ジーニャス、ノアクルと古代兵団
突然のピンチに現れたジーニャス。
なぜか陸に船――ゴールデン・リンクスを魔法で創ったらしい台座に載せている状態――その上に乗っている。
しかも格納庫で動かなかったはずの古代兵器たちが動いている。
ノアクルはツッコミが追いつかないが、今はそんな場合ではない。
「ジーニャス、コイツらはディロスリヴの力でダメージを与えられない!」
「それもお任せですにゃ! 神には神の力をぶつけるにゃ!」
ジーニャスは手で印を結んで意識を集中させた。
「神術〝一騎当百〟」
白っぽい光がノアクルたちを包み込んだ。
ノアクルは身体から力が湧き上がってくるのを感じる。
「これは……」
「わかりやすくいうと範囲バフ魔法だにゃ! 神気を纏うことによってディロスリヴの力も中和できますにゃ!」
「なるほど、そいつは良い」
襲ってきた海賊を骨のバットで強打したところ、普通にダメージが入って起き上がってこない。
「ちなみに〝一騎当百〟ってなんだ? 〝一騎当千〟じゃないのか?」
「そ、それは……さすがに数字的におこがましいかにゃ~……と」
「ジーニャス……強くなってもその自信のなさは変わらないんだな……」
「し、失礼しましたにゃ! 戦闘中なので集中しますにゃ!」
ノアクル、ダイギンジョー、スパルタクスは神気を纏い、次々と海賊を撃破していく。
だが、相手の数が多すぎた。
倒しても倒しても、海賊が後方からやってくるのだ。
これではさすがにキリが無い。
「さすがに多勢に無勢だな」
「では、ぶっつけ本番ですが一緒に召喚した古代兵器たちを使ってみますにゃ」
ジーニャスとしては、仲間のジーニャス海賊団と一緒に戦いたかったのもあるが、今回は海上都市ノアの守りであったり、上陸して万が一ディロスリヴの力に対抗できなかったりする場合を考えたのだ。
それに船や古代兵器などは、人間と違って召喚しやすいというのもある。
「あはは、それ見たことあるわねぇ。ピュグちゃんが使ってたやつ、全然コントロールできてなかったし、こんな乱戦じゃ同士討ちをしちゃうんじゃないかしらぁ?」
そのジュエリンの声も気にせず、ジーニャスはさらに集中力を高めた。
調整した古代兵器にはピュグの考察ノートが一緒に置かれていたのだ。
そこには、元々指揮官のようなものが前提とされている設計で、その者が各古代兵器に指示を出して連携させるのだろうとあったのだ。
浮遊都市パルプタの場合は、それ自体が巨大な古代遺物で指揮官の代わりをしていたのだろうと推測されていた。
なので、ピュグが個人的に機械の島で修理した古代兵器ポーンは動きが洗練されていない自動操作で、海上都市ノアの古代兵器群もそうなる仕様――だったはずなのだが、ジーニャスは違うことを考えていた。
だったら、自分が指揮官になればいい、と。
「さぁ、行くにゃ! 古代兵器たちよ!」
ただ言葉で指示をするだけでは単純な動きしかできない。
神気のバフを通じて、各古代兵器とやり取りを行う。
共有される視覚、聴覚、触覚。
十三機分のそれらが入ってくるが、普通なら脳神経が焼き切れてしまうだろう。
だが、船の上のジーニャスは天才だ。
すべてを自分の手足のように操れる。
それに加えて浮遊都市パルプタで連携するクラブとも戦った経験があり、他の古代兵器も実際に戦ったメンバーからの話を聞いて運用方法を理解している。
つまり――
「空中都市パルプタのときと同じくらい――いや、それ以上の運用をお約束しますにゃ! 古代人型兵器クラブ!」
スケルトンのような骨格を持つクラブは、ピュグによって新造されたおニューの棍棒を手に持ち、物凄い勢いで海賊たちへと迫っていく。
その数十機。
高い位置にいるジーニャスから見たら、群体が一つの生き物のように統率を伴い行動していた。
トレジャン海賊団も焦りを隠せない。
「くそっ! 一体一体はそうでもねぇが、この機械は連携してきて厄介だ! 何とか反撃を――」
「もう遅いですにゃ! すでに術中にハマってますにゃ!」
「なにぃ!?」
よく見るとクラブによって、敵は一直線の形に誘導されていたのだ。
そこへ――
「行くにゃ! 古代超硬兵器ダイヤ!」
『超硬度アーマー装着』
半透明な外装を装着したダイヤは、ゴロゴロと転がって一直線の形になっているトレジャン海賊団たちとボーリングのピンのように薙ぎ倒していく。
「うぎゃあああああ!?」
「こ、こいつ……硬すぎんだろ!?」
「だ、だけど硬いだけだ……それをどうにかしちまえば……」
如何に硬く巨大なダイヤでも、大勢の海賊に抑え込まれれば動けなくなってしまう。
もちろんそれは織り込み済みだ。
「お次は古代再生兵器ハートだにゃ!」
古代兵器〝ハート〟が飛び込んでいく。
その異様な模様が全身に入った、目も口もない姿に敵も驚いたが、戦い慣れしているのか速攻で仕掛けてきた。
ハートは攻撃を受けてバラバラになってしまった。
「はっ、なんだ。コイツは見かけ倒しだな!」
「見かけには騙されない方がいいにゃ~」
ハートはバラバラになったパーツを空中で浮き上がらせ、チェーンソーのようなものを生やし始めた。
「なっ!?」
「うぎゃあああああ!?」
ハートのパーツは戦場を跳び回り、次々と海賊を戦闘不能にしていく。
さすがにチェーンソーだと殺してしまいそうなので、そこはジーニャスの腕の見せ所だ。
なるべく殺さないように〝天才的〟な軌道を描いて攻撃している。
(まぁ、この世界で戦いを生業としている奴らなんて、殺しても死なないようなしぶとさだけどな)
それらの行動を理解しているノアクルはそう思ったのだった。
「こ、こんなにあっさりとトレジャン海賊団が押されるなんて……コイコンさんと、ジュエリンさんはどうしたんだ!?」
「それは古代時間兵器スペードに任せてあるのにゃ」
ジーニャスの横にいるスペード――月桂樹の冠を頂く老人に見えるが、身体が半透明になっている。
本体となる投影装置が置かれていて、それによって姿が見えているだけだ。
スペードはすでに行動を起こしていて、コイコンとジュエリンの動きを停止させていたのだ。
「ボクの身体が動かない……!?」
「アタイも無理ねぇ~……」
「にゃはは! なんかデータが消去されてて時間を戻したり進めたりはできないけど、魔力差がそこまでなければ一定時間止めることはできるにゃ!」
その言葉に、一瞬アスピがギクッとしたのでたぶんデータ消去をしたのは奴だろう。とノアクルは察した。
だが、相手を一定時間止められるというだけでかなり戦況を有利にできる。
ノアクルたちの反撃が始まった。
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