ジーニャス海賊団VS古代人型兵器クラブ

「お、扉を発見しましたにゃ。ジーニャス海賊団が一番乗りに違いないですにゃー!」


 ジーニャスが扉を開けると、そこはかなり広い空間になっていた。

 中央に目立つ台座がある。

 その奥の壁に鉄格子が嵌められていて、その向こう側に住人たちが囚われている。


「パルプタの皆さん、ジーニャス海賊団の参上ですにゃ!」

「ひぃっ!? 海賊団!?」


 住人たちは慌てふためく。

 ジーニャスは首を傾げるが、海賊団のメンバーがこっそりと耳打ちしてきた。


「……船長、普通の海賊団ってすげぇ悪いイメージがありますぜ……?」

「あ~、うっかりしてたにゃ!」

「だ、大丈夫か……船長。なんかポンコツっぽくなってきたぞ……」


 テイクツーとばかりに、ジーニャスは咳払いをコホンとしてから海賊営業スマイルに切り替えた。


「ジーニャス海賊団は正義の海賊団なのにゃ! パルプタの皆さんを助けに来ましたにゃ!」

「そ、そんなことを言っても信じられるか! 獣人は恐ろしいって聞くし、猫獣人のお前が船長の海賊団なんて怪しすぎるだろう!?」

「にゃにゃ!? 私の説得が通じないにゃ!? ……ノアクル様にどう顔向けすればいいにゃ……」


 ふと呟いたノアクルという言葉に、不安がっていたパルプタの住人たちが反応した。


「の、ノアクル様だって!? シュレドのクソ野郎と敵対していた御方じゃないか! それなら信用できる!」

「にゃはは……敵の敵は味方ってやつですかにゃ。まぁ、ノアクル様に感謝ですにゃ」


 間接的にノアクルに助けられたと感じながらも、住人の救出へ移ることにした。


「えーっと、それでどうやってその鉄格子を開ければ? 出入り口のない構造だから、鍵をぶっ壊せばいいとかでもないですにゃ」

「シュレドのクソ野郎が、その部屋の中央にある装置で操作しているのを見たよ!」


 部屋の中央にあるのは何かの台座だと思ったが、どうやら鉄格子を操作する装置らしい。

 魔道具を組み込んだものらしいが、現在では珍しい作りだ。


「古代文明の遺産ってやつですかにゃ? まぁ、ボタンが一つしかないからポチッと押せば解決ですにゃ! 楽勝ですにゃー!」

「あ、船長。なんか装置の周囲に赤い光が張り巡らされてて――」

「にゃにゃ?」


 ジーニャスは装置へ向かって走っていたが、急に止まることができずに赤い光に触れてしまった。

 鳴り響く警告音。


「こ、これはなんですかにゃ!?」

「やばい、海の上だったら見破れたような罠を……わざわざかかりに行っている……。この船長は船から出たポンコツモードだ……!」


 海賊たちは絶望感しかなかった。

 それをさらに煽るように、天井が開いて次々と古代文明らしき人型兵器が落下してきた。


『ガードロボット〝クラブ〟起動。侵入者を排除する』


 人間の背丈程度なのだが、金属で作られた骨組みが丸見えでスケルトンのようだ。

 手には棍棒を持っていて、十体程度が隊列を組んでいる。


「にゃー! これはマズいにゃー!!」

「せ、船長、どうします……? 何か作戦は……」

「えーっと、えーっと……何も思いつかないにゃ……」

「うわー!! 船から下りて時間が経ったからもうポンコツすぎるー!!」


 焦るジーニャスと、それ以上に焦る海賊団。

 それでも容赦なくクラブは襲ってきた。

 そこまで速くない動きだが、正確で冷徹にジーニャスに向かって棍棒を振り上げる。

 統率者であるジーニャスを倒せばいいと判断したのだろう。


「ぢぬのはいやにゃー!」


 振り下ろされる棍棒。

 泣き叫ぶジーニャスが情けないエンドを迎えようとしていたのだが――


「く、船長を守れ!!」


 間一髪、海賊団たちが防御を固めた。

 クラブの力は強いのだが、人間でも何とか耐えることができる。

 そのまま海賊団とクラブの集団がぶつかり――乱戦へもつれ込んだ。


「あ、あわわ……」


 本来なら陣頭指揮を執って、この状況を打開するはずの船長。

 それが今は情けなく縮こまり、守られることしかできていない。

 身体が震え、憐れな姿を晒してしまっている。


「こ、こんなのじゃ船長失格だにゃ……。愛想を尽かされて捨てられてもおかしくないにゃ……」

「何を言ってるんですか、船長! オレたちがあんたを見捨てるはずねぇでしょう!」

「そうですぜ! あのとき……もっと情けなく陸で、ゴミのようにくすぶっていたオレらを再び立ち上がらせてくれた!」


 海賊団の全員が、必死になってジーニャスを守っている。

 なぜ、彼らはそこまでするのだろうか?

