刀は要らぬ

しいらし ゆう

春日部にようこそ

第1話 タイムスリップでござる



 3月10日、巨大なビルの側面の電光掲示板に時の総理大臣が映されている。

「我が国の未来は、今回のオリンピックの成功にかかっているのであります」

 行き交う通行人はそんなことには目もくれず、慌ただしく動き回る。新宿の光景はいつもこうである。政治に対する無関心さは年々顕著になっていくばかりで、今や日本が抱える大きな問題となっている。

 首相なんて誰がやっても同じだ。俺も含め、みんなそう思ってる。お隣の国と揉めたり、税金を増やしたり、やっていることは皆同じだ。それに、ニュースを見れば誰かしらが問題を起こしている。政治家に対する信頼は地に落ちていると言っても過言ではない。


 新宿にはこの3年間、幾度となく通った。タケ、マサ、そして俺。学校終わりによくここにきては遊んでいた。しかし、そんな生活も今日で終わりである。俺の進学先が地方大学であることが原因で、俺はもうじき引っ越さなくてはならなかった。今日は3人で遊べる最後の機会だった。

「おい、マサ、ここ1時間1500円や。他のとこ行こうぜ」

「もう他にカラオケ店ねえよ。仕方がないけどここにしよう」

「いっそのこと、ボウリングにする?」

 と言うと、一瞬場の空気が凍る。

「おい、お前が最後はカラオケがいいって言うからカラオケにしたんだろうが」

「……ごめん」

 財布の中身を見て、まだ余裕があることを確認したのち、俺は彼らに続いて店内に入った。通された個室の中には、えらく派手なミラーボールが回っている。普通のものと光の強さが違って強烈だ。そんなことを気にすることもなく、マサはすでに曲を選び始めている。タケはタンバリンを両手に持って踊っている。見慣れた光景も、これで最後かと思うと胸が痛む。


 じゃじゃじゃじゃあん♪


 と軽快な音が鳴りはじめる。

「よっしゃああああああああああいくぜえええええええええ」

 マサが歌い出すのと同時に、タケは手に持ったタンバリンをすごい勢いで鳴らし始めた。マサの歌が全く聞こえないほどに。もはやカラオケではない気がする。


 シャンシャンシャンシャンシャンシャン♪


「うるせえよタケ!」


 俺のこの声もタンバリンにかき消された。その時、ミラーボールの強い光が目に入った。


 シャンシャンシャンシャンシャンシャン♪

 シャンシャンシャンシャンシャンシャン♪

 シャンシャンシャンシャンシャンシャン♪

 ……。










 目が覚めた。ん?覚めた...?俺は寝てたのか?

 起き上がるとタケとマサが横で倒れている。先ほどまでカラオケボックスにいたはずなのに、意味がわからない。

「タケ、マサ、起きろ!おい!」

「ん?どこ?ここ?」

 タケは起き上がるやいなや、驚きを口にした。マサは目を開けたままフリーズ状態である。それもそのはずだ。とにかく暗い。何も見えない。この状況がおかしいことは誰の目にも明らかだった。

「おい、ヤス、ここどこだ?」

「知るかよ。なんでこんなとこにいるんだよ」

「あれ?さっきまでマイク持って歌ってたはずなのに...」

「あれなんだ?なんか光ってるぞ」

 と、タケが指差した先には淡い光が漂っていた。

「人……か?」

 その光はだんだんこちらに近づいてくる。足音のような音も、徐々に聴こえはじめてきた。人であることはまず間違いなさそうだ。

「どうする?声かけてみるか?」

「まず、ここがどこかぐらい聞いてみようぜ」

「そうだな」

 俺らは足並みを揃えて、ゆっくりとその光の方へ近づく。

「俺、やっぱり怖えよ」

 マサが1人、怖気だす。足を止めて、俺の背中を掴んだ。マサはあまり強気ではない。仕方がないと言ったら、まあ仕方がない。俺も怖いのは事実だ。

「おい、急がなくちゃあの人行っちゃうぞ!」

 タケがマサをそう励ますのだが、マサはその場に座り込んで動こうとしなかった。寒さなのか、怯えなのか、少し体が震えていた。そうこうしているうちに、小さな炎は闇の中に消えていった。

