第12話 決着



「行くぞっ!」


 いきなり一条が仕掛けた。

 Cクラスの魔導士である桐山は、一条の片手剣による突きを顔面に受けたが、わずかに顔をのけぞらせながら一歩後ずさっただけだった。

 初めから最初の一撃は避けるつもりがなかったようだ。


 そのパフォーマンスだけで、まわりは息を詰まらせて応援の声も止まってしまった。

 リングのおかげかステータスのおかげか、やはりかなりの耐久があるらしい。

 一条の武器のレアリティでは桐山の持つリングの防御力を抜ききれそうにない。


「まあ、こんなもんか。よく聞け、こいつらの手助けをしたらそいつもぶちのめすぞ。余計なことはしないで、そこで見ているんだな」


 たしかに外野からのヒールが入ったりしたら、桐山からしてもうざったいだろう。

 このままDクラスが委縮してしまったら、一条たちに勝ち目はなさそうだ。

 俺は第二階位まで成長していたバフを、一条に向かって掛けた。


 一条の体が淡い光に包まれて、強靭と瞬身の覇紋による身体強化と移動速度上昇の効果が付与される。

 その光を見て桐山が舌打ちした。


「誰だ! 今の魔法を使った奴は、かならずぶち殺すからな!」


 なにやら吠えているが、俺が使った事にも気づいていない。

 せっかくだから、このまま黙っていよう。

 あとは無詠唱のヒールでも使っていれば、一条たちが負ける心配もないようだ。

 しかし俺のヒールなしで勝てないようじゃ、この先のストーリー展開が思いやられる。


「助かる! それじゃあ、いくぞッ!」


 一条は、また桐山に向かって駆けた。

 風間とロン毛によるカマイタチとフレイムの魔法が、一条の剣より先に桐山に襲いかかる。

 桐山は腕を交差するようにして魔法に耐えると、一条の剣を杖でガードした。

 やはり魔法耐性はかなりの装備を揃えているようだった。

 そして風間たちに向かってフレイムバーストの魔法を放ち、まわりにいたクラスメイトを巻き込んで炎を炸裂させた。


 同時に一条は杖で横殴りにされて吹き飛ばされた。

 炎に巻き込まれた生徒たちからは悲鳴が上がり、火だるまになった生徒たちが転げまわっている。

 ロン毛の方は魔法をまともに受けて、戦意を喪失したのか表情がさえない。


 それでも一条と風間は攻撃を続ける。

 最初は余裕を見せていた桐山の表情にも、焦りの色が見え始めた。

 マナポーションを煽って、フレイムバーストを自分の足元に炸裂させた。

 自分やパーティーメンバーにはダメージが入らないので、範囲魔法の使い方としては一般的だ。


 避けることもできずに、一条の周りは炎に包まれる。

 火柱が消え去って地面が燃え始めると、一条の攻撃にも冴えが無くなる。


 HPが減っているのを気にして、一条は桐山の杖から逃げつつポーションを使った。

 しかし、それは場所が悪い。

 ちょうど風間と近接した場所だったために、範囲魔法に巻き込める位置だ。


 桐山はその隙を見逃さずにフレイムバーストを放って、風間と一条が吹き飛ばされる。

 一条の方がダメージが大きいのか、ふらついている隙に、桐山はさらに追撃のフレイムランスの魔法を放つ。

 単体攻撃上位魔法は、目にもとまらぬようなスピードで、まるで吸い込まれるように一条へと迫った。


 勝負あったかと思われたが、爆風が起きた時には横から割って入った風間が一条を庇うようにして盾になっていた。

 風間の方は、それで吹き飛ばされて気絶状態になってしまったのか、動かなくなった。

 それで怒りをあらわにした一条は、無謀にも一直線に桐山へと向かっていく。


 しかし、後衛がいなくなったことで集中力が生まれたのか、一条は桐山が使うフレイムの魔法を避けながら攻撃を当てるようになった。

 敏捷の数値が高いのを活かして、攻撃の方もそれなりに入っている。

 桐山は苦し紛れに足元めがけてフレイムバーストの魔法を放つが、そのせいでMPが尽きてしまい、マナポーションを使う隙も与えられず、一条に打ち倒された。


 クラスメイト達から歓声が上がって、倒れていた風間に人が群がる。

 風間の方もすぐに動けるようになったようで、命に別状はないようだ。


「くそっ」


 桐山は膝をついて地面を殴った。

 Cクラスのリーダーを倒したことで、4層までの道が開けた。

 クラスメイト達はなだれ込むようにして3層の奥へと入って行った。

 一条も風間に肩を貸しながら、奥へと入っていく。

 その姿を桐山たちが悔しそうな表情で見送っていた。


「それじゃ俺たちも行こうぜ。今日は4層に泊まりでいいだろ」


「そうね。それにしてもCクラスの生徒に勝つなんて大したものね」


 中学2年からダンジョンに入っているとはいっても、中学生にそこまでの無茶はさせていないだろうから、追いつけないような差ではない。

 それになぜか3対1だしな。

 高台から降りて、俺たちも手当てを受けている桐山を横目に奥へと入ろうとした。


「おい、なにもしてないお前が通るのかよ」


 そう声をかけてきたのは、大した怪我もしてなかったのに仲間から手当てを受けていたロン毛である。


「まるでお前が何かしたみたいな言い方だな」


 俺はわざと驚いた風を装って言った。

 こいつがもうちょっと動けていたら、戦いはずっと楽になっていたはずだ。


「ふざけんなよ。こっちは体張ってんだぞ」


「前にクラスの底上げが必要だとか言ってなかったか。俺のレベルが上がらないと困るんだろ。それとも心変わりしたのか。こいつらの真似がしたいなら、俺にかかってくればいいじゃないか」


