隠・ザ・ガール

生野おと

前半っ!

 せんせーの話ってなんでこーもつまらないんだろーね。きっとしょうもねー人生おくってきたからなんだろーなってあたしは思うわけ。なんつーか、内容に重みがないっつうか、それこそ言霊みたいなもんが宿ってねーって思う。だからクラスの奴らが好き放題くっちゃべったり、スマホでゲームなんかしちゃうのもしょうがないよねって感じ。まあ、あたしはきちんとせんせーのほうを見て真面目に聞いたりしちゃってるんだけどね。


 べつにあたしだってこんなしょーもねー話聞きたいわけじゃないけど、くっちゃべるような相手もいないし、なんつーか、せんせーにもちょっと悪いかな、みたいな? わりと良い子なんだろーね、あたしって。せんせーのクソみたいな話が終わると、みんな一斉に教室を出てった。残ったのはあたしを含めて5人。この5人には共通点があってさ。なにかっていうと全員ドがつくほどの隠キャってこと。陽キャたちはさ、放課後にやることとか行く場所とかがたくさんあるんだろーね。だからさっきみたいに飛び出して行けるわけよ。うちら隠キャたちはさ、すぐにでも教室を飛び出してまでやりたいこととか行きたい場所なんてねーんだわ。つっても隠キャにもレベルがあって、なにかやるべきことがある隠キャってのもいるわけ。あたしから言わせたらそういう奴らって隠キャとしてまだまだなんよ。隠キャレベル5、みたいな? 今いるメンツってほんと毎日変わんねーんだよな。あたしら、少なくともあたしは隠キャレベル200は超えてるって自負してる。この5人が残った教室の空気ったらひどいもんよ。人ひとり死んだんか? ってくらい陰鬱な空気を漂わせてるわけ。それでもあたしは他の4人が出ていくまで教室に残るんよ。なんでかっつーと、あたしって本を読むのが好きなわけ。主に小説なんかをね。んで、夕飯どきになるまで教室でひとり本を読んでる時間が好きなの。べつに家に帰りたくないとかじゃなくって、なんだか誰もいない教室って落ち着けるんよね。べつに自分の部屋でもいいんだけど、あらためて考えるとなんでなんだろーね。まあとにかく好きなの。だからいつも、とっとと帰れよ、どーせてめーらやることなんてねーだろ、って思いながら、図書室で借りた本を広げる。本って読んでるとあっという間に時間が過ぎるっしょ? 作品の世界に没頭する頃には、気づいたら教室はあたしだけになってる。


 あたしにもひとりだけ友達がいるんだけど、その子もちょっと前までは教室に残る派、だったんよ。つまり前までパーティは6人だったわけ。その子も友達はあたしだけだったはずなんだけど、いつの間にか陽キャちゃんたちとつるむようになってたね。今日だって、バイバイってお互い手を振ったらとっとと教室を出て行っちゃったんだから。廊下から知能指数2みたいな男子のふざけ合う声が聞こえてきた。そんな声も、今のあたしにはいいBGMになる。カフェとかさ、ある程度雑音が聞こえてきたほうが落ち着く、的な? たぶん、そんな感じなんだろーね。時計を見たらもうすぐ19時を回る頃で、やっちまったーって思った。できれば19時には家に着きたいんよ。ママが夕飯を作り終えるのがその頃だからね。ママの作るご飯って、ほんと美味しいんよ。


