キミとつなぐ~はぐれギャルは純情派or過激派?~

遥 かずら

第1話 ピンチはチャンスに?

「――というわけで、転入生を本校まで案内をするナビゲーター役、転入生サポートをやりたい人は挙手を!」

「はーい! 皆勤賞の渡利くんがいいと思いまーす!」


 担任の小川先生から大雑把な説明が終わると、すぐに僕の名前を推薦する女子の声が響いた。


 『皆勤賞』を取ったことがあるのは小中学生の時に一度だけ。昔、親たちが散々口うるさく言って来た習わしみたいなもので、休むことなく通い一分一秒たりとも遅れることが無い生徒には、『元気の証』として認めてもらえる勲章のようなものだった。


 しかし『皆勤賞』の賞状を貰って自慢云々は小学生までの話。高校生になった今では時々休んだりもしているので、そういうからかいは本当に勘弁して欲しい。


「こ、困るよ! だって、皆勤賞って昔の話……」


 突然の推薦に戸惑って思わず僕は取り乱す。


「渡利マジでうらやまー!」

「わったり! わったっりー!」


 まるで最初から僕に確定していたかのような茶化した声が、次々と聞こえて来たからだ。


 みんなにからかわれているのには理由がある。今回の話の主役である転入生は、都会から来る子、かつギャルだからだ。初めの自己紹介で、「ギャルがタイプです」などと口走っていたものだから、今回の僕はまさにうってつけの役目ということになる。


 女子からは、


「いいじゃん! ギャル好きなんでしょ!」

「一番初めの友達になれるだろうし、渡利くん。ピンチをチャンスに変えなよ」

「女子には女子の心の準備があるわけさ」


 女子たちからは冷やかしの声が飛びまくり、しまいには都会のギャルを迎えるには心の準備に時間がかかるといったよく分からないへりくつまで飛び出した。それにこの時期の転入生受け入れには、学校なりの事情も絡んでいる。


 僕が入学する前、私立風鳴総合高校は統合したてだったこともあり、マンモス校と呼ばれていた。それが今では全国から生徒を募集しなければならないほど減少。


 人口が少ない地方の私立高校は、統廃合で全体の数を増やしても卒業を迎える度に生徒が足りなくなるという問題があった。それを踏まえて入学時に地域外の生徒を受け入れようとしたらしい。


 しかし受け入れ態勢が不十分で結局先送りになってしまい、今年の入学生からは無理となったのが今までの流れ。


 そして汗ばむ初夏を感じるこの時期。


 夏休みまで数か月という半端なこの時期に、お金をかけた学校が自信を持って用意したのが眼鏡型専用デバイスだ。学校と提携する専門メーカーから試用品を借り、テストを兼ねて使用出来るようになった。


 眼鏡型ということでスマートフォンのように手に持つ煩わしさが無くなる上、ながら歩きの危険性も無くなるので、関係団体から賛同を得られクラウドファンディングによる資金調達も容易だったらしい。


 そんなこんなでリモートナビ態勢が整い、ようやく転入生を迎え入れられることになった。――といいつつ、実態は「覚えるが多くて無理」という理由で受け入れる側の教員達は見事にてんてこ舞い。説明を聞いても理解に時間がかかる上、元から眼鏡をかけている先生ばかりなせいで疲れやすいという不評が目立った。


 その結果、教員が生徒の登下校をサポートする余裕と暇は無いという意見が続出。

 そこで提案されたのが「それなら機械に慣れてそうな生徒に任せては?」という意見だ。見事に満場一致で決まり、僕に転入生サポート役が舞い込んで来たということになる。


「皆勤賞の話とギャル好きはともかく、渡利君は目がいいでしょ? スマホも得意そうだし」

「はぁ、まぁ……得意というか好きというか」


 クラスが決まってすぐの頃、何も考えずに「視力には自信があります。スマホを夜中まで見ても問題無いです!」などと、決して自慢出来ることじゃないことを堂々と担任の先生にアピールしてしまった。それが今回の話にリンクしている。


「小川先生ー! うちのクラス、山育ちだからみんな目がいいよ!」

「んで、渡利が一番スマホに依存してるっす!」


 山育ちだからといって視力がいい根拠は無い。それに依存自体あまり良くないのに、今回はそれが良かったなんて皮肉な運命だ。


「――それじゃあ、渡利君で決定!」


 スマートフォンが得意といっても特別なことが出来るわけじゃなく、ゲームに時間を費やしているというだけの単純な理由だったりする。先生からすればそれなら新しいデバイスも簡単に覚えるよね。といった楽観的な先入観が込められている。


 小川先生は「手のかかる男子じゃなくて助かったー」といった安堵の表情を見せつつ、「面倒なことは女子ではなく男子に任せるのが一番」といった、放任主義な女性担任だ。


「先生。そのデバイスっていつから使えるんですか? それと相手の名前くらいは聞いておきたいんですけど」


 聞きたいことが山ほどあるものの、やはり名前くらいは知っておきたい。


「今日の放課後に事前研修の時間を設けているから、その時に聞いてみたら?」


 朝の段階で決まった話なのに、まさか放課後に早速やり取りをすることになるなんて。


「……え? 放課後!? しかも僕がじかに聞くんですか?……」

「それが転入生サポートの特典のようなものだからね。何事も第一歩。コミュニケーションを取らないと!」


 女子の誰かが言っていたとおり、初めて話すのが僕になるという点では確かに特典といっていいかもしれない。


「そ、そういうことなら……」


 僕が転入生の初めての話し相手になる――想像して何となくニヤついていたら、教室中からブーイングの嵐が起きた。


「ずりーよ、先生! 渡利だけ先制チャンスとかー」

「そーだそーだ!! だったら俺もサポートやりたい!」


 確かに不公平感はあるかも……。


「コホンッ! クラスのみんなには共有の情報を伝えておくので、それで我慢するように!」


 名前はともかくそれ以外に伝達事項があったようで、小川先生の話にみんな大人しくなった。


 それによると転入生は、学校がある所から徒歩で二十分くらいの所に位置する市街地の駅から通うとのこと。話を聞いていた主に男子からは「大した距離じゃなくね?」とか、「迷ってもたどり着けるだろ」といった声が上がった。


 声を聞いた先生は、「山道に慣れている自分たちを基準に考えないように!」と厳しいことを言い放ち、教員室に行ってしまった。僕たちからすればこの環境が当たり前で、ずっと同じ土地で育って来ただけに、先生の言葉には誰も反論出来なかった。


「なぁ、志優。都会のギャルって、体力あると思うか?」


 沈黙の中、僕を心配してか友達の山屋航大が声をかけて来た。


「え、どうだろ……」

「無いと思うんだよなー。んでも、志優がサポートすれば問題無いか!」

「リモートナビは声と映像サポートがメインだけど、やってみないと分からないよ」

「だよな」

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