「ほらみろ!どうしてくれんだ!」

 タケがマサの胸ぐらを掴んで、上下に揺らす。タケは追い詰められた局面で感情的になりやすい。さらに起こりっぽい性格である。長年一緒にいるとそんなところまでわかってくる。

「やめろタケ!今さら何言ったって変わんねーよ」

 俺が止めに入る。タケの手を強引に振り払った。すると、その弾みで何かがタケのポケットから落ちた。ボトッと重い音がした。

「なんだ今の?」

「探せ、探せ」

 暗闇の中、泥が混じる地面を手で触って探す。手元は何も見えない。

 暫くして、硬いものが俺の手に触れた。

「あった!たぶんこれだ!」

 手に取ると、手のひらサイズ。なんだこれ。よく見えない。

「ちょ、貸して」

 タケがそれを奪い取ると、驚いた様子で、

「あ、これ俺の携帯だわ」

 なんて言って、電源を入れた。その明るさだけで、俺らは多少辺りが見渡せるようになった。俺は少し驚いた。見渡す限りの草原だったのだ。丈が腰ほどもある草が、一面に広がっている。霧がかかっていてあまり遠くまでは見えないため、得た情報は少なかった。

 改めて、俺もポケットの中を探ると、俺の財布と携帯が出てきた。2人も同じように、持ち物を確認していた。

「クソ、充電が半分しかねえ」

「半分あったら十分だ。さっさと110番かけろ」

「まかせろ」

 タケは一安心したように、携帯を開いて電話をかけようとした。だがすぐに難しい顔をした。

「だめだ。ここ圏外だ」

「嘘だろ?ここ新宿のど真ん中のはずだぞ」

「んなわけねーだろ。こんな広い公園は都心にねーよ。」

 俺は携帯のライトをつけた。

「とにかく、この公園を出るだけだ。前に進もう」

 公園なのかどうかは、本当はわからない。だがそう信じるしかない。自分たちを励ますために、そう言ったのかもしれない。

 2人も同じようにライトをつけて、前方を照らした。先程までは見えなかった遠くまで、うっすら見えるようになった。何やら黒い建造物が見えた。巨大だ。あれってまさか……。

「...城?」

 3人、口を揃えてそう言った。立派な天守閣が天にそびえたっていた。周りの建物が低いせいかもしれないが、スカイツリーよりも圧倒的にデカく見えるのだ。

「あれ何城?タケ」

 高校時代に日本史を専攻していたタケは頭を捻らせる。流石に城の名前までは覚えてないだろう。

「すまんわからん。ヤス。地理勢だろ。わかるか?」

「いや、地理勢は城の勉強なんかしないからな」

「そうか...。マサはわかr」

「わからん。俺、世界史勢だぞ?」

 食い気味でマサは答えた。はあと、深いため息をついた。

「あそこまで、歩くか...」

 タケは言った。マサは軽くうなずくと、1人ゆっくりと歩き出した。俺らも、携帯で前を照らしながら彼に続いた。

 しばらく足を進めると、竹林に出た。背の高い林に視界を奪われ、目指すはずの城が見えなくなった。依然として足元は濡れていた。歩きづらい。

「これってさあ」

 林に中を歩き始めて10分ほどたった頃、マサが口を開いた。

「タイムスリップじゃないの?」

「は?何言うだすんだ急に」

「んなわけあるか!あれは映画の中だけの話だ!そんなことあるわけねーだろ!」

 だが、そうこうしているうちに、俺らは竹林を抜けて町らしきところに出た。そこに存在するものに、俺らは目を奪われた。数多くのチョンマゲピーポーが、腰に刀を刺して歩いている。建造物の高さは皆2メートル前後、道もコンクリートではなく踏み固められた土だ。

