第2話 もしかして違う国?

 風鳴総合高校は各地の私立を統合後、一番目立つ高台に新しく建て替えた学校だ。その為ここに通うほぼ全ての生徒が坂を上がらなければならない上、通学路によっては未舗装の山道を通らなければならない。


 この学校に通う連中は僕も含めて元々住み慣れた土地。家も坂の途中にあったりして、通学でバスを使う生徒はごく少数しかいない。

 

 今回『皆勤賞』ネタが出たのもそうした道をクリアして来たからこその話で、体力的な問題については何も心配が無いという意味も含まれている。

 

 話に出た転入生は都会の学校に通い、電車やバスを使うのが日常茶飯事。おまけに友達と常に一緒に通う日常スタイルらしく、一人で歩くことがほとんど無いらしい。


 そんな子が未舗装な山道かつ、坂の上まで毎日通うのは至難の業といえる。まして見知らぬ土地に来ていきなり一人で通学するとなれば、迷ってたどり着けなくなる可能性が極めて高い。

 

 本来なら自前のスマートフォンを使ってこさせるのが手っ取り早く確実。しかし先生によれば、その子はナビでも迷う可能性があるという。その意味でも今回のリモートナビはうってつけらしい。

 

 リモートナビは通販番組で見るような専用の眼鏡型デバイスを装着して行う。しかしスマートフォンのように主観カメラでは映せないようで、当人同士の顔は見ることが出来ない。一見すると何の変哲もない眼鏡らしく、はたから見れば独り言を言ってるようにしか見えないのだとか。

 

 それを聞いて僕は落胆に代わる。

 お互いの顔を見るのは直接会わなければ見えないことを意味し、女子の冷やかしと男子による羨望といったことにはならない。


 あくまで真面目に道案内をするだけのものということで、ギャルといち早く仲良くなるのは厳しいと言っていい。最初の友達になれるといった甘い幻想は最初から崩れた。

 

 放課後になり、言われた通り視聴覚室に行くとそこには小川先生の他、数人の先生達が僕を待っていた。

 

 先生達の指示の下でデバイスを起動し、相手からの反応を待つことになった。


「え、えーと……これでいいんですよね?」


 デバイスに集中していると、


「あっ、繋がった感じ? ってか、誰ー?」


 イヤホンから聞こえて来たのは、高く通った声とは別に何ともギャルっぽい言葉遣いな女子の声だ。


「き、聞こえてます。えっと、僕は――」


 傍から見ればおかしな光景で、他の人には見えない誰かに自己紹介をしているようなものだ。


「あーあーあー! 人の声っぽいけど本当? 自動音声じゃない?」

「ほ、本当です! 僕は風鳴総合一年の渡利――」

「オッケー! えーと、こっちはもうすぐ夕方ー! そっちも夕方?」


 もしかして違う国だとか思われてるんだろうか。東と西で日の出日の入りが異なるとはいえ、大げさに違うわけじゃないのに。


「同じです」

「ちな、こっちの空はこんな感じー!」

「……えっ?」


 音声だけに集中していたら映像が切り替わり、そこから見えたのは空と向こうの学校らしき建物。それと数人のギャルの姿だった。お互いの顔こそ見えないものの、向こうの女子たちの声が賑やかに漏れ聞こえて来る。


「おーいいじゃん! 眼鏡が可愛い感じ! 瑠音が賢く見える」

「僕っ子男子かー! 真面目ー」

「見えないけど、うちの瑠音をよろしくー!」


 彼女も僕も褒められている気がしないような。


 専用デバイスは主観カメラ機能が備わっていなく、転入生の顔を見ることが出来ない。見えるのは自分たち以外の景色と誰かになる。とはいえ、まさかいきなりギャルたちが映し出されるなんて予想外過ぎた。


 おそらく転入生の彼女も噂どおりのギャルに違いない。


 距離が離れているにもかかわらず、彼女の同級生ギャルたちと思わぬ形で遠距離交流してしまった。ギャルといっても嫌な感じがしないのはいいとして、明日からはギャルな彼女とマンツーマンでナビをすることになる。そう思うと何て声をかければいいのか途端に分からなくなった。


「あたしも君も顔見えないけど、びびんなくていいし。渡利くんかー。あたしのことは好きなように呼んでいいよ」


 ――と言われても本名をまだ聞いてもいない。周りのギャルたちから聞こえて来た名前がそうなら、そう呼ぶしか無さそうだけど。


「えーと、瑠音るのんさん?」

「――……! あー……ねー。そっちじゃ、いきなりそう呼ぶわけかー。まぁ、いいけど……君の下の名前は?」


 何だろう。

 変なことを言ったつもりはないのに、一瞬言葉を失ったかのような反応をされた気が。


「僕の名前は志優しゆうです。渡利志優と言います」

「……よし、じゃああたしも志優くんと呼ぼう!」

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