 食卓ではママと弟がもう夕飯を食べ始めちゃってた。パパはいつものように仕事で遅くなるんだろーな。最後に4人揃ったのはいつ頃だろ。覚えてないくらいに昔ってことは確かだね。でもお仕事だから仕方ないよね。パパのおかげであたしらは生活できてるわけなんだしさ。夕飯を済ますと、ごちそうさま、っつって二階の部屋に上がった。我ながら現役JKの部屋とは思えねー。JKの部屋っていったらさ、カーテンはかわいいレースなんかがついたものだったり、香水やら化粧品やらが並んでたり、とにかくオシャレ感強めな部屋をイメージするっしょ? 陽キャJKの部屋だったら確かにそーかもね。でもここは隠キャレベル200の部屋だよ。壁一面に本棚が並んで、あとはベッドと机しかない。書斎かっつーの。でもマジ、ベッドがあるからまだ部屋感があるけど、ベッドがなかったらマジで書斎。それもおっさんの書斎って感じ。茶色だとか黒だとかの物しかなくて、パステルカラーの物なんてどこにもありゃしない。キラキラ陽キャちゃんの部屋の色を反転させたらあたしの部屋の色になるんじゃねーかなって感じ。でももちろんあたしだって女の子だから、かわいいものにも興味はあるんよ? でも、それをあたしが持っててもなー、って思っちゃうんだよね。なんかそのかわいいものが可哀想に思えちゃう。例えばぬいぐるみなんかを欲しいって思うときもあるけど、きっとあたしの部屋に置かれたぬいぐるみは、なんでこんなおっさんの書斎みてーな部屋に置かれねーといけねーんだよ、もっとかわいい部屋に置いてくれよって思うんだろうよ。そう考えるとやっぱ、適材適所ってあるよねーって思う。あたしはベットに寝転んで、友達のまなみんのことを考えた。そういえばあの子、すこし前から化粧なんてするようになってたよなーって思った。あたしと同じで今まで化粧なんてしたことかなかったのにね。思い返したらその頃からなんよね、まなみんが陽キャ勢とつるむようになったのって。まあ、まなみんが楽しいならそれでいいんだけどさ、あの子も元の隠キャレベル割と高めだから、陽のなかで上手くやってけてんのかなーってちょっと心配。つーか、もしまなみんが陽キャに変異するなんてことになったら、それでもあたしと友達でいてくれるんかなー。なんだかちょっと不安。もしそれで切れるような仲だったらそれまでの仲ってことなのかもしれないけどね。でもそうなったらやっぱり悲しい。明日にでも少し話してみよーかな。最近あんまりちゃんと話もしてなかったしね。



 昼休み、あたしは学食でひとり昼食をとってた。

 ぶっちゃけ結構つらいもんがあるのは事実だよね。なんか惨めったらしいっしょ? あーこいつ友達いねーんだな、って思われるのって。まー実際いないんだけどさ。前まではまなみんがいたからひとりになることはギリなかったんよ。遠くの席に陽キャちゃんたちと一緒にいるまなみんが見えた。なんだかんだ上手くやってそーな感じ。よかったよかった。ただ、たまにはあたしとも一緒に食べてほしーな。この惨めなあたしの姿、あんたにも見えてるっしょ? それともまなみんがいなくなったことで隠キャレベルが更に上がっちゃったんかな。隠キャを極めし者って透明化するって聞くしね。実際いるんよね、うちのクラスに。あたしを超える隠キャってのがさ。男子なんだけど、えっと、名前なんだっけ? 忘れちゃったわ。彼は隠キャレベル測定不能ってくらいの隠キャなんよ。例えばさ、コミュ力0なあたしだって、ふいに陽キャに話しかけられることがあるわけ。今日って何曜だっけ? みたいなしょーもねーことだけどね。でも彼ってマジで話しかけられてるとこなんか一度たりとも見たことがない。陽キャが、五限の科目なんだっけなーとか、彼の隣で言ってたわけよ。周辺には彼と陽キャ、本を読んでるあたししかいなかったの。普通隣にいる彼に聞くっしょ? なのにその陽キャ、わざわざあたしに聞いてきたんよ。あたしはそのとき彼の隠キャレベルはあたしを遥かに超えてやがるって察知した。上には上がいるもんだなってさ。あたしはその日から彼を心のなかでマイスター(隠キャマイスターの略ね。)って呼んでる。あー、だから名前も忘れちゃったのかもね。マイスターにまでなると、透明化するスキルを会得できるんだってあたしはこのとき学んだの。なんだかちょっと羨ましい気もするスキルだけど、そこまでいっちゃうと、なんていうか、ヤバい気がする。一線を越えちゃってるっていうかさ。ただ今こうしてひとりで学食にいるときなんかには使いたいスキルかもね。あたしは昼食を終えると教室に戻った。