 俺らは急いで携帯をポケットにしまった。こんなものを持っていてはいけない。バレてはいけない。そんな気がした。野生の本能だろうか。

「おい、マジかよ...」

「本当にタイムスリップじゃん...」

 俺らは道の端っこで、ただ唖然と目の前に広がる異様な光景を眺めていた。どこを見ても、令和の面影はない。江戸か?安土桃山か?俺にはわからない。

「おい、タケ。これ何時代かわかるか?」

「ああ。あれを見てみろ」

 タケが指さしたのは、ある百姓が持っている農機具だ。

「あれは、おそらく備中ぐわではない。」

「はい?」

 俺にも、マサにも、何を言っているかわからない。

「備中ぐわっていうのは、江戸時代の農具だ。だからおそらく、この時代は江戸時代以前だ」

「な、なるほど」

「タケ、お前すげえな」

 タケはわかりやすく照れた。その時だった。

「やい。お主は何処から来なさった。見ない顔でござるな」

 1人の若い農民のような人が俺らに話しかけてきた。髪は乱雑に結ばれている。あまり裕福な人ではないのだろう。着物も汚い。俺らは顔を見合わせたが、誰も答えようとはしない。皆、焦って声が出ない。

「なんじゃその着物は。なんと書いてあるのでござるか」

 と、その農民は俺の「love and peace」と書かれたパーカーを指差した。

「これは、その、ああ、お店で買いました」

「そうかそうか。珍しき着物でござるな」

 若い男は俺に笑って見せると、小走りで町を駆けていった。言葉遣いが俺らの時代と違うことに、俺はその瞬間に気がついた。やはり俺らはタイムスリップしてきたに違いない。

「1回、林に戻ろう。こんな服着てたら、怪しまれる。」

「そうだな」

 俺らはさっき来た林の中に、再度足を踏み入れ暫くの間姿を隠すことにした。

 俺は折れた木の幹に腰掛けた。周りに人がいないのを確認してから、ポケットから携帯を取り出したのだが、相変わらず圏外だった。万能なはずの文明の利器は、ここにきてゴミ同然だ。

「だめだ。何もできやしない」

 左腕の時計を見た。7時すぎ。時計はまだ正確に動いていそうな気配がした。体感時計と大体一致する。

「そろそろ晩ご飯食べたいなぁ」

 マサが俺の時計を覗き込んで言った。すぐにタケにしばかれた。

「そういうこと言うな!本当に腹空いちゃうだろ!」

「食べ物、もらいにいけばいいじゃないか」

 マサは半分怒りながらタケに言った。

「馬鹿か、マサ。今の格好で言ったらバッサリ刀で斬られて終わりだ。」

 彼の言うことはあながち間違っていないと思う。さっきの農民だって、運が悪かったら殺されていても不思議ではなかったはずだ。そもそも、そういう時代なのだから。すると、マサは携帯のライトで何かを探し始めた。

「おい、何探してんだ」

「タケノコだよ。竹林なんだから、あるはず」

 タケも喜んで一緒に探し出した。

「タケノコって生で食べれたっけ?」

 そんなの誰も知らない。今や携帯も答えてくれない。

「ちょっと固そうだけどいけんじゃない?」

「食わないよりましだ」

「じゃ、俺あっちで探してくる。タケは奥行って。ヤスはそっちね」

 仕方なく俺も足をかがめて、タケノコを探す。生はちょっとヤバイ気がするのだが、仕方がない。

 それにしても、なかなか見つからない。そうこうしているうちに、腕の時計はすでに8時を指していた。もうかれこれ1時間弱はタケノコ狩りに費やしていることになる。と、その時、

「おい、あったぞ!」

 ヤスの声が聞こえた。俺が顔を上げて声のする方を向くと、遠くでヤスがタケノコを持ってはしゃいでいる。

 同時に、木のきしむ鈍い音がした。それも、ヤスのいる辺りからだ。だんだん音は大きくなる。タケはそれに気付いてキョロキョロしているが、マサはまだはしゃいでいる。

 バキィ!!!

