第4章 悠久の武蔵野で物語は佳境を迎える

30.イントルード〜とある神社の境内にて

「梅雨に入れば天の力とあいまって被害はさらに拡大する。あと5日の間に事成らぬなら高尾に使いを送る」

「心得ております」

 頭領のもとを辞した千歳は羽のある天狗の姿である。使いのカラスに今一度、例の古代武蔵国史跡に場所に向かわせる。

 カラスの情報網は優れている。千歳が加わっている武蔵野見廻り隊の第一支部は、古代より国府があった府中市を中心に、国分寺市・調布市・国立市と三鷹市の一部を含む多摩川北部のエリアを管轄しており、この範囲で起きる出来事は大体把握している。それなのにいまだ怪猫が見つからない、すでに領域外に出ている可能性を考慮し、近くの支部にも協力を仰いではいる。しかし千歳は、妖怪が見廻り隊の包囲網を潜り抜けて管轄の外に出た可能性は低いとみている。

 そうなると残された可能性は人間の施設内に匿われていることで、こうなると発見の難易度は一気に上がる。カラスは基本的に建物の中には入れない。それでも時間をかけてようやくある程度の範囲にまで絞り込むことができた。けれどもう時間切れが迫っている。先日も多摩川沿いに雷が落ちた。幸い怪我人は出なかったが、自然災害の頻度は高まる一方だ。柴崎聖には期待してはみたがやはり普通の少年に解決することは無理か。あと5日のうちに進展がなければ彼にも不愉快な通達をしなくてはならない……。


 「おや」

 千歳が参道を見るともなく見ていると、参拝客の中に見覚えのある少女を見つけた。高校生が1人で出歩くにはちょっと遅い時間だ。私服姿なので一度家に帰ったのだろう。家が近所なのか。

 少女は拝殿の賽銭箱に小銭を投げ入れ丁寧な2礼2拍手を行ったあと、長い時間をかけて深々と最後の1礼をした。頭を下げながら「もっと強くなれますように」と小声で呟いていた。

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