第6話 現場に侵入し、元凶を発見する

さて、と。前回は俺の戦うべき相手が同じ神の後継者だと言う事が分かった。

そして、今の俺の優位性にもだ。

きっと相手は俺を知らない、知っているとしても誰の後継者か分からない。それに比べて今の俺には知識がある。その上相手が誰の神か大体予測できる。

少しずつその特徴を述べていこう。

一つ目、その女はどうやら酒を生み出しているようだ。そこから酒の神ではと推測する。

二つ目、その酒は飲むと狂う。いや、狂ったような状態になるというべきか?

三つ目、あの2人組の記憶が定かで有ればその相手はおそらく同性すらも魅惑する美貌の持ち主だ。

神の後継者に選ばれるのはきっと誰でも良いのだろう、形に拘るなら俺ではなく老人を選ぶ。

だったら性別や姿は特に関係ない、ある程度の共通点さえあれば良い。

そこから出てきた神の名前は。


「デュオニューソスか」


これまた偉い神様だな、デュオニューソスと言えばオリュンポス12柱にも数えられる事もあるらしいからな。しかしだ、ギリシャの神は基本的にヤベェ奴等多いんだよな。

デュオニューソスもその例外に漏れずキチンとやばい神だ。

その逸話は凄まじく、例えば海賊船を撃沈したり、村の娘全員を狂わせ首を吊らさるなどだ。更には。


「ははっ、俺はまるでペンテウスだな」


それは己の狂った信者達が行う怪しい催事にペンテウスを誘き寄せて引き裂いて殺す。まるで今の俺の状況だな。しかし。


「やってやるよ」


俺はあのオーディンの一番弟子にして後継者だ。主神でもない奴が勝てると思うなよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コツコツ


俺が歩いて近寄るとボディーガードらしき男が手を広げて止める。


「おい、ここに入るためには」


「【ラグラーク】」


俺がそう唱えると俺の姿突然姿が消える。


「俺、疲れてんのかな」


その現象に驚愕したボディーガードはとりあえず休む事を決めた。


意外と簡単に入れんだな。

俺はそう思いながら奥へと進む、奥へと進む度にクラブ特有のけたたましい騒音と脳がクラクラする程の酒精が此方に伝わる。


「【エオロー】」


そう唱えると体に薄い膜のようなものが張られ酒精を感じなくなった。

そして俺は、件のエリアに入った。そこはまさに狂乱だった。人々は酒を浴びながら飲み、溢れた酒を誰かが啜る。服を着ている者は稀で、そう言った人は全員がその空気に呑まれている。


「なんて光景だ」


俺はそう呟いた、酒池肉林とはまさにこの事。俺も実情を知らなければここに混ざりたい、そう思う程に魅力的で。実情を知ったからこそ絶対に混ざりたくない思いが強くなっていく。

俺が硬直していると誰かがぶつかり絡んできた。その顔は見間違える事などない、その顔は正真正銘俺の初めての依頼者。


「伊藤華さん!」


俺がそういうとようやく此方に気づいたのか此方へ目をトロンとさせながらもたれかかってくる。


「ねえねえ、新目さん。貴方もどう?このお酒。とっっってもおいしくてねぇ」

「私、旦那に謝りたいわ!でもやっぱり怒りたいわ!だってこんな良いもの隠してたんだもの!」


あぁでもコレを教えてくれたし。と、さっきから言う事が反転していて滅茶苦茶な事を言ってある華さんの姿がある。

その後ろから大柄な男性が近づいてくる。


「おい華ぁ、その男だれだ?」


近づいてきて話しかけたと思えば突然睨んでくる。

しかしすかさず華さんがその男は話しかける。


「ごめんなさいアナタぁ!この人は私の探偵さんよ!私、貴方の事が気になってさぐってもらってたの!」


そう彼女が良い人よ!と言うと旦那さんは途端に顔を綻ばせ。


「なんだぁ!そうならそうと早く言ってくれよ!ほら!探偵さんも酒飲みに来たんだろ!」


そう言って酒を勧めてくる、確かに飲みたくないと言えば嘘になる。この酒は絶対に美味い、そう確信が持てる程に綺麗だ。しかし、だからこそ俺は飲めない。飲みたくない。


「お断りします」


俺がそう言うと突然激昂し始め、遂には暴走した。


「俺の好意を無碍に扱いやがって!それだから一般人は!上司の酒が飲めなぁってのか!」


そう言って無理に飲ませようとしてきたので襲いかかってきた旦那さんの口に近くの酒瓶を突っ込んだ、するとだ。


「うぉぉぉお、おお。うめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇ」


途端に俺には興味を無くし酒を夢中になって飲み始めた。人をここまで狂わせた元凶は、なんて恐ろしい存在なんだ。俺は決意を固め。


「こんな事許せるかよ」


元凶がいるであろう、場所は見当がつく。


「まぁ、あいつだろうな」


それは物理の法則をガン無視した、大きな空飛ぶワイングラス型の椅子。

それに座った女はまさしく女神のようだった。

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