 俺は治療を受けている桐山を顎で指しながら言った。

 もはやこいつらには負ける気はしないので、そんな奴の言い分など心の底からどうでもいい。


「て、てめえ……」


「おい、やめとけって。こいつ結構強いぞ」


 ロン毛を止めたのは、俺と同じ剣術の選択授業を受けている緑のモヒカンだった。

 最近ではC組の斎藤とも互角にやれているので、それについて言っているのだろう。

 そういえば最近はモヒカンからなにかを言われるようなことはなくなった。

 今は自分がクラスの最下層だと気が付いたのだろうか。

 ロン毛はまだ何か言いたそうにしていたが、俺は無視して奥に向かった。


 ちょっと奥に進んだだけで敵の数が増えて、広場になった場所ではクラスメイト達が10人くらいで協力しながら敵を倒しているところに鉢合わせた。

 まだ3層奥は早すぎたパーティーだろう。


 ほかのクラスメイトは問題なく、さらに奥へと進んだようである。

 俺たちも横を通り過ぎて、さらに奥を目指した。


「こんなことろに三人で来ちゃって大丈夫なのかな。さっきの人たちと合流した方が良くなかった?」


「大丈夫だ。俺がいるだろ」


「ねえねえ、玲華ちゃん。やっぱり無茶だよね」


 天都香は俺の言葉を無視して、花ケ崎に縋りついた。

 心細いのだろうが、ヒーラーのお前がビビってどうするのだと言いたい。

 どうせ戦いもせずに、後ろで見ているだけではないか。

 攻撃魔法の覇紋すらないから、天都香はまだただの一度だって敵を攻撃したことがない。


「貴志が大丈夫だというのなら大丈夫なんでしょう。それに、もしもの時は私が付いているから心配ないわ」


「そうなんだ。よかった」


「なんで俺の言葉は信じられなくて、その能面みたいな顔した女の言う事は信じられるんだよ」


「の、能面ですって……」


「言っとくけど、高杉の評判はよくないよ。みんながスライムも倒せない無能だって言ってたもん」


「スライムが倒せなかった事実はない」


「そうだったかしら。スライムに襲われているあなたを助けた記憶があるわ」


 それはスライムのボスだし、俺のレベルが1だった頃のことだ。


「そんな昔のことはもう忘れたね」


「やっぱりそうなんだ! 落ちこぼれじゃない」


「もと落ちこぼれだ」


 今は余裕の花ケ崎も、そろそろ誰かにレベルで抜かされるだろうことを気にしている。

 それだけ一条たちのレベルをあげる速度は速い。

 もう8か9にはなっているだろうから、花ケ崎と同じくらいにはなっているはずだ。


 そんなことも神宮寺から聞かされて知っているものと思われる。

 4層につく前に敵がわんさか出てきて、多少しんどくなってきた。

 魔法は怖くないが、俺の敏捷はまだまだ低いので、ここまで群がられたら戦いにくい。


 剣闘士のクラスレベルが2になった。

 それと同時に天都香と花ケ崎のレベルも上がったようだった。

 ヘイトを取る前に俺が倒してしまっているので、花ケ崎はアイスクラウドの魔法で、俺に集まってくる敵の移動速度を落としてくれている。


 相変わらず敵の攻撃は食らってしまうが、痛くもないくらいのダメージしかない。

 花ケ崎はもう少しこの階層でやりたいようなことを言っていたが、こんな経験値も入ってこないような場所にはとどまりたくなかったので、俺は4層への階段を見つけたらすぐに降りた。


 4層はオークロードとコボルトだ。

 どちらも魔法を使ってこないので、レベル上げしやすい階層である。

 まわりにはAクラスの生徒たちの姿もちらほらと見える。

 コボルトの素早さにそこそこ苦戦して、もはや大剣を捨てたくなってきた。


 目に見えないほどの素早さで、コボルトは俺の攻撃を回避する。

 ムキになって大剣を振り回していたら、花ケ崎がアイスフロストの魔法で援護してくれた。

 地面が氷に包まれて、水蒸気が冷やされてあたりは霧に包まれたようになる。

 敵は足が凍り付いて一瞬だけ動きが止まるので、その隙を狙うようにした。


「視界がふさがれてやりにくいな」


「そのくらい我慢なさい。しょうがないじゃないの」


 パーティーメンバーに魔法は当たらないようだが、俺をめがけて魔法が飛んでくるのだから遠慮がない。

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