私の愛犬は「元」最強です!【完結済】

まさひろ

第1話 伝説の魔獣!

「ちょっとアリシアちゃん。いい加減アレ何とかしてくれないかしら」

「すっ、すみません奥さん。しっかり言いつけますので」

「ほんと頼むわよ。毎晩アレじゃろくな睡眠もとれやしない」

「本当に、申し訳ございません。必ず、必ず何とか致しますので」


 じっとりと重たい瞳で私を眺める奥さんを、低頭平体全力の謝罪スタイルで何とかしのぎ切る。

 まぁ奥さんの言い分ももっともな話、私の家は村から外れた位置にあるとはいえ。アレにその程度の距離は全く持って関係ない話だ。


 私の名前はアリシア・ミモレット、クラスはビーストテイマーなるものをやっている。

 要は魔獣使いと言う職業だ。

 魔獣、そうこの世界には多種多様な魔獣が存在している。

 小さいものでは一角ウサギ、大きなものでは言わずと知れた古代竜など。要は人の害となる獣を魔獣と呼び区別しているのだ。


 私の家は高名なビーストテイマーの家系で、特に名高いのは私のひいひいおじいちゃん。

 彼はとある魔獣と契約を交わしたことにより、並ぶもの無きビーストテイマーとしてもてはやされた。


 だけど、ひいひいおじいちゃんはよけいな事に、名声と共に莫大な借金も残していった。

 その結果、我が家は坂道を転がり落ちるように縮小の一手をたどる。

 おかげで、現在どこをほっつき歩いているか分からないお父さんを無視すると、この家を守るのは私一人だ。


 はぁとため息をつき、裏庭に隣接する牧場へと足を運ぶ。

 資産を切り売りして行き、唯一残ったのは今にも崩れ落ちそうなボロ家とこの牧場だけだ。

 そして、その牧場のど真ん中に堂々と存在するものがある。


「……ちょっと。いい加減にしてよね」


 私がどすを込めた声でそういうも、ソレは何食わぬ顔でのんびりとあくびをした。


「ちょっと! 聞いてるんでしょ! ルード!」


 私が大声を張り上げると、ソレは初めて私の存在に気が付いたようにこう言った。


『なんじゃ、アリシアか。ところでわしの晩飯はまだかのう?』

「さっき食べたばっかりでしょ! このバカルード!」


 ソレの名はホワイトフェンリル。

 私のひいひいおじいちゃんが契約したとされる、伝説クラスの魔獣である。



 ★



 ホワイトフェンリル、それは魔獣の強さ議論では常に最上位に位置する魔獣だ。

 その牙は古代竜の喉笛を嚙みちぎり、その脚は一晩で数百キロを走破し、その頑強さはダイヤゴーレムにも引けを取らない。

 まさに神話クラスの怪物。

 だが、私の知るホワイトフェンリルの姿は、その話からははるかに遠い。

 自慢の牙は歯槽膿漏に埋もれてどぶ川以下の臭いがするし、走るどころか歩く姿さえおぼつかない、頑強さに至っては牧場に忍び込んできた近所の悪ガキたちに追い回されるありさまだ。

 まぁそれも仕方がない。魔獣だって生き物だ、そこには寿命と言う避けられない運命が存在する。


 そう、ルードは高齢なのだ。


 彼がいったい何時から生きているのか本人さえも分かっていないが、少なくともひいひいおじいちゃんと契約してからはおよそ100年の月日が流れている。

 ひいひいおじいちゃんが彼と契約したとき彼は現役バリバリの無敵狼だったと言う話だから、少なくとも百歳と言うことではないだろう。


 まぁそんな無敵の魔獣と契約を交わせたというのは眉唾物の話だから、100年前もこのありさまだったと言われても私はちっとも驚かない。

 何故なら、魔獣と契約を交わすには、ビーストテイマーは魔獣にその実力を示さなければならないからだ。

 ちっぽけな人間が、伝説レベルの魔獣と契約を交わすにはそれぐらいのペテンがあるに違いないのだ。


 だが、老いたとはいえ相手は伝説クラスの魔獣。

 ビーストテイマーとは言え無制限に魔獣と契約を交わすことはできない、一頭辺りに契約のコストと言うものが存在しており、ビーストテイマーは己の払えるだけのコストの分だけ魔獣と契約を交わすことが出来る。


 そして、ホワイトフェンリルのコストは伝説級だけあってぶっちぎりの高コスト。あの無責任お父さんが私にルードを押し付けていったため、私が払えるコストはルードの分で満杯だった。つまり私は使い物にならない魔獣と契約を交わしてしまい、他の魔獣とは契約できない状態にあるということだ、これではビーストテイマーと名乗っていいものかどうかも分からない。


「はぁ……」


 口癖となったため息を吐きつつトボトボと家に戻る。


「どうせまた、夜泣きするんだろうなぁ」


 涙がこぼれないように、上を向いて歩こう。

 下を見てもいいことなんて何もない、あるのはルードの食べかすかフン位なものだ。


「ううう……私の人生って何なのかしら」


 ありがたいご先祖様から引き継いだのは、痴呆が入った伝説の魔獣と、個人ではどうしょうもないほどの借金の山。

 この二つの重荷を抱えたビーストテイマーにどんな需要があるのやら。


「あーもう! やってられっかー! こんちくしょー!

 私の自由を返しやがれー!」


 あふれる不満を夜空にぶちまける。


「アオオオオオオオン!」

「ちょ! ルード! 反応しなくていい! 静かにー!」


 ルードの夜泣きが始まった、私は急ぎ、牧場へと戻るのだった。 

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