 5限まではまだ時間があったから、あたしはいつものように本を広げて読んだ。もしあたしが本を好きじゃなかったらって思うと恐ろしいよ。本のおかげで、あたしは教室内で、「いつもひとりで本を読んでる奴」ってキャラでいれるわけだし、ひとりでいることもそこまで辛くない。ほんと、本が友達って感じ。ふとマイスターのことを思い出して、前の席に座る彼を見た。彼は背筋を伸ばした綺麗な姿勢で目の前の一点をずっと見つめてた。いや、こえーよ。普通、適当にスマホ弄るとか、読みたくもねー教科書を適当に開くとか、隠キャ特有の、なにかしてます的な自分を演出するもんでしょ? さすがのマイスターって言ったところだよね。もはや彼は隠キャを超越した何者かなのかもしれないね。読書に戻ろうとしたら、陽キャちゃんたちと一緒にまなみんが教室に入ってくるのが見えた。あたしらの友情ってもしかしたら終わっちゃったのかな。今のまなみんには話しかける隙もねーの。


 まなみんとは今年高校に進学して、同じクラスになって出会った。あたしがいつものようにひとりで本を読んでたら、その本、面白いよね、わたしもだいぶ前に読んだよ、なんて話しかけてくれたわけ。そのときのあたしはコミュ力0を発揮して、あ、そうなんだ、しか言えなかった。それから3日くらい経った日かな、その本を読み終えたあたしは違う本を読んでたんだけど、あの本、読み終わったんだね。どうだった? なんて聞いてきたわけ。あたしって本の話になると、急に早口になって熱弁しちゃうところがあるんよ。弟によくやっちゃうんだけどね。弟はあたしと違って陽属性だから、姉ちゃん、そのキモヲタみたいな喋り方やめたほうがいいよ、ガチでキモいから。なんて言う。そのときのあたしもそのキモヲタしゃべくり全開で彼女に本の感想を語ったわけよ。したらまなみん、ひなたさん、本当に本が好きなんだね、よかったら今日、放課後にファミレスでも行かない? って笑顔で誘ってくれたんだよね。クラスメイトになにかを誘われるのって、たぶん小学生のとき以来だったんじゃないかな。正直めちゃくちゃ嬉しかったよね。あ、ちなみにひなたってあたしの名前ね。いつも日陰にいるあたしには真逆な名前。陽キャたちに陰で、てめーひなたってキャラじゃねーだろ、なんて言われてるかもね。でもパパとママが付けてくれたこの名前、あたしはすごく気に入ってる。話が逸れちゃったね。あたしはうん、行こ、なんて言って、まなみんとガストに行くことになったの。


 二人してドリンクバーを頼んで、あたしたちは色々と語ったな。まなみんはあたしと同じで友達は0だって言ってた。確かに彼女も、基本ひとりでいることが多かった。たまにクラスメイトと話したりもしてたけどね。あたしは彼女と話すうちに、あ、この子とだったら上手く喋れるかも、なんて思った。フィーリングっていうか、なんかあたしと通じるものを感じたんだよね。あたしはやっぱりそのとき読んでた小説の話を熱弁しちゃったりしてね。彼女は、ひなたちゃん、また弟くんの言う、キモヲタ感が出ちゃってるよっ、なんて言って、ふたりして笑った。楽しかったな。友達とお喋りするのって、こんなに楽しかったっけって思った。その日からあたしとまなみんはお友達になったんよ。


