心配無用

 上げて貰い、それから僕が質問する事に答えて貰う。

 そして、今の会社でやっている事を一から説明して貰う。


「⋯⋯十分ですね。どうしますか? ブラック企業から僕の曾祖母が創り上げ、母から受け継いだ大企業への転職は? これ以上娘さんにこの様なマネをさせずにすみますよ?」


 そう、僕は学生ながらに裏では経営者だ。

 ただ、母の頃の秘書が──僕は協力者と呼んでいる──表立って経営し、僕は裏から指示を出す。

 曾祖母が創設し、母から受け継いだ。これが約束の一つだ。

 絶対に父親にはこの事はバレてはいけない。絶対にだ。

 そして、絶対に僕が受け継ぐ、それが約束の一つ。


「でも、こんなのが許されるんでしょうか?」


「問題ないでしょう。ヘッドハンティングってやつですよ」


「でも、自分はそこまで高い技術を持っている訳では無いですし⋯⋯」


「そこら辺は頑張って下さい」


 投げやりだし、本来会社にとっては迷惑な事だろう。

 だけど、クラスメイトで義妹の友達がこれ以上続けて問題が起こったらと考えると⋯⋯。

 早めにその種は摘んでおく必要がある。

 その為には、僕は自分の使えるモノを全て使う。


 そして、約束を取り付け、家に帰る事にした。

 既に夜二時過ぎである。明日も学校だと考えると、結構ハードである。


「鍵は⋯⋯開いているのかよ」


 家の中に入り、電気が付いていない事を確認し、安堵する。

 そのまま部屋へと入り、そこでコンビニで買ってきた軽食を食べる。


 コンコン


 ドアを開けた後にノックする。僕はその方向を見る。


「こんな夜遅くに帰るとはどのような要件かしらお義兄ちゃん」


「目が怖いぞ。声が外に漏れるからドアは閉めてくれ。後は自分の部屋に戻れ」


「いえ。深夜を超えているもの。流石に聞きたいわ。今は真剣よ」


 つまり、今まではふざけていると。ほぉーそうかそうか。

 ちなみにこんなに遅れたのは、電車の方が既に終電が行っており、歩いて帰って来たからだ。なので、かなりの時間を有した。

 深夜徘徊、先生に会わなくて良かったね。


「君には関係ないよ」


「あるよ」


「ない」


「ある! だって、今の私は、貴方に恋する一人の女の前に義妹なんだよ。義兄を心配して何がダメなの?」


「この年頃の義兄妹って普通ギスギスしているのでは?」


「誤魔化さないで!」


 顔を無理矢理向き直され、目と目が合う形になる。

 その目には少しだけ涙のような物が溜まっていた。


「お義父さんもお母さんも心配してたんだよ。なんで連絡もしないでこんな時間まで⋯⋯」


「連絡? 必要無いと思ったからだよ。それに本当に君には関係の無い事だ。もう寝たい。出て行ってくれ」


「いーやーだー!」


「はぁ、自分はシャワー浴びに行くから、それまでには自分の部屋に戻ってろよ」


「誘われた!」


「何を!」


 付いて来そうだったので、本気で抵抗した。

 拳では抵抗しなかったが、そこそこの時間を有した。

 その後、普通にベットにゴロンしたのだが、部屋から出ては行かなかった。

 無視してそのまま寝たけどね。


「すぴー」


 僕は目覚まし無しで何時も一定の時間に起きれる体だ。

 どんなに遅く寝てもそれは変わらない。

 今回も例外に漏れず5時に起きた。

 ベットを枕に寝ている白奈さん。病人の起きるのを待っていたら寝落ちした感じだ。


「⋯⋯たく」


 こいつは本当に僕の事を心配していたんだな。

 重いから、ベットに寝かす事は出来ないが、布団を掛ける事は出来るので、布団を掛けておく。

 その後は風呂場で着替える。

 朝食の準備をしながら皆が起きるのを待つ。


「⋯⋯天音、帰って来ていたのか!」


 父親が寄って来て、肩を掴んで来る。

 色々と叫んでいるが、正直うるさいだけだった。

 僕が父の目を睨み、「だから?」と冷たく言い放った。

 ちなみに内容が入って無いので、だから、と言っても会話が成り立つのかは不明だった。


 電車の中で白奈さんが話して来る。


「天音君はお義父さんの事が嫌い」


「嫌いじゃないよ」


「だったらなん⋯⋯」


「超嫌い」


「⋯⋯ッ! そっか。なら、もう聞かない。ちなみに私の事は?」


「面倒臭いので関わって来て欲しくないタイプの人間って思ってる」


「嫌われてないなら良しかな」


 強いな。


 時間帯が上手く噛み合い、優希君と合流する。


「天音くーん!」


 後ろから手を振って走って来る男装女子。

 周りから見たらそうだろうな。


「優希君。そんなに走らなくても良いでしょ」


「あはは。見かけたから」


 僕を見て、隣りの人物に目を向ける。

 一瞬目を白くして、ロボットの様にギギっと顔を動かして僕を見て来る。


「かの⋯⋯」


「断じて違う」「そうです!」


「?」


 そんな疑問な顔をしないでくれ。

 こう言う質問が来ると、僕と真逆の意見になるな。

 だけど、正しいのは僕だ。紛うことなき僕だ。


「行こ。優希君」


「あ、うん」


「待って私は! ねぇ、私は! あーまーねーくーん!」


「あ、天音君。何か凄い言われているけど」


「なんの事か全く分からないな。優希君は幽霊でも見えるのかい?」


「え、僕って霊感あったの!」


 ま、マジ?

 ま、それでいいや。


「誰が幽霊ですか! 貴方の方こそ男装した女子みたいな幽霊じゃないですか! 恵まれない女の子にその顔を渡しなさい!」


「なんか凄い酷い事言われた! あ、でも僕の事男子として見てくれてる⋯⋯感動」


「変わった子ですね」


 お前だけには言われたくないと思うぞ。


 教室にて、僕はラノベを読んでいたら目の前にとある二人の人物が立って来る。

 一人は白奈さんだが、何時もとは様子が違う。それもそうだろう。もう一人が美咲さん。


「ね、君何かした?」


「天音君何かしたんですか?」


 オドオドする白奈さん。クールな一面だったり、純粋な家族として心配する一面だったり、実はノリが良かったり⋯⋯中学の時と印象が全然違う。


「何もしてないよ」


 僕のやった事なんて小さな事だ。

 後は時間が流れる様に話が進んで行くんだろうし。

 もしもスクショが撮られていたら、他の手を打つ必要もあるが、今は良いだろう。


「で、何時まで僕を見詰めるんだ」


「⋯⋯ありがと」


「天音君何したのか正直に話して?」


「安心しろ。心配される事はまじでしてないから。そんな目で見ないでくれ」


 クラスメイトの目が痛い。


 そして今日から部活見学が可能になって、自分の部活を選ぶ時期となった。

 ちなみに僕は既に決めている。

 中学と同じ部活、『弓道』だ。

 中学の同級生で、同じ部活で、弓道の時しか関わって来なかった人が居るのだが、その人との約束があったりする。

 僕は小学の時からボッチだが、ちまちまとした人脈は持っている。

 これは母さんの血があるからかもしれん。

 見学、楽しみだな。

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