紅茶党のマスターが喫茶店でコーヒーを出す! 完

朝香るか

第1話 マスターのこだわり

 マスターは本格派コーヒー喫茶を経営している。しかし

 興味は紅茶に一直線なのだ。コーヒーの銘柄よりもダージリン、アッサム、オレンジペコなどなど紅茶の銘柄や淹れ方にこだわりがある。



『カフェでさいこうのひとときをお楽しみください』

 ポップに誘い文句が書いてある。小さな店なんだ。


 私はロイヤルミルクティーが最高に好きでね。

 ビジネスで需要があるのはコーヒーのほうだろう。

 食事としても一応メニューはあるがすべてサンドイッチ。たまごサンド、TLBサンドなんかを作っている。

 赤字のときも勿論あるけど、コーヒー豆が自慢だから飛ぶように売れる日もある。それに助けられて、

 ゆるりとして落ち着いた大人の空間を提供できている。

 今日もひとり、コーヒーの魅力に気づいた若者がいる。

「美味しい」

 つぶやかれると照れてしまうな。

 まぁそれなりの仕入れ値で買っているし、それなりの手間をかけて入れているから美味しいのは当然なわけだけど。

 常連客にしか出さないロイヤルミルクティーを出せるような関係性になれるかな?

 原稿用紙を出して書き付ける青年。

 その後PCを出してカタカタと入力しはじめる。

「いつもかいているのかい?」

「ええ。小説かくのすきで」

 聞けば、新人賞の一歩手前まで行ったと言う青年はPC入力も早く、何万字か書いているところらしかった。

「あの、タイピングの音うるさいですかね?」

「いいや……心地良いくらいだよ。

 タイピングの音にも特徴があってね! 全く音をさせない人もいれば怒鳴り声みたいにバンバン打ち込む人もいるんだよ。君は穏やかで優しい人だね! 機械類の扱いに繊細さは現れるもんだ」

「はぁ」

「まぁ、私はCDによく傷を作る人間だからそんなふうに大切に出来る才能がある人が羨ましく思うよ。

 ゆっくりしていくといい」

 青年はぺこりと頭を下げた。

「懐に余裕があれば豆の一つでも買っていっておくれよ!」

「はい。今日はバイト代が入ったので一ついただきますね!」

 好青年でイケメン、声も聴き心地がいい。

「カッコイイね! 君は」

 彼はテレっと笑う。

「褒めても何も出ませんよ」

 彼はコーヒー豆の袋を一つ買って帰路についた。

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