3-2 執事長への問いかけ
「……ロータス、ちょっと聞いても良い?」
日が暮れて間もなく。
キャロルはデューイ宛〝迎賓館で待つ〟との手紙を軍務室に預けて、レアール家の万能執事長、ロータスが淹れてくれた紅茶に口をつけていた。
「
時折、当主さえやり込めてしまう程の万能執事長は、穏やかに無難な答えを返す。
迎賓館は迎賓館で宮殿付の使用人がいるのだが、秘書も護衛も裏方も兼ねるロータスを側に置かないと言う選択肢は、デューイにはない。
「ロータスは、庭師だったローレンス夫妻と親しかった?」
「――――」
ミルクを持つロータスの手が、少し揺らいだようにキャロルには見えた。
「……前レアール侯ご夫妻にも、ローレンス夫妻にも、キャロル様は一度もお会いになった事がありませんでしたね、そう言えば」
「うん。前レアール侯夫妻に関しては、お父様見てたら印象悪い感じなのは何となく分かるから、まぁいいんだけど……ローレンス夫妻に関しては、母をホームシックにさせちゃいけないって、子供心に思ってて、あまり聞かなかったから。どんな夫婦だったのかな――って、思って」
「どうなさいました、急に」
「エー……ゴホン、陛下が自分にとっての『家族』って、ただ血が繋がっていたって言うだけだから、私にもし、理想とする家族像があるなら教えて欲しいって言われたんだけど……困っちゃって」
「……なるほど。そこですぐ、ご自分の両親と
(……何か知ってる?)
「ウチの両親が、
うなものだし……ローレンス夫妻に関しては、もっと参考になるような普通のエピソードが聞きたいと言うか」
「普通……」
果たして普通のエピソードを聞いたところで、侯爵令嬢と皇帝陛下の結婚生活の参考になるのか。
ロータスは
「……キャロル様は、レアール家が
「あ……うん。館で何人かがそう言ってたね。お父様からも、外枠だけならざっくりと」
昨今、飢餓が原因で捨てられる子供はほとんどいなくなったとは言え、病で一家の働き手を失うなど、多様な原因で毎年一定数の子供が路頭に迷う。
孤児院や修道院などで手を差し伸べきれない時などは、領主の義務として、その都度何人か使用人として採用しているのだ。
先代に関しては、遊興費を優先するあまり結局一人も受け入れる事はなかったらしいが、実際に受け入れた子供達の中には、巣立ちして
「ローレンス夫妻も私も、その枠で言えば先々代様にお声がけ頂いた身です。年齢の違いもありますし、
屋敷内でじっとしていないデューイ少年を何とか机に向かわせようと、庭に少し手を入れて、野外学習のような事を提案したりもしていたらしい。
年齢の近いロータスやカレルも、時々付き合わされていたとか。
「親も庭師だったと言うニーセさんは別にして、配偶者であるメリルさんは、
「……っ」
「まだまだ庭の手入れは素人だけど、ニーセの役に立ちたい――なんて言ってましたね、メリルさん。カレル様が屋敷を飛び出された後は、どこぞの伯爵家の
キャロルは無意識の内に、自分の服の胸元をギュッと握りしめていた。
(
何となくロータスはそれ以上を知っている気はするが、彼がそれを語るとすれば、恐らくは、
ここまででも、キャロルが『理想の家族』云々と話をした事は話の取っ掛かりに過ぎないと察しつつも、ほんの小出しにしか内容を語ろうとはしない。
「母は――
「どうでしょうねぇ……キャロル様とデューイ様程、
「うーん……」
ロータスは、どうとでも取れる答え方しかしなかった。
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