完全究極体シュレド

 ノアクルは仕方なく道なりに進んでいくと、何か異様な雰囲気を感じた。


「この肌にビリビリくる感覚は……なんだ?」


 実際に熱かったり寒かったり、何か毒性の煙が撒かれているのではない。

 通路の先に見える扉、その向こう側に何かがいるのだ。

 その何かから発せられる魔力が圧となって、無意識下へ影響を与えてくるのだ。


「まぁ、進むしかないよな。せっかくのご招待だ」


 普通の人間なら立っていられないような圧の中、ノアクルは堂々と進んでいく。

 扉の前に立ち、信じられないことに平然とノックをしてみせた。


「貴方のために鍵は開いていますよ」

「そりゃ、ご丁寧にどうも」


 扉を開けると、そこにはシュレドがいた。

 魔術通信で見たときにも感じたのだが、雰囲気がガラリと変わっている。


「シュレド、お前イメチェンしたか?」

「ええ、この世のゴミ共とは一線を画した素晴らしいファッションでしょう?」

「いや、いかにもな三流悪役って感じだな」


 ノアクルの言葉にイラついたのか、シュレドはスキンヘッドでよく見える血管をピキピキと浮かび上がらせていた。

 どうやら見た目や発せられる魔力は変わっても、精神面は元のままらしい。

 たぶん、今回も自分勝手な独断専行でこと・・を起こしたのだろうと、ノアクルは察する。


「それで何が目的なんだ? 俺と戦いたいのか?」

「ええ、そうですとも。私が没落した原因である、貴方――ゴミ王子をぶっ潰すのが目的ですよぉ!」

「考え方まで三流悪役だな。まぁ、いい。ほら、戦ってやるから、無関係でジャマな住人たちは解放してやれ」


 シュレドはニヤリと汚い笑みを見せた。


「いやですねぇ~! 住人がいることによって、ゴミ王子は下手にこちらに手を出せないでしょう!」

「プライドも何もあったもんじゃないな。どうして俺の前に出てくる悪役は、使えないゴミばかりなんだ……。もういい。想定外だが、お前を速攻で倒して終わらせるか」


 ノアクルは隠し持っていたミスリル片を取り出し、シュレドに向かって指で弾いた。


「その鬱陶しかった減らず口もここまでですよ……! 住人を解放しない理由はもう一つありましてねぇ……!」


 ノアクルはスキル【リサイクル】で金属片を針山のように伸ばして、シュレドの手足を貫いて魔大砲発射できないようにした。

 ――と思ったのだが、シュレドは笑みを浮かべたままだ。


「……なに?」

「無駄ですよぉ!」


 よく見ると、ミスリルの針がシュレドに刺さらずに折れていたのだ。

 かなりの硬度を持つミスリルが折られるとは、にわかには信じがたい。


「この城砦浮遊都市パルプタすべてが古代文明の遺跡となっていて、決戦魔術を発動させるための装置なのですよ!」

「決戦魔術……?」


 現代では聞いたことのない魔術の名前だ。

 嫌な予感がする。


「同意無しに住人全員から魔力を吸い続け、支配者一人を超強化する魔術……! ご覧の通り、ゴミ王子のゴミスキルも効かない身体になりましたよぉ!」

「なるほど、外道だな」

「アヒャハハハハハハハッ!! 住人のゴミ共も、この偉大なるシュレド――いや、完全究極体シュレドに使われて本望でしょう! きっと天国へ行けますよぉー!」

「その前にシュレド、お前を地獄に送るしかないようだな」

「ゴミ王子風情が何をぉー!!」


 決戦魔術によって超強化されたシュレドは筋肉を盛り上がらせ、凄まじい速度で突進をしてきた。

 ノアクルはそれを目で追うことができても、身体が反応できない。

 衝撃。

 シュレドがラリアットをしてきていた。

 ノアクルは大木を打ち付けられたような感覚で、部屋の壁まで吹き飛ばされてしまう。


「ガハァッ……!?」

「これが完全究極体シュレドの力ですよ」


 骨にヒビが入る激痛を感じながらも、それでもノアクルは脂汗を拭いながら立ち上がった。

 ここで倒れるわけにはいかない。


「『完全究極体シュレド』……そのダサい名前、地獄でも笑われそうだな」

「ご、ゴミ王子ぃ……。どうやら徹底的に痛めつけられてから殺されたいようですねぇ……!」


 現状、ノアクルには打つ手がない。

 今は仲間を信じるだけだ。




――――

あとがき

いつの間にか、もう六月ってマジですか!?

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