マスターのこだわり

 長年喫茶店を続けているだけあって、マスターのこだわりはロイヤルミルクティーだけにとどまらない。実はコーヒーもこだわりが強く器具から扱いを理解し、実践し、似たような味を出せるようにするまで大変である。

「これもですか?」

「ああ」

 店の作りもそうだが、器具の扱い方や温度管理までお客様に心地よく過ごしていただくために徹底されている。

「これで利益って出るんですか?」

「今月はお客様少なかったから厳しいかもね」

「……ですよね」

「しかし、いつもはもう少し利益率は高いのだよ」

(ほんの少しだけね)

 常連さんがいてくれて、コンセプトに迎合してくれた女子大生がいてくれているから成り立つ部分はある。

 それもこれもマスターの人柄のおかげなのだと学ぶことはある。


 しかし、これらを学んで2代目マスターとしてやっていくことやノウハウを吸収して店舗展開していくのは厳しいだろう。


 それを企業に報告する気にまだなれない。

 どう利益を出していくかが課題だな。

(もうすこしこのまま、いろいろなことを習っていないな)

 不思議なことに、同じ材料、同じ方法を行って作っているにもかかわらずマスターが入れたコーヒー、ミルクティーとは味が違うのだ。

(味、二段階くらい落ちている)

「僕の入れたのまずいですよね」

「んー、今まで入ってくれたバイト君たちも同じような味だったよ」

 自分が特別作る品が下手というわけでもない。

 入れる順番も同じなはずなのに。

 違うとするならタイミングだが。

「奥が深いですね」

 マスターは至極嬉しそうにうなずく。

「だろう」

(利益とか度外視で一人で回していて、味も最高級とか。一生この人に勝てる気しないわ)

 結局、企業に報告することにした。ノウハウは紙でもみているだけでも駄目なこと。

 自分が入ったとしても同じような味にはならないこと。

 結論としてはマスターの能力があるからこその味であると。

(悪い方向には転ばないでほしいなぁ)

自宅に帰って、企業にレポートを作成せねばならない。

(今日は徹夜だな)

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