27.巻き込まれ体質②

 仙川怜央はなんで自分がこのおかしな事件に巻き込まれているのか、いまだに理解できていない。

 きっかけは柴崎聖という後輩だ。地域文化研究部員みんなで武蔵野亭をはじめて訪れたあと「多摩地域に関して知りたがっている人がいるから部活動の一環として相談に乗って欲しい」と連絡がきた。行ってみたらとんでもない荒唐無稽な話だった。盛大なドッキリかと思ったが、聖と渚の様子をみるとそういうわけではない。信じられる話ではないものの、きっぱり否定できる雰囲気にはならなかった。千歳の去り際にみた、あの鳥人間のインパクトも大きい。

 聖と渚は何かしら動き始めた。渚経由で事情を知った高井戸楓も乗っかったようだ。そうなると部員で知らないのはリュウだけになる。それは良くないので恐る恐るこの話をリュウにしたら、思いの外、冷静に受け止められた。千歳の話をそのまま信じたかは分からない、けれども「ありえない」と言化に否定はしなかった。

 先週ついに5人で作戦会議まで行われた。その時にはもう妖怪がいることが前提となって話し合いが進んだ。5人の中で流れについていけていないのは自分だけのようだ。

 けれどまあ仕方ない。他の人がやる気になっていることを自分に止める権利はない。ただ自分もそれにならう必要もない。みんなの足並みを乱すことはしないが、レオ自身はこの件について、のらりくらりと静観を決め込むことにしていた。しかしどうも自分は巻き込まれ体質らしい。


 聖と渚から「飛田が何を知っているかを探ってほしい」という悩ましい相談を受けた。

「どうして他のやつじゃなくて俺なんだ?」

 理由を聞くと、 

「地域文化研究部の顧問だから結構センシティブでしょ? 先生と一番中良さそうな仙川くんにお願いするのが良いと思って」

 レオが事件に対して自分たちと同じスタンスでいることを疑っていないようだ。

「一番、頼りになると思うし」

 聖の言葉は嬉しいというよりプレッシャーだ。他の2人の部員に情報共有するかどうかも含めてレオに一任したいとのことだった。「そんなこと俺に一任されても困るよ!」と声を大にして言いたい。でも言えなかった。

 案の定、のらりくらりとかわすことに失敗したレオは、本日の放課後「中間試験に向けて授業で分からなかったところを質問したい」というていで飛田のもとを訪れていた。試験について聞く「ついでに」自然な流れで探りをいれなくてはならない。 


「ところで先生、最近の異常気象についてどう思います? ちょっとヤバいですよね?」

「仙川って天気とか天候とかに関心あったっけ?」

「あー、いやー。さすがに梅雨前なのにこの雨の激しさはおかしいなって。気温もバグってるし。それに先週、武蔵野亭の建物が突風で破損したじゃないですか。ちょっと怖くなっちゃいました」

 飛田は頷いた。

「そう思って当然だよ。やっぱりおかしいよな、この気象は。どうもこの地域だけに局所的に起こっているらしいぞ。そんなことって普通ないよな」

 いい感じに乗ってきた。思い切って切り込む。

「武蔵野亭に下宿していた高幡さんという人が、趣味で妖怪だか怪異だかの記事を発信しているらしいんですけど、その人がこの異常気象は妖怪みたいなものが絡んでいると言うんです。先生、どう思いますか?」

 飛田は無表情になり、レオは後悔の念にかられる。

「ちょっとびっくりだな。仙川がそんな話をするなんて。そういう話に興味あるのか?」

「いえ、でもこうもおかしな天気が続くと、そういう話も出てくるもんなのかなって。それに飛田先生は地域文化研究部をつくった人だからこの地域のその手の話も詳しいかなと」

「うーん、普通の感覚だったらそうは思わんと思うが」

「ですよねー」

 この話は終わり、という風に努めてくだけた調子で同調した。これ以上続けると自分の信用に関わる。頼ってくれた聖と渚には申し訳ないが、これ以上レオの力では探れない。そう思ったら、

「ちなみにその高幡さんは具体的にはどんな妖怪が絡んでいるか、話していたか?」

 さりげない風を装っていたけれど、興味を隠しきれないようだ。「どんな能力を持った妖怪か」「妖怪の動機については何か言っていたか」など前のめりに質問されたが、ひたすら「詳しいことは何も」で切り抜けた。返す刀で、

「逆に先生の方で何か心当たりあります?」

 と尋ねたら、

「いやあ、その手の話はあまり知らないな。面白いとは思うけど非現実的だよね」

 と飛田自身への矛先を回避されてしまう。結局それ以上は引き出せず、ほぼ収穫なしに終わってしまった。

「それはそうと中間試験、ちゃんと勉強しているか。まあ仙川は何も心配いらないと思うが」

 そうだ。転校生で、かつサッカー部が続かなかった自分がクラスメイトからも教師からもリスペクトを勝ち取っているのは運動神経が良いだけでなく、学業でも上位をキープしているからだ。今回は変な事件に巻き込まれているせいでいつもより少し準備が遅れている。聖と渚には申し訳ないが、試験までの残り時間は勉強に集中させてもらおう。

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