 ジーニャスは、自らの醜態を泣きたくなってきてしまうほどだ。


「どうして……私じゃ無理なのに……。あれも全部ノアクル様のおかげで……」

「違う! オレたちは、船長が信じたノアクルの旦那だから信じているんだ!」

「船長あっての海賊団!」

「船長に不可能なことはねぇですぜ! 伝説の大海賊フランシス・ジニアスの娘! 天才ジーニャス・ジニアス!」

「オレたちの偉大なる船長だ!」

「あんたたち……」


 命を懸けてまで、自分を慕ってくれている海賊団。

 まだ15歳のジーニャスが物心ついた時からいた古参や、新米の時から知っている者もいる。

 彼らから鼓舞されて、胸の奥が熱くなってくる。

 立場が人を作るとはいうが、今のジーニャスは〝正義のジーニャス海賊団の船長〟なのだ。

 信じてくれる者たちがいるのなら、何も不可能なことはない。

 なにせ、正義の海賊団船長ジーニャス・ジニアスは――


「天才ですからにゃ! この私は!」


 マントをひるがえしながらバッと立ち上がり、海賊帽をかぶり直した。

 顔つきは少し前のフニャフニャした情けないものから、女海賊の凜々しい表情へと変わっている。


「よく考えたら、ここも海の上ですにゃ!」

「……え? ここは〝空中〟城塞都市ですぜ?」

「シャラーップ! 海の上空だから、海の上と言っても過言ではないにゃ! つまり私のテリトリーにゃ! これで全力を出せるにゃ!」

「せ、船長がそれでいいなら、いいですぜ……」


 トンデモ理論過ぎて船員たちが若干引いているが、本人がやる気になっているのだから水を差すことはできない。

 ようするに空気を読んだ。


「さて、なるほど。ふむ、そういうことですかにゃ」

「船長、何か思いつきましたか!?」

「はいですにゃ、ちょっと台座のボタンを押してきますにゃ」

「えぇっ!?」


 船員たちは信じられない発言を聞いてしまった。

 十体程度の恐ろしい戦闘機械クラブが、台座の位置までウヨウヨしているのだ。

 それへジーニャスが行くというのは自殺行為すぎる。


「船長、無茶ですぜ!?」


 船員たちが止めようとしたが、ジーニャスはフラッと台座の方へ向かってしまった。

 武器も構えずに、無防備で堂々とした歩き方だ。


「やべぇ! 船長の方へ敵が向かっていく!!」


 クラブがジーニャスに近づき、棍棒を振り下ろす。

 あわや海賊団終了――と思いきや、ヒョイッとジーニャスは躱した。


「な、ナイス回避ですぜ船長! でも、そう何度も運良く――」


 次に近付いてきたクラブの攻撃もヒョイッと回避してしまう。


「えっ? 船長、なんで避けられるんですかい!?」


 次々と避け、背後からの攻撃ですら鼻歌交じりでステップを踏んで軌道を読む。


「簡単ですにゃ。こいつらは人間ではありえない一定のパターンで動いている。すべての個体の動きを記憶して、分析したら余裕でわかりましたにゃ」

「お、おいおい……これだけの数の敵の動きをすべて記憶して分析って……」

「うちの船長、普段はポンコツに隠れているけどバケモノだな……」

「ポンコツは余計ですにゃ! あ、それっ、ポチッとにゃ」


 台座まで辿り着き、人差し指でスイッチを押した。

 囚われている住人たちがいる鉄格子が開け放たれる。

 同時にクラブたちの動きもピタッと止まった。


「お、おぉ……なんだか知らねぇけど敵が止まって助かった……」

「複数制御のために単純な動作しか命令されてないので、誤って囚われていた人間を攻撃しないように停止するようになっている……と予想していましたが、その通りでしたにゃー」

「船長が生まれたときから知ってるけど、マジで理解不能だぜ……」


 ジーニャスは海賊の豪快な笑いを見せた。


「ニャハハ! 空でも最強! これが正義のジーニャス海賊団ですにゃ~っ!」

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