第6話 旅立ち

その日の夜には予定通りの宴が行われた。


普通に立食形式でバイキングに近い感じだった。


幾人かのクラスメイトは貴族の方や王族の方としゃべっていたが僕は元から話すのが苦手なのでひたすら食べる方に没頭した。


僕の部屋も他の者達と同じ待遇の1人部屋だ。


良くあるライトノベルにあるような差別は一切なかった。



次の日から魔法の練習やら訓練が始まった。


座学については一生懸命学んだ。


そして、訓練は一緒に行っていたが初日からもうついていけなかった。


元々の能力差があるのだ無理だろう。


余りに僕の能力が低いので、一日訓練を休んで、さらに細かい測定ができるアカデミーで検査を受けた。


実際にはこの前の測定で解ること以外に 体力や耐性、防御力等の数値もあるそうだ。


異世界から召喚された者は、それら能力は確実に高いので測定はしないのが通例らしい。


殆どの者が例外なく訓練さえすればこの国の騎士や宮廷魔術師を超える能力を手に入れるのだそうだ。


だけど、僕は


「測定の結果、この国の平均的な15才位の男の子と同じ位ですね」


だそうだ、簡単に言うならこの世界の普通の人間と何ら変わりない。


良くあるライトノベルならここで仲間に見放されて殺されたり、国から追放されるのだろう、だが、そうはならなかった。


「貴方は前の世界では平和に暮らしていた、それを攫うようにつれて来たのは我々だ...気にする必要は無い...君がこの世界で生きて行けるようにバックアップしよう」


どこまでもこの国は優しかった。


座学は一緒だけどもう訓練は別だった。


他のクラスメイトは普通に剣を振れるのに、僕だけは未だに振れない。


それなのに、クラスメイトは何も言わない。


ただただ僕を気遣うだけ。


そして、僕だけが別に訓練する事になった。


それでもちゃんと騎士が一人ついて色々と教えてくれた。


そして一か月がたった。


クラスメイトはもうこの城の騎士すら相手にならない位強くなりレベルも5~10位迄上がっているのに、僕はレベル1のまま、何も変わらなかった。


それでも待遇はあくまでも他のクラスメイトと同じだった。


そして、今日僕は王女マリンに呼び出された。


「セレス殿、今迄調べてみたのですが、貴方の状態については何も解りませんでした」


「そうですか...もしかしたら僕は、追放されるのですか?」


「そんな野蛮な事しません...私もこの国もそんな恥知らずな事はしません。 ですが、今の貴方には戦うという事は出来ないでしょう?」


「確かにそうですね」


「セレス殿は何かやりたい事や夢はありますか?」


「特にはありません」


「そうですか、父と考えた事をそのままお伝えします。良いですか?」


「はい」


《やっぱり何か不味い事になるのかな?》


「まずはここに残って文官を目指すのはどうでしょうか? 幸い、座学は優秀で特に数学は秀でています。頑張れば将来、徴税管になれるかもしれません。」


「他の皆んなは?」


「明後日から演習に行きます...そしてその後はそれぞれがパーティーを組んで魔族との戦いに行きます...誰かが魔王を倒すまで帰ってきません」


「そうですか...」


「他の方からも頼まれました、貴方が困らないようにお城で面倒を見てくれないかと」


「そうですか...」


《やっぱり、僕は...此処でも同情されて生きていくのか...いっそ馬鹿にしてくれれば良いのに...お前なんて要らないって...捨てられた方がまだよい...これじゃ誰も恨めないし..ただただ人より下にいて同情されるだけだ..》


「あの、城を出る事は出来ませんか?」


「外の世界は危ないですよ...考え直した方が」


「それでも僕は...外に出たいと思います」


「解りました、出来るだけセレス殿の意見を尊重します、ですがバックアップはしっかりさせて頂きます」




そしてついに他のクラスメイトが遠征に行く日が来た。


僕はクラスメイトを送った後、城を出た。


頼んで、クラスメイトには僕が城から出て行く事は内緒にして貰った。


城を出るのにこの国が用意してくれたのは...


王からの推薦状...これがあればどのギルドにも入れるし、やりたい仕事があった場合は見習いや弟子からなら確実に採用してくれるそうだ。


支度金として金貨4枚...贅沢しなければ1年位暮らせるお金らしい


服を含む日用品一式


鋼鉄のナイフ...本当は剣をくれるつもりだったが僕には持てなかった。そうしたら、態々騎士用の剣を一本折って作ってくれた。


どこまでもこの国は優しかった。


これは本当は感謝しなきゃいけないのだろう。


実際に僕も感謝はしている...だけど、その反面...同情され続けるのはつらい。


外にでれば、もう僕に同情する人はいないだろう。


怖い反面、だれからも同情されない生活の事を考えると...僕は楽しくて仕方なかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る