開戦
「状況はどうなっている?」
ノアクルとローズが艦橋に付くと、すでにいたジーニャスとアスピの視線が向いた。
「航路は維持、いつでも魔導エンジンは最大出力を出せるように準備してますにゃ」
「巨大な浮遊物体は明らかに進路をこちらに捕らえておるのぉ……。友好的な相手かどうかは疑問じゃ」
「なるほど……」
ノアクルとしてはいまいち判断材料が少ないのだが、相手が頭上に来るまで手をこまねいているわけにもいかない。
高度というのはそれだけで脅威となるのだ。
「殿下、魔大砲の準備をしておきますか?」
「そうだな、念のためだ。頼む」
もし交渉となった場合でも、武力を有していると示しておかなければまともなやり取りはできない。
威嚇射撃くらいはできるようにしておいた方が賢明だ。
ローズとジーニャスが各所に指示を出している中、『相手方から魔術通信です!』との知らせが入った。
「出してくれ」
ノアクルがそう答えるとウィンドウが空中に開かれて、そこにはシュレド大臣が映っていた。
「ククク……久しぶりですねぇ……。呪われた子、無駄スキル持ちのノアクル……!」
「……誰だっけ」
「シュレドですよ……!」
ノアクルの記憶では、シュレドはサラサラヘアーの爽やか系イケメンだったはずだ。
それが今や、気合いの入ったスキンヘッドで毛皮のコートを着て、サメのような金属マスクを装着していてダーティーな悪役の風格を醸し出している。
「シュレド大臣……お前、ストレスで禿げでもしたのか?」
「本当に私の神経を苛立たせる天才ですね……貴方は……! まぁ、いいでしょう。これからするのは城塞都市パルプタからの宣戦布告ですよ」
「……宣戦布告だと?」
その言葉に一番驚いたのは、横にいたローズだった。
「せ、宣戦布告!? 冗談でしょう!? こっちは言葉遊びだったとはいえ、公の場で国として認められたのよ!?」
ローズが言っているのは、ゴミ流しの刑を言い渡されたときにジウスドラが『棄てられ王子として、それに相応しいゴミだらけの領土を与え、そこに追放してやろう』と宣言していたことだろう。
処刑という公の場で、国民たちも聞いている最中での出来事だったのだ。
その言葉は軽視することはできないし、破棄するにしてもそれなりの手順と、王族の評判を落とす覚悟がいる。
もしかしたら、そこまでの連携をアルケイン王国がしていたら――と思うとローズはしまったと思ったのだが――
「そんなのは知りません。恥も外聞も関係ない。私はゴミ――ノアクルを排除できればそれで満足ですよ!」
「……理性を失った馬鹿が一番厄介ですわ」
「というわけで、死んで頂きましょう! 城塞都市パルプタの魔大砲を喰らいなさい!」
「魔大砲ですって!? くっ、こちらも魔大砲を発射なさい! 照準はあの図体のどこでもいいわ!! 急いで!!」
とんでもない急展開にノアクルは『えっ』と言葉を漏らしてしまう。
いつの間にかシュレドにとんでもなく恨まれ、ローズがそれに対応するためにとんでもなく即座に魔大砲を発射することにしたのだ。
思考も言葉もすでに遅く、両者の魔大砲が同時に放たれた。
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