第16話 救助と責任

時は少し遡る。


ルルとメメは走っていた。


可愛らしい顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


その頬っぺたにはしっかりとビンタの跡が残っていた。


セレスが体を張って逃がしてくれた...自分達では到底勝てない。


だったらどうするか...出来るだけ早く援軍を呼んでくるしかない。


震える足で彼女達は怪我するのを構わず走った。


そしてボロボロの状態でギルドへと走り込んだ。


「助けて下さい..ゴブリンにゴブリンに襲われて」


直ぐに、その状況を確認したソフィが対応した。


状況は直ぐに解かった。だが、ここは冒険者ギルド慈善団体では無い...救出をするのも討伐をするのもお金が要る。


「解かったわ...それで、緊急依頼を出すにして、救出依頼? 討伐依頼?」


「どっちでも良いですけど...急いで、セレスさんが」


「解っているわ...だけどお金はあるの? 緊急依頼で相手は無数のゴブリン、通常討伐で1体3万スベル...10体で計算して30万スベルそこに緊急依頼を掛けるのだから上乗せ10万スベル、合計40万スベル直ぐに用意して」


「「持っていません....」」


「そう、ならば諦める事ですね...依頼料無くして冒険者ギルドは動きません」


二人は自分の持ち物やお金を見渡す。


薬草採取で日々食いつなぐ石級冒険者の自分たちの持っている物、現金10万スベル。持ち物全部を手放しても15万スベルにも満たないだろう。


「あの、だったら、持っているお金全部10万スベルで私達の護衛をお願いします」


「それなら、至急依頼をかけます」


緊急依頼なので直ぐに貼りだしをして、酒場に居る冒険者の人たち一人一人声を掛けていく。


10万スベルならあまり割に合った仕事では無い。


まして銅級冒険者なら単なる小遣い稼ぎだ。


だがセレスは見目麗しい。


運良く、セレスを見ていた女冒険者が何人かいた。


だから、通常は割が合わず引き受け手の少ない依頼であったが、直ぐに引き受け手が見つかった。


驚く事に銅級ではなく、銀級の冒険者のミラが依頼を引き受ける。



「緊急依頼なんでしょう? ほら直ぐに行くよ」


ミラはメメとルルを引き連れて直ぐに森へと向かった。


「これはもう無理だな...」


4匹のゴブリンの死体とおびただしい血...そこから考えられることは殺されて食べられた...それだけだ。


もし、この時に生きていたとしても、巣に持ちこまれるまでに死んでいるだろう。


「セ..セレスさん..オェッ」


メメはその惨状を見て盛大に吐き出した。


「何で、何で...そんな」


解り切っていた、自分より弱いセレスがゴブリンを食い止める...ならこうなるのは当たり前だ。


何故、逃げたんだ...そう思う自分と、逃げなければ自分も死んでいた..もしくは慰み者になっていた。


どうする事も出来なかった...そんな自分に嫌気がさした。


ルルはもう何も喋らなかった。


「お前ら、もう気は済んだか? ゴブリンが帰ってくる前にここを去るぞ」



冒険者ギルドに帰ってきた。


二人の様子を見たミラは1万スベルだけ取って返した。


ソフィはルルを呼んだ。


「ルルさん、8万スベルをお返しします。」


「何で?」


「ミラさんが貴方達を見て手数料だけで良いとお金を返してきました..ギルドの手数料を取った8万スベルお返しします」


「そうですか...」


「ギルドは全て自己責任です。 死んでしまってもそれは自分の責任、問題はありません、ですがどうしても言わせて下さい」


「何を...」


「貴方は何故、情報を集めようとしなかったのですか? あの場所が新人には危ない場所であることは殆どの冒険者は知っていました」


「そんな...」


「勿論、ギルドでも把握していました...何故、相談をしてくれなかったのですか? 大方、自分達だけの場所として確保したかったのでしょう? その気持ちも解らなくはありません...ですが..」


「何でしょうか...」


「その結果、貴方達は新人1人死なせてしまった..その事だけは忘れないで下さい...そして、今回助かったのは、新人が命を捨て貴方達を守った事...そして運が良かったそれだけです、それを踏まえてこれからは慎重な行動をお願いします...ギルドからは以上です」


「あの...ソフィさん..その」


「暫くは私以外の受付けに並んで下さい...私、頭で理解が出来ても心までは押さえきれそうにありません」


能面のような冷たい顔で、ソフィは2人を睨みつけた。


「「ごめんなさい」」


「馬鹿じゃないですか! 貴方達が本当に謝らなくちゃならないセレスさんは死んでしまったんですから..謝る事なんて出来ませんよ」


静かにソフィは立ち去った。



「どうしようかルル」


「辞めようか...メメ」



二人が心底落ち込みギルドで佇む中、陽気な声が聞こえてきた。


「どうしたんですか、ルル先輩、メメ先輩?」


「「セレスさん?」」


驚いたように目を見合わせる。


気のせいか受付けをはじめ、総ての注目が集まっている気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る