第26話 【閑話】 家族

不味い事になった。


まさか、京子があそこまで力をつけるなんて..


最早、俺はカヤの外だ...


良く勘違いしているが、親父は別に俺を気に入っている訳ではない。


ただ、能力が高いから俺を可愛がっていただけだ...


京子について部下に調べさせたら...凄かった。


完全に負けだ...はっきり言う、白百合は勝てば良い。


その為、身内同士でも騙し合いは許容内だ。


京子を騙した事も、ちゃんと裏をとり調べないのが悪い、それだけの事だ。


勝者が全て、だから俺が京子を騙して陥れるのも許されるのだ。


だが、今の俺はそれでも負けた。


つまり「汚い事までして負けた敗北者だ」


勝てば、「汚い事」は関係ない...だが負けた時には「汚い事までした」それが浮上する。


今の親父の眼中には俺は無い。


次に追い出されるのは多分俺だ。


だが、「白百合製薬はお前に継がせる」


親父がある日言い出した。


だが、その目には昔の様な期待は無い、それに未だに親父もお袋も京子の家に入り浸りだ。


「どうして?」


「京子たちは白百合は要らないそうだ!京子や翼くんに継ぐ気はないかと打診したらな、断られたよ」


「何て言ったんですか?」


「百合を摘むつもりはありません、百合はお兄さまかお姉さまにあげて下さい..私は翼と一緒に他の花を沢山摘みますからだとさ」


「そうですか? それで私ですか? だけど、白百合を手放すなんて馬鹿ですね」


「普通はそうだな!だがな、京子は初代様や二代様と同じだ。一代で行商から白百合を築き上げたそのセンスと同じ物がある!いや、それ以上だ、僅かな期間で既に驚く資産を築いている!私やお前と違って「白百合」すら小さいのだ..」



「それで親父は?」


「私は暫くしたら、社長を引退してお前に譲る。まぁ頑張れよ!」


「親父、親父にとって白百合は全てじゃなかったのか?」


「まぁな、今迄はそうだったが、京子や翼くんが、白百合だけじゃなく沢山の花をくれるそうだから、もう拘らないな」


「そうですか? 負けた、思う存分負けた!だけど、俺は俺のやり方で会社を大きくしてみせる」


「まぁ、気張らずに頑張れ!だが、もしつかれたら京子の所に来ると良い..」


「何故です?」


「妹として接してくれると思うぞ」


あの親父が生き方を変えた、京子、お前は一体どれだけの存在になったんだ。



◆◆◆





「お母さま、どうしたのですか?」


「今度ね、お母さんはお父さんと一緒に二人で暮らすのよ」


「どうして急に..」


「困った時に助けてくれない娘は要らないわ、本当の娘の近くに引っ越すのよ」


「そんな、私はこれからどうすれば良いんですか? 会社は東吾兄さんが跡取りと決まったんですよね、私には何もないじゃないですか?」


「情けない子ね、私が言えた義理で無いけど、百合の名前があるのに何も出来ないのね」


「私は、私なりに頑張りました..」


「貴方はね、試験に落ちたのよ」


「何の試験ですか?」


「私と母子でいる試験ね、はっきり言うわ、確かに借金はしたけど、私の資産はあの借金の数倍はあるわ!正直に言えば白百合製薬を除く、私の個人資産である手持ちの株の1/5も売ればそれで済む事なのよ」



「だったら何で私にお金を借りようとしたのですか?」


「そう、あれは私の為に私財を投げうってくれるかの試験よ!貴方は私よりお金をとったわ」


「ですが、あんな金額..私のほぼ全部を手放さなければ」


「だけど、京子や翼くんは手放したわよ」


「....」


「あの子はお金でなく母親としての私が欲しかったのよね、実業家としては甘いわ、だけど子供としてなら満点よ」


「それで、お母さまはどうするんですか?」


「そうね、不出来とはいえ、貴方も娘..良いわ、葉山の別荘も、私の持っている株も半分あげるわ、売れば一生遊んで暮らせるし、そのまま東吾と一緒に白百合を盛り立てるのも良いわ、自由にしなさい..」


「そうですか...それで出ていかれるのですね...」


「そうね、もう実業家の妻としての人生は終わり、残りの人生は高広さんの妻、京子の母としての人生を始めるわ」


「そうですか、それならもうお会いする事も無いかも知れません、お母さまもお父様も白百合を捨てるのですね」


「そうね、だけどね、人生に疲れたら、京子の所に来なさい」


「行く事はありませんわ」


「そうだけど、覚えておいて、京子にとって貴方はまだ姉だという事をね..」



◆◆◆



結局、私の欲しかった物は家族だったんだのよね。


だけど、翼との時間が無くなるのは嫌なのよ。


翼と相談して、同じマンションに同じ大きさの部屋を買う事にしたのよ。


新婚なんでフロアは別にしたわ。


名義はお父さんとお母さんの共同名義、これで泊まらないでくれると良いんだけど。


私は新婚なんだから遠慮して貰いたいわ。


2人が居ると翼が甘えてくれないんだから。



◆◆◆



「凄いな、これ買ってくれたのか?」


「億ションをポンって...自分の娘と義理の息子とはいえ凄いわね...」



「さぁ、中に入って、家具も翼と一緒に選んだのよ」



家具は中塚家具で、翼と一緒に好みそうな物を揃えてきたわ。



「家具まで凄いわ..」


「そんな事無いですよ、ね京子?」



「いや、翼くん、我々の家は確かに豪邸だが代々の物だから古くて使い勝手が悪いんだよ」


「そうなのよ、家具も古い物が多いのよ」




「ところで、なんで、ブラックダイヤモンドが5本もあるの? 1億5千万じゃない」


「本当か?」


「お母さん、それはお店での金額が高いだけで、普通に買うだけならプレミアがついても1本300万くらいで買えるのよ」


「そうなのね、それにしても1千500万じゃない?」


「それはね、奮発したのよ、ね翼」


「はい」



「それじゃ、私たちは部屋に戻るので暫く寛いでてね!夕食は翼が予約を取りましたからお出かけしましょう? 翼いこう?」


「そうね、それじゃお義父さん、お義母さんまた後で」




◆◆◆



「親として完敗だな」


「ええっ、翼さんから聞きましたけど、京子が欲していたのが私達なのですか」


「そのようだな、親離れ出来ない!そういうのは簡単だが、事業を成功させた上で親孝行がしたい、これは正に理想の子供だ」


「それは、私や貴方も出来ませんでしたわね!でも良かったのですか? 会社まで引退して」


「本来は勝者の商品が白百合製薬の跡取りだったんだ!完璧に勝ったのに要らないなら欲しい物の一つもやらんとな」


「それが親としての私達ですか?あの子にとって、家族の価値は会社以上凄い価値があるんですね、私達って」


「そうだな、まぁ一番は違うが仕方なかろう」


「ええっ」



「事業も引退したし、孝行したいならこれから一緒に楽しもうか?」


「そうね」


「さて、孝行者の娘達が呼びにくるまで、そこのブラックダイヤモンドでも堪能しようか?」


「そういえば、貴方とお酒を飲むのは久しぶりだわ」


「そうだな」


「ええっ」


こうして夫婦水入らずなんて、本当に久しぶりだ。



◆◆◆



「そろそろ時間だわ!翼」


「うん」



「翼...あのね...ありがとう...」


「どういたしまして」


翼は私が一番欲しい物が解かっていたのね。



「だけどね翼ー 私にとって貴方以上に大切な者はいないわ」


「僕も同じです」



「それじゃお父様達を呼びにいこうか?」




おしまい


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