 まもなく、木が折れる音がそこら中に響き渡る。

 ドッカァアアアアアン!! 

 折れた大木が倒れたのだろうか。すごい地響きと共に、凄まじい音が耳に入ってきた。俺は思わず耳を塞いだ。

「お前ら、大丈夫か?」

「ああ」

 俺は大声で問いかけた。タケは返事をしたが、マサから返答はない。

「マサ!どこにいるんだ?」

 俺がそう叫んでも、何も帰ってこない。まずい。

「タケ!マサを探すんだ!」

「おけだ!」

 俺らは先ほどまでマサがいたところに急いだ。そこには大きな竹が根元から折れて倒れていて、周りの数本も巻き込まれて折れている。俺とタケは必死になってマサを探す。携帯の明かりを頼りに賢明に探した。

 マサはすぐに見つかった。彼は折れた木の下敷きになっていた。意識はある。ただ無理やり引っ張り出そうにも、何重にも重なっている木が重すぎて、2人だけでは到底不可能だった。

「ヤス、これまずいぞ」

 マサに聞こえないよう、タケは小声で俺に言う。

「わかってる」

「どうすんだよ?もう俺らじゃどうにもなんねぇ」

「人を呼べばいいだろ」

 タケは頭を抱えた。彼が何を心配しているのかは、重々承知している。が、こうなったからには仕方がない。

「もし、俺らが変なやつだと思われて、その場で斬られちまったら、マサはもう誰にも助けられない」

「じゃあ、お前はマサを見殺しにするのか?」

 タケは黙り込んでしまった。

「いいか、タケ。一か八か町に出て人を呼ぼう。それしか方法はない」

 タケは目を閉じた。覚悟を決めたようだ。

「わかった。ヤス、行くぞ」

 俺らは急いでさっきの町に向かった。

 日が沈んで随分経ったはずなのだが、この街は明るかった。決して明かりがたくさんついているわけではない。人の明るさが、この街を明るくしているのかもしれない。

「誰か、助けてください!」

「お願いします!友達が木に挟まれて危険なんです!」

 俺とタケは必死に叫んだ。が、俺らの服装を怪しんで、誰も助けようとはしてくれない。挙げ句の果てに、

「おい、その格好はなんじゃ。貴様は異国の者か?」

「いや、異国というか、なんというか....」

「とにかくこっちに来い!怪しい奴にろくな奴はいないわい。殿様の屋敷に連れて行かねばならぬ」

「ちょ、待ってください!」

 その武士は、抵抗する俺とタケの手を掴んだ。

「貴様、暴れるとわしがここで斬る。それで良いのか?」

 俺らは顔を見合わせた。もう無理だ。絶体絶命とはこういう状態を言うのだ。

「何事じゃ」

 そしてまた1人、農民のような人がやってきた。見覚えがあるような、ないような....。

「ほら、さっき会った人だよ。お前の服に突っかかってたあの人」

 タケが耳打ちで教えてくれた。確かにあの人だ。まだ近くにいたのか。

「そなたは、ありつるお二人ではないか」

 彼は俺らのことを覚えてくれていた。荒げた声でそう言った。

「もう一人、いたはずなのじゃが」

「その、そいつが木に挟まってしまって、動けなくなってしまったんです」

「なんと!?ならば、某がお力添えしようぞ」

 その人は、率先していろんな人に声をかけてくれた。やがて、20人ほども集まってくれたのだった。

俺とタケは現場に急いだ。中には侍のような人も、農民のような人もいた。みんな、見慣れない姿をした俺らにもとても優しかった。それもこれも、あのお方のおかげかもしれない。

「ここです!」

「こりゃ酷いですな」

「わしがこっちを持つ。誰か、そっちを持ってくれんか」

 彼らは倒れたマサを見るなり、すぐに助け始めた。俺とタケも加わり、木をどかす。だが思った以上に重い。もうすぐ動きそうなのに、なかなかうまくいかない。

「おい、そこの小娘。そなたも手伝っておくれんか?」

 ある一人が、後ろの方で立ち尽くす女性を大越で呼んだ。どこか、現代風の雰囲気を感じる。若くて素敵な方だ。同い年ぐらいのような気もする。

「は、はい!」

 その女性は袖をめくると、俺の右横に立った。やはり、何かこの時代の人とは思えない感じがする。

「せーーーーの!」

 グッ!

