幕間 海の上のお風呂事情1
それは部屋の中でノアクルが、ローズに座学を強引に受けさせられているときの話だ。
「――で、あるからして、国を治める者は……クンクン」
「ん? どうした、ローズ?」
突然、ローズがノアクルの服に顔を近づけてきた。
何やらジト目で見てくる。
「殿下……お風呂はいつ入りましたか?」
「ここ最近、忙しくて入れてないな……。でも、別にいいだろ? 死にはしない」
「ダメですわ! 絶対に!! 国を治める者として、清潔感は維持しなければなりません!!」
「そうか、すまん。たしかに俺と二人きりになるローズの気持ちを考えてなかった」
そう言われたローズは小声でゴニョゴニョと――
「い、いえ……わたくしは殿下のニオイなら別に……」
顔を赤らめながら照れくさそうに呟いたのだが、ノアクルは別のことを考えていて聞き逃していた。
「うーむ、風呂問題か。たしか相談されていたな……」
アルケイン王国には入浴の習慣がある。
さすがに個人の住居には普及していないが、各地には大衆浴場が設置されていて衛生面の管理がされているのだ。
そのために海上都市ノアに乗ってきた住人たちも風呂好きな者が多い。
一応、一般女性たちが乗り込んできたタイミングで風呂は設置されていた。
ただし、海の上でスキル【リサイクル】で真水を作るのは簡単だが、量が必要になるとノアクルの負担が増えるということで女性と子ども優先。
野郎共は海水で身体を拭くのがメインとなっていた。
「ローズは大きな風呂に入りたいか?」
「二人きりのときはどんな殿下でも別に……えっ!? 大きなお風呂ですか? それは入りたいですが……。でも、現在の浴場施設から広げるのはそれなりに大変ですわ。それに真水だって……」
「そこらへんはパルプタの残骸があるではないか。どれ、皆の者のために一働きするか!」
そうしてスッと立ち上がったキメ顔のノアクルは住民のために大衆浴場作り――もとい座学から逃げるのであった。
「あ、殿下!? 殿下ぁーッッ!!」
***
まずは場所の確保だ。
住人が増えたので海上都市の床をパルプタの残骸で広げている最中なのだが、その辺りから目星を付ける。
具体的には、ローズが用意してくれていた海上都市計画書で余っているスペースがあるので、そこを使うことにした。
大衆浴場の形をどうするか。
それはパルプタにあったものを流用させてもらうことにした。
シュレドが無駄に豪華で大きなものを個人用に作らせていたのだが、本当に無駄に広いので大衆浴場としても使えるだろう。
シュレドの黄金裸夫像が設置してあったのだが、それはもちろん悪趣味すぎるので撤去しておく。
分割したパーツを力持ちの獣人たちに運び込んでもらい、それをスキルで組み立てれば外見は完成だ。
「あとは真水問題か……」
これも前々からアスピから提案されてきたものだった。
住人が多くなればなるほど、海上での真水の確保をどうするか? というものだ。
普段は一気に作ってタンクに溜めておく形を取っていたが、さすがにこのまま拡大していってもノアクルが真水製造から離れられなくなってしまう時期がくるだろう。
そこで古代技術では普通だったという〝真水生成器〟を提案されていたのだ。
「丁度、その材料をパルプタで発見してもらったから、これをスキル【リサイクル】で組み合わせれば……」
それなりの量を魔力で生成し続けられる〝真水生成器〟が完成した。
これで真水を作る手間が減り、ノアクルの私的な時間も増えるだろう。
「さてと、あとは実際に試してみないとな」
失敗しても許してくれそうなメンバーへ連絡をしておくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます