ノアクルVS舞姫レティアリウス(Bランク)
次の日、地下闘技場でノアクルとレティアリウスの対戦カードが組まれた。
ノアクルは前と同じように闘士用のマスクを付けて、入場口から中央へ歩く。
途中、観覧席でゴルドーらしき男とローズがいるのを見つけたのだが、目が合った瞬間にローズは逃げ出すようにどこかへ行き、ゴルドーもそれを追いかけて行ってしまった。
(Bランクではまだ注目度が低いか……)
ノアクルは気を取り直して、今の試合に集中することにした。
正面に見えるのは、しなやかで堂々としている仕草で、全身の艶やかな長い体毛が特徴の女犬獣人――レティアリウスだ。
ノアクルとしては獣人の違いはそこまでわからないが、彼らの基準からしたら美人なのだろうなというのが何となく伝わってくる。
一番そう感じさせるのは眼力だ。
「アタシが目の前にいるのに、観客席にいるローズ様を見ていたわよねぇ?」
「……い、いや。見ていないぞ」
「ウソが下手な人間ね。大方、宰相様に頼まれて救出にきたのかしら」
半分当たっているし、ウソも見破られてしまうらしいのでやりにくい。
ノアクルは必然的に黙ることになる。
「ウソは下手でも、少しは賢い人間のようね。それなら教えておくわ。Bランクに上がれば施設内をある程度歩けるようになるの。そこで最強のAランク獣人闘士……スパルタクスに会いなさい」
「そういう話をするということは、俺を勝たせてくれるのか?」
ノアクルはジョークを言うような口調でニヤリと笑みを浮かべた。
相手の返答は最初からわかっている。
「いいえ、万が一にもアタシを倒せたらの話よ」
会場にアナウンスが響き渡る。
『では――新進気鋭の闘士ノアクルVS舞姫レティアリウスの試合を開始します!』
ノアクルが構えた瞬間、足元に大きなへこみができた。
「……は?」
レティアリウスが離れた場所で拳を振っただけだ。
それだけでノアクルの足元へ気功という飛び道具を放ったというのだろうか。
その素早さと攻撃力を目の当たりにして、さすがに呆気にとられてしまう。
「これがアタシの攻撃方法よ」
「最初の一撃を当てればだいぶ有利だったんじゃないか? もしかして、俺に惚れでもしたか?」
「ふふ、最初から思ってたけど面白い冗談を言う人間ね。これはみんなにやっていることよ、アタシが有利すぎるからね」
彼女は信じられない程のフェアプレイ精神だ。
初手で腹痛勝利を狙ってきたトラキアとは大違いだと思ってしまう。
ともかく、相手の動作や攻撃方法が実際にわかったので戦闘を開始した。
「ハッ!!」
レティアリウスは素早いジャブの動きで気功を飛ばしてくる。
対して、ノアクルは軌道を予測して横へ回避――したと思ったのだが、即追加で気功が飛ばされてきた。
辛うじてガードをしたが、腕がジンジンと痺れる。
「こりゃ初手を見ても対等とは言えない強さだな……」
「そこは頑張ってもらうだけだわ。せいぜい、トラキアのようにチビらないようにね」
「トラキア……お前……」
特に知りたくもない同居人のことを知ってしまったが、気を取り直して戦いに専念する。
一撃のダメージはそれなりだが、即戦闘不能になるわけではない。
イチかバチかガードを固めつつ突進して、近接戦に持ち込むことを考えた。
「なるほど、近付いてくる選択をするわけね。普通なら痛みを恐れて足がすくむでしょうに」
「美人とはお近づきになりたいのさ!」
両腕を盾にして前へ猛ダッシュ。
何度も気功が飛んできて非常に痛いが、骨が折れたりしていないので戦闘自体は続行できる。
(といってもメチャクチャ痛くて心が折れそうだぞ、これは!!)
半泣きになりそうだが、幸運にもその顔はマスクで隠れている。
何とかして格闘の距離に近付いたところで、ノアクルは気が付いてしまった。
(そういえば、獣人って身体能力が高かったんだな)
そう思考した瞬間、手に直接の気功を纏わり付かせた打撃で吹き飛ばされていた。
それは飛ばしてくるモノより威力が大きい。
何とか受け身を取って、追撃の飛んでくる気功を横っ飛びで回避する。
「身体も強くて、飛び道具も強いってチートかよ!」
「そんなことないわ。だって、アタシはAランクのスパルタクスに一度も勝ててないんだもの。世の中にはもっと強いのが大勢いるわ」
「たしかに……あんたを倒さないと、Aランク相手でも戦えないってことだな……」
ここは強者でなければ、何も得られない。
地上では金、地下では力が何よりも大事ということだろう。
ノアクルもそれに従うしかない。
――なので、それを示すことにした。
「スキル【リサイクル】」
スキル【リサイクル】は、ノアクルがゴミと認識したものへ影響するスキルである。
現在の状況は、闘技場で一対一の戦いの最中だ。
この場合は何を対象とするか? となる。
答えは――
「なっ!? アタシの気功が効かない!?」
「身体の外へ魔力を放り投げるってことは、ゴミのポイ捨てと一緒だよなぁ……? ありがたく使わせてもらうぞ!」
次々と放たれる気功に対してスキル【リサイクル】を使用して、右手に纏わり付かせていく。
これは以前、放たれた火矢に対して使うことができたので、それが魔力であってもいけると直感でわかったのだ。
そのままレティアリウスへ走っていき、気功で強化された右手の一撃を放つ。
「ぎゃんッ!?」
レティアリウスは仰向けに倒れ、ノアクルはさらなる一撃を顔面へ――寸止めした。
「まだやるか?」
「……いいえ、降参。あなたが獣人だったら惚れちゃってたわね」
「俺は種族を気にしないぞ。今は他のことが楽しいから断るがな」
「ふふ……本当に面白い人間……。いえ、ノアクルだったわね。スパルタクスへは話を付けておくわ。今は……勝者として喜ぶ姿でも見せておきなさい。この舞姫レティアリウスを倒したんだから」
「ああ、そうさせてもらう」
『勝者――新進気鋭の闘士ノアクル!』
ノアクルは、レティアリウスに手を貸してやった。
彼女の身体は思いのほか重く、獣人の筋肉量というものを感じさせられた。
スキルを使用しなかったらどうなっていたかと思うと、背筋がゾッとしてしまう。
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