 ドン!

 木は見事、横に転がった。あとはマサの救助だ。だが彼にはもう意識がない。一刻を争う状態なのは、依然として変わらない。

「すぐに運ぶぞ!」

 俺らと最初に出会った農民が、マサを担いで走り出した。後の軍勢もそれに続く。俺もタケも、隣に居たあの女性も。町に出ると、籠が待っていた。

「ここに載せよ。急ぎ運ぶぜよ」

「ありがたきことよ。あとはよろしく頼む」

「はっ」

 農民はそこで籠にマサを載せ、

「籠についていくが良い。目覚めた時に、其方たちがいなければ、こやつも心配するぜよ」

と言った。

「はい。本当にありがとうございます」

「では、さらばじゃ」

 農民は手を振り、町の中に消えていった。せめて名前だけでも、と思った。彼がいなければ俺は殺されていたかもしれない。俺たちの恩人だ。

「おい、ヤス!急げ!」

 籠はもう走り出していた。遠くの方からタケの声がした。俺は急いでその後を追った。

 籠のスピードは凄まじかった。俺とタケはなんの荷物も持っていないのだが、高校3年間サッカー部でしごかれた俺らが精一杯走って、ついていけるかどうかであった。その間も、時代劇のセットのような町は延々と続いた。

 俺は時折、並走し、籠に近づいて中の音を伺った。いくら待ってもマサの呼吸音は聞こえてこなかった。だが、ボタボタと籠の隙間から滴る血の音だけは、止むことはなかった。


「つき申したぞ!」

 暫くしてある建物の隣で籠は止まった。籠を担いでいた2人は、マサを引っ張り出して室内に運んだ。診療所か何かなのか。俺とタケはもうヘトヘトだった。だがそんなことを呑気に言っている余裕もなかった。俺らも急いで室内に入った。

「うわ、マサ.....」

 タケは言葉を失った。それほどまでにマサの状態は悪かった。蝋燭の火だけで、彼にもう未来はないことは見てとれた。

「マサ……」

「マサと申すのか、こやつは」

 医者なのか分からないが、偉そうな男はそう聞いてきた。俺は黙ってうなずいた。大粒の涙が溢れた。

 家はどこだと聞かれた。新宿区と答えた。遠いのかと聞かれた。分からないと答えた。俺は逆に、

「ここはどこですか」

 と問い返してみた。するとその男は

「何を申しておる。尾張のカスカベにござるぞ」

 尾張....。一応中学歴史までを学んでいる俺なので、聞き覚えはあった。だが今で言う何県なのかもわからない。ましてやカスカベなんて何のこっちゃわからん。

「おい、おっちゃん、とにかく今日はここにいさしてくれ」

 タケは涙を堪えながらもそう言った。

「某は恭之助じゃ。おっちゃんではござらぬ」

「恭之助のおっちゃん、お願いだ。マサがこんなんじゃ俺はまだ....」

 タケは堪えきれなくなって、とうとう大声で泣き出した。

「ならば、いいだろう。今日はここで寝なされ」

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 俺は深々とお辞儀をした。恭之助は俺らの服装と喋り方についていくつか聞いた後、部屋を出ていった。

 マサはもうピクリとも動きそうもなかった。俺とタケはマサの隣で寝た。いろんなことを、一度に受け止めなければならなかった。「生」と言うのを、初めてこんなに重く感じた。また、俺らに何もできなったという無力感を痛いほど味わった。酷く辛い夜だった。

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