この感じだと一条に勝っても難癖をつけて、俺の力を正確に測ろうとするんじゃないかという気がする。
その時は、なにか適当に言い訳して逃げよう。
「リベンジさせてもらう。全力でぶつからせてもらうよ」
やる気になっている一条に、八百長を受け入れてくれそうな感じはない。
「結果は同じだろ」
「そうはならない。秘策があるからね」
そう言って一条はにやりと笑った。
じゃあ、その秘策に期待しようかと、俺は名前を呼ばれて闘技場にあがった。
すぐに勝負開始のブザーが鳴る。
「どんな秘策があるんだ」
「あの時は、いったい何をされたのかもわからなかった。考えた結果たどり着いた答えは、これだッ」
そう言って一条は、手の中に握り込んだ何かを地面に投げた。
それを見て、隣りにいた瑠璃川も同じ動作をする。
見なくてもわかる。
アサシンのスキルであるダイスを使ったのだろう。
「6が出たわ。これで高杉を狙えばいいのよね」
「ああ。俺は4だが、これなら十分だ。今度は、こっちがコレを使わせてもらうからな!」
ふさけやがって。
そんなものを使われたら、間違っても攻撃を受けるわけにはいかないじゃないか。
「覚悟しなさいよ」
瑠璃川が不敵に笑う。
「それはこっちの台詞よ。手加減はできないからね」
そう言って、一条が何をしたかも知らない神宮寺が突っ込んでいくが、風間のボルトスパークを受けて、そのまま倒れ込んだ。
その神宮寺を飛び越えて、一条と瑠璃川が俺をめがけて突っ込んでくる。
先に飛び込んできた瑠璃川を足を引っかけて転がしボルトを放って動きを止め、その隙に一条の方に一撃で倒れてくれるなと願いながら攻撃を入れた。
そしたら一条は地面に激突して砂埃をあげながらすっ飛んでいった。
さすが主人公である。
俺の攻撃に耐えた一条を見た瞬間、飛び上がってしまいそうなほど嬉しかった。
これでもう何も恐れるものはない。
地面に倒れている瑠璃川を踏んづけたら、背中に剣先を突き付けて俺は言った。
瑠璃川の背中は思ったよりも柔らかかった。
「ギブアップしたらどうだ」
「く、くそ。まだ勝てないのか。ぎ、ギブアップだ」
「ヤメ! よし、そこまでだ」
一仕事終えたなと思う間もなく、まわりから大歓声が上がった。
レベルを隠すことには成功したはずなのに、なぜか学年の勝ち抜き戦で優勝してしまっていた。
学年最強の座は、二学期における主人公の敵役の座でもある。
そのことに気づいたら、なんだかどっと疲れが出て来た。
軍人たちは、集まってなにやら相談をしている。
俺が闘技場から降りると、拍手で迎えられた。
あれほど険悪だったAクラスの生徒すら、魔眼の男を含めて拍手しているではないか。
強さこそすべてというのが学園のルールなのだから、そういう事なのかもしれないが、ちょっと納得できない。
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