第3話 魔術を学ぶ、そして継承する
俺が爺に連れ去られ、もう一年が経つ。あの爺はどうやら俺の事を殺そうとしてはいないようだ。そこには安心したが爺の、死ななければ何しても良いと言う考えのせいで俺は酷い目に遭っている。
「おい、その文字少し歪んでおるな。やり直し」
と、何処が歪んでいるのかわからない場所を延々と指摘されてやり直ししたり。
「これを食え、食えばより強くなれる」
と、吐瀉物を食べる方が1億倍マシな謎植物を食わされ生死の境を彷徨ったり。
「これからこの迷宮を攻略しろ、勿論ルーン魔術は禁止だ」
と、僅かばかりの食糧と水だけを待たされて罠だらけで一つ間違えば即終了の迷宮に入れられたり。
はっきり言ってどれもギリギリだった、しかし全てがその時の俺にやり切れるだけの難易度だったし。なにより確かに、より着実に強くなっている感覚がした。
そして、その日は突然やってきた。
「なぁ貴様、そろそろ最終試験行くか?」
俺はそう言われて驚いた、何故ならまだこの爺の脚元にも及ばない時点で言われたのだから。
もう既に怖かった、この爺の事だ。絶対禄でもない試練なのだろうと。
「最終試験は、儂の人生を追体験して。何を思い、何を考えたか」
俺はそれに安心した、安心してしまった。そもそもこの爺が出す試練に甘いものなどなく、その全てで死にかけて来たのだ。
俺がその事に気づく前に俺は送られた。
「壊れるなよ」
えっ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後俺はその爺の人生を追体験した。
どうやらこの爺の名前はオーディンと言うらしい。
なんともビックネームが飛び出てきたものだと思ったがあの爺だしと納得した。
オーディンの人生は苛酷だった。
まず魔術を得るため、ミーミルの泉を飲み片目を無くした。そこで気づいたが俺もどうやら飲まされていたようだ。
次にルーンの秘密を知るため9日9夜をユグドラシルの木に吊られて耐えたのだ、しかもグングニルに刺されながらだ。本当にあの時ばかりは爺の体の頑丈さを恨んだ。
確かに辛かった、その人生は苛酷と言わずしてなんと言うかと思うほどだったがそれだけでは無かった。良いこともあった。
家から見る世界はとても綺麗だった。これを見るためだけに世界を守っても良いとさえとも思った。
更に妻は美しく、そして気高かった。子供達は立派に育ち、その勇姿に涙を流した。兄弟は良い奴らばかりでとても仲が良かった。いつも爺の近くに居た動物達は忠誠心が強くとても頼もしい。更に人類の英雄達はいつも馬鹿騒ぎして注意しても意味なかったが戦の時になると途端にその経験を活かして多くの敵を倒してくれた。
まぁ、最後にはフェンリルに喰われて死んじまったけどな。
と、最後まで見終わるとそのまま爺に質問をされた。
「なぁ、儂の人生の感想はどうだ?」
俺はそれに対して少しの迷いもなくこう答える
「素晴らしい人生だ」
そう言うと爺は初めて会った時と全く同じ笑顔でそうかと頷き、そして。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はっ!」
俺は唐突に目を覚ます。そこは既に見慣れた青空では無く俺の家の天井だった。
もしかして夢か?そう思ったが側にはつばの深い帽子に緑のローブなグングニル、そして一枚の紙が置いてあった。
俺がその紙を確認すると、こう書いてあった。
『貴様がこれを見ている時、それは最終試験を合格したと言うことだ。その時、儂は消えてなくなっている。それは仕方のない事だ、気に病む事はない。これより貴様は二代目オーディンと成った。これからの人生、儂のように苛酷ではあるが癒しがあり、未知があり退屈しない。そんな素晴らしい人生となるだろう。そんな貴様に贈り物をくれてやった、大事にせよ。それでは励めよ、新目 慧』
お前の事なんか気に病むか。はぁ、全く。最後にこんな手紙なんか送ってきやがって。
なんとなく棄てるのが惜しくなったので【イス】と描き、適当な頑丈なだけの箱に入れて押し入れの中に入れた。
全く、あいつの修行をしなくていいと思うとせいせいする。
なんとなく酒を飲みたかったので酒を用意した、間違ってコップを2個持ってきてしまったがしょうがない。
だから。
「ううっ、」
俺がこうやって涙を堪えるのも、きっとしょうがない。
やっぱりあの爺は最低だな、こうやって消えた後も俺を苛めるんだからな。
「ありがとうございました、師匠」
こう言ってやんないと、きっと可哀想だろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます