アスピVS古代時間兵器スペード
一方その頃――アスピは絶体絶命のピンチにいた。
『ガードロボット〝スペード〟起動。侵入者を排除する』
どうしてこの状況になったかというのは、他のメンバーと大体が一緒である。
鉄格子のある部屋を見つけて、住人たちから怪しまれながらも説得。
スイッチのある台座に近付いたら敵が出現した。
ただ、他のメンバーたちと一つ違うことがある。
「ワシ、ただの亀なんじゃが!?」
アスピは戦闘力が皆無だ。
他の誰かがいれば、不本意ながら堅さを利用して投擲すればダメージを与えられるかもしれない。
しかし、ノアクルと途中で分断されてしまったアスピは現在ソロだ。
ただの亀とそう変わりない。
「がんばれ~! 亀さ~ん!」
「無理にきまっとろうが!!」
なぜか子供に人気になってしまって黄色い声を送られているが、アスピとしてはたまったものではない。
「これ食べて元気出して~!」
子供が鉄格子から投げてきたのはリンゴだった。
アスピの目の前にコロコロと転がってきている。
普段だったら美味しく頂くのだが、今は目の前に敵がいるのでスルーだ。
「こやつは古代兵器の一種か……?」
目の前のスペードを観察してみる。
月桂樹の冠を頂く老人に見えるが、身体が半透明になっている。
天井には何かの機械が張り出していて、月桂樹の老人を照らしているようだ。
「投射された映像というところかのぉ?」
『正解だ。我はこのパルプタの頭脳である。この古代時間兵器スペードは、パルプタ自身とも言えるだろう』
アスピは相手の規模が大きすぎて、頭がクラクラしてしまいそうだ。
敵が一体の人間サイズなら何かの奇跡が起これば倒すことができたかもしれない。
しかし、このパルプタ自身と言い張るのなら、目の前の老人や照射器を何とかしても無意味だろう。
「……ワシ、開幕から詰んでね?」
『その通りだ、喋る奇怪な亀よ。残念ながら、ここで消えてもらうことになる』
「や、やっと自由になったワシのセカンドライフがああああああ!?」
天井の照射器から、アスピに向かって光が発射された。
それは明確な攻撃だ。
アスピはとっさの判断で甲羅の中に閉じこもるが、目の前にあったリンゴが急激にしおれ、干からび、消滅した。
『擬似的に500年時間を進めた。いかに亀だろうと、最大寿命は二百年ほどだ』
「か、亀さんどうなっちゃったの!?」
『その甲羅の中で乾燥粉末にでもなっているだろう。漢方、という人間の薬として使えるのかもな。お前たち魔力源も逃げようなどと思わないことだ』
「そ、そんな……亀さん……」
大人たちは、ただの亀など最初から期待はしていなかった。
助かれば儲けもの程度だ。
しかし、子供は違った。
不思議な喋る亀のことを、対等な存在として扱っていたのだ。
その相手が死んでしまうのは悲しい。
「亀さ~ん!!」
「ええい、うるさいのぉ。生きとるわい!」
甲羅の中から、何事もなかったかのようにヒョコッと顔を出すアスピ。
住人たちは驚きでギョッと目を見開き、子供は大喜びだ。
「亀さん生きてた!!」
『……理解不能。推測、甲羅が何らかの防御機能を果たした……? 再度照射する』
床や壁から複数の照射器が次々と現れ、全方向からの光がアスピに降り注いだ。
今回は甲羅から出た状態だ。
だが、アスピは何も変化が起きない。
『効果は出ている。推測、この亀の寿命が五百年以上ある』
「ほ~。ワシ、老後が長いのぉ~」
『機能反転、時間を戻す効果に変更』
「なっ!? ちょっと待つのじゃ!? そんなことをしたら――」
「いかに長寿と言えども、赤子以前に戻せば消滅させることが可能。照射開始」
焦るアスピに対して、若返りの輝きが照射された。
それは数千年規模での逆行で、普通の生物が受ければ即消滅してしまうだろう。
アスピの周囲は煙に包まれてしまう。
『照射完了。これで――……理解不能、計測不能』
「あちゃ~……。実際に若返ったら、全裸じゃの~……。子供の教育に悪すぎる……」
煙の中、微かに一人の男性が見えた。
長い緑色の髪をしていて、細いながらも鍛え上げられた肉体で長身だ。
「わぁ! 裸のイケメンが出てきた~!」
『――推測。この存在は創造主』
アスピはスラッとした長い腕を突き出し、手の平を広げた。
「やれやれ、甲羅無しで肌を晒すのは恥ずかしいから一瞬で終わらせるぞい。加護展開、空間掌握」
『データが消去されていく……』
「長い間お疲れ様じゃったな。ゆっくりと休むがよい」
『システムを終了します。以後は簡易プログラムによって必須設定のみ動作します』
投射されていた老人――スペードが消滅した。
同時に照射器も機能を失い、すべて収納されていく。
アスピは煙が完全に晴れる前に、元の亀に戻っていた。
「ふぅ、危機一髪じゃった……倫理的に」
「やったー! 亀さんの勝利だー!」
応援していたアスピが勝ったことにより大喜びの子供。
何が起きたのか理解できない大人たちも、徐々に助かったことを実感していく。
「さ、さすがノアクル様が送ってくれた亀だ……いや、亀様だ!」
「最初から勝つって、わかっていたわ!」
「お、オレもそう思ってた! 当たり前だろう!」
「まったく、調子の良い奴らじゃのぉ」
住人たちに悪気は無いのは分かっているので、心の広いアスピは特に気にもしていなかった。
今の懸念点は、途中で分断されてしまったノアクルのことだ。
「ノアクルのやつ、平気かのぉ……」
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