圧倒的アドバンテージなハーピー

「ハーピーが仲間になった! ……って、名前はなんて言うんだ?」

「アタシはムル~。ムル・シグ。弟と妹がいっぱいいるから、お姉ちゃんって呼んでもいいよ~」

「よし、わかった。よろしく、お姉ちゃん」

「お主、なぜ迷わずそちらで呼んだ……」


 アスピがツッコミを入れてきているがスルーした。


「俺はノアクル・ズィーガ・アルケインだ。長いからノアクルか、イケてるゴミとでも呼んでくれ」

「わかった~。よろしくノアクル~」

「残念、俺をイケてるゴミと呼ばないのか」

「お主、ハーピーに常識で負けておるぞ……」


 もう一度アスピを海に投げ込もうかと思ったが、ついさっき謝り倒してご機嫌伺いをしたところなので我慢しておいた。

 大地の加護を消されるとまずい。


「さて、まずはムルのことを理解しておきたいと思う。これから一緒にいることになるんだからな。色々と話してほしい」

「自己紹介~? えーっと、お姉ちゃんは遠い遠いハーピーたちの巣から追い出されて、テキトーに飛んでたら寝心地良さそうなハンモックを見つけた感じ~」

「ゴミのように追放されたというわけか! さぞ、理不尽な理由が……」

「何百年もごろごろぐーたらしてたら怒られた~」

「……り、理不尽かはさておき、ムルは何ができるんだ?」


 人間としてはハーピーの正しい生態などの情報を持っていない。

 まずは基本的なところから知っていくことから始めた。


「うーん、ヤシの実を割ってジュースを飲める?」

「ほほ~。ヤシの実を割ることができる器用さか」


 うんうんと頷くノアクルを余所に、ムルは拾ってあった漂流物のヤシの実を足で握った。

 その足は鳥と同じようで、大きなかぎ爪のようになっている。

 きっと硬い物にぶつけて器用にヒビを入れるのだろうと思ったのだが――


「え?」


 グシャッという人の頭でも潰すかのような音と、汁が飛び散った。

 ヤシの実を割るというよりか、足の握力で握り潰したのだ。


「手加減したのにヤシの実ジュース、こぼれちゃった~」

「すげー力……」


 ゴリラでも真似できるかどうか怪しいパワーを目の当たりにしてしまった。

 恐るべし幻想生物。


「寝ぼけてるとこれやっちゃうから、あまり巣には近付かない方がいいよ~」

「了解だ、死にたくない。あとはどれくらい飛べるか見せてくれるか?」


 そうノアクルが言った瞬間、ムルは大砲で撃ち出されたかの如く飛び上がった。

 あまりの加速力、あまりの蹴り上げる力でイカダが大きく揺れる。


(胸も大きく揺れていたが、またアスピから何か言われるから黙っておこう。ちなみに見ようとしたのではなく、目の前だったので不可抗力だ。俺は断じて邪な気持ちなど……ないッ!)


 本当は若干あるが、今はゴミをリサイクルしている方が楽しい。


「おぉ、もうあんなに高く……」


 ムルは鳥が飛ぶような高度まで一瞬で飛び上がり、それからパフォーマンスで横方向へも空をかける。

 その速度はかなりのもので、竜王国にいるというワイバーン以上だろう。

 この世界は空を移動できる乗り物というのが、希少なワイバーンやペガサスなどしかないので、ムルの存在はかなり大きい

 これで偵察などをしてもらえればアドバンテージを得られるはずだ。


「ハーピー……すごいな……」


 しばらくしてムルが戻ってきた。

 その表情は不機嫌そうだ。


「どうしたんだ?」

「ゴロゴロできる時間を削って空を飛んだんだけど~……」

「えーっと……それは悪かった。もう見せてもらったから寝て良いぞ」

「わ~い、ハンモックでゆらゆらする~」

「それで、また今度頼むときは偵察になると思う。陸地とか、変わったものを見つけたら教えてくれ」

「あ、小さな島ならあっちにあったよ~。天辺に何か古いガラクタ置いてあった~。それじゃ~おやすみ~……むにゃ~……」

「なに?」


 ムルはある方角を指差して、ハンモックに吸い込まれて惰眠を貪り始めた。

 ノアクルとしてはもう少し詳細を聞きたいが、潰れたヤシの実にはなりたくないので寝かせてやることにした。


「ちょっと指差した方角へ行ってみるか」


 さっそくオールでこいで――と思ったのだが、肉眼で見えないレベルの場所までオールで漕いでいくと筋肉痛になりそうだ。


「風向き良し……ここは風の力を借りることにしよう」


 ノアクルはスキル【リサイクル】で帆を作り、背後からの風を受けてイカダを進めることにした。

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