恵里香の後悔

一ノ瀬 夜月

第1話

 今日は、引退試合当日。例年なら、勝ち進めば次の試合があるのだが、今年は違う。

コロナ禍の影響により、大会規模が縮小されたので、勝っても負けても今日で終わり。

なので、本当に最後の試合なのだ。

でも、私はスタメン(試合が始まる時に、コートに入る7人のメンバー)になれなかった。もちろん、途中から試合には出れると思うが、果たして私は活躍出来るのかな?


 そんな事を考えていると、「恵里香ー!そろそろ試合始まるよ。先生も呼んでるし、行こうよ。」と声をかけて来た女の子がいた。彼女の名前は利奈。

ハンドボール部の中でも珍しい左利きで、

エース的な存在だ。

加えてすごい努力家で、自主練も欠かさないすごい子なのだ。

でも、もう一人のエースである沙良とは、あまり仲が良く無い。

沙良は、自分を強く持っている子で、男勝りな一面もある。

そんな二人は、入部した時から、気が合わないようで仲が悪い。

私と他の子が、よく間に挟まれて困っていた。

まぁ、それは一旦置いておくとして、「分かった、すぐ行く。」と返事を返した。


 それから、試合前の諸々の準備を終え、ついに試合が始まる。

前半は、利奈や沙良が攻めて、点を決めるも、相手が点を次々と返し、徐々に点差が開いて行く。

前半も残り僅かの所で、私が交代で投入された。シュートを狙おうとするも、ディフェンスが警戒していた為、迂闊に打てない。

なので、主にパスやフェイントなどで、利奈のアシストをして、前半は終わった。


 休憩を挟んで迎えた後半、依然として流れは悪い。

点差も縮まらず、相手のディフェンスも油断していた時、私は、フェイントでディフェンスをかわして、シュートを決めた。 

たった一本のシュートだったが、内心大喜びだった。

これが、逆転の流れに繋がれば良いなとすら考えていた。


 しかし、そこからの試合展開は最悪だった。相手が脚力を活かし、速攻を連発で使ってきた。

私達のチーム全員が、ほぼ体力の限界を迎えていたのに対し、まだあちらは余力を残していたのだ。

それに、暑さと疲れで思考が上手く定まらず、味方同士のパスミスや、連携不足も目立つようになってきた。

かく言う私も、連携でミスをしてしまい、先生や利奈からかなり怒られた。

私達が精神的にも、体力的にも限界を迎えた所で試合は終わった。

結果は、かなりの点差がついての惨敗。

 

 試合後に、先生の話を聞いた後、場所を移動して、休憩を取っていた。休憩中に、今の試合を反省する子。

先輩の引退を悲しんで、泣いている子。 

そんな後輩を励ましながら泣いている子などがいて、みんなそれぞれ別の想いを抱えていた。

でも私は、泣いてもいない上に反省もしていなかった。

この時は、ただ試合が終わったという事、最後の試合で点を決められて良かったという事の二つを噛みしめていた。


 しばらく経って、昼食を挟み、チームメイト全員で集合をしていた。

そこは、三年生が下級生に対して、伝えたい事を伝える場だった。

利奈も沙良も、長い時間をかけて、それぞれが下級生に伝えたい事、また残したい事を語っていた。

途中で、利奈が泣き出したのにつられて、後輩数人のすすり泣くような声が聞こえた。

利奈がたくさんの後輩に好かれているのが伝わって来た。

そして、私の番が来たので、伝えたい事を簡潔に喋った。他の二人に比べて、熱意のない短い言葉だったと思う。

その場でも、私は悲しみを感じて泣く事は無かった。


 集合が終わった後は、みんなが静かに帰って行く。帰り道を歩いている時、私は「自分の三年間は何だったのか、部活を真剣にやっていたのか?」と考え続けていた。

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恵里香の後悔 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

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