 彼女にLINEで、放課後にご飯でも行かない? って送ろうとしたけどやめた。彼女はきっと今日も陽キャちゃんたちと遊ぶんだろうし、断られるのを考えたら怖かったんだよね。そんな彼女たちを眺めてたら、まなみんがバッグから取り出したお財布にあたしはびっくりしちゃったんよ。あんた、それヴィトンやないか、って。さすがのあたしもヴィトンくらいなら知ってんの。あたしはスマホでヴィトンの財布っていくらくらいするんだろうって調べた。したら中古でも3万円、新品だとその倍はするって金額がつらつらと並んでた。まなみん、あんたいつの間にバイトなんか始めたんよ。それともお小遣いを貯めて買ったんかな。でも、まなみんの家ってそんなにお金持ちじゃなかったはずだし……。てかさ、陽キャちゃんたちってなんであーもブランド物が好きなんだろーね。あたしらブランド物持ってるから。てめーらよりランク上だから。みたいなマウント取りに来てんのかな。それとも単純にかわいいから? いや、でもかわいい財布なら安いものでもいくらでもあるもんね。てことはやっぱりマウントか。だとしたら心底くだらねーって思うよ。そんなマウントで上位に立てたからってなんだっつーのよ。そんなことよりもっと大事ななにかがあるんじゃねーの? それがなにかって言われたらわかんないけどさ。ただ、まなみんにはそんなくだらない子にはなって欲しくないって思った。あたしなんかがどうこうできることじゃないんだけどね。


 帰り道、あたしはまなみんにLINEした。今日見たんだけど、まなみんのあのお財布、ヴィトンでしょ? アルバイトでも始めたの? って。返信はすぐに来て、うん、バイトっちゃバイトかな。って。バイトっちゃバイトってなんやねん。まさかなんか怪しい仕事でもしてんじゃねーだろうな、ってちょっと心配になった。あたしはやっぱり久々にまなみんと話したくなって、今週の土曜日、ひま? って送った。お昼なら暇だよ! って返信。お昼ならって、まさか夜遊びでもするんかなって思ったけど、さすがにねえ。でも陽キャちゃんたちと一緒なら有り得なくもないか? なんて色々と考えてたらなんだか余計に心配になってきちゃった。クラスの陽キャ勢のなかでも、ちょっと悪めなグループの子たちなのよ、まなみんがつるんでるのって。前に持ち物検査でグループの子のバッグからタバコが出てきたことなんかもあったしね。あたしは、じゃあ久しぶりにお昼ご飯でも食べに行こっ!って送った。彼女は、オッケー(サムズアップ絵文字)って。なんだかんだ楽しみにしちゃう自分がいた。



 土曜日、あたしは駅前でまなみんを待った。ニューデイズのガラスに映るあたしの服装は我ながらゲロダサかった。チェック柄のワイシャツにジーパンとスニーカー、みたいな。それでも今日はコンタクトな分、まだマシかもね。これでメガネなんか掛けてたら壊滅的よ。あたしだってもう少しオシャレな格好をしてみたいって気持ちもあるけどさ、休日に家を出ることなんてほとんどないし、洋服にお金をかけるくらいならそのお金で本を買いたいって思っちゃう。今の自分に満足しちゃってんだよね、結局。待ち合わせ時間の5分前、横断歩道の向こう側で手を振ってるギャルが見えた。なんていう服なのかわかんないけど、でっかいサイズのセーターをワンピースみたいにして着るやつ。高めのヒール付きブーツなんかを履いてるせいもあってか脚はすらりと長く見える。これから彼氏とデートでも行くんすか、姉ちゃん。なんて思いながら赤信号を待つ彼女をしばらく見てたら気づいちゃったんよ、あたし。あのギャル、まなみんやんっ!! って。よーよー、どうしちゃったってのよ、まなみん。あんた前に会ったとき、ほんの2ヶ月前くらいまではあたしと同じような格好してたやかいかっ。髪も巻いたりなんかしちゃって、化粧もバチギメよ。陽キャ、恐るべしだわ。まなみんをここまで変えてしまうなんてさ。信号が青に変わるとまなみんは横断歩道を渡った。


「ごめん、待った?」


「ううん、全然。なんていうか、変わったね、まなみん」


「え、なにが?」


 なにが? ちゃうやろ……。


「いや、その、ファッション、とか?」


「ああ、うん。ちょっとイメチェンしてみたんだ」 


 いや、イメチェン言うレベルちゃうでそれ。別人やん、もう。そりゃ衝撃的すぎて心の声も関西弁になるっちゅうもんやで。


「ご飯、サイゼでもいい?」


 あたしは聞いた。


「いいけど、せっかくだしたまにはもうちょっといいとこ行こうよ。最近よく行くハンバーガー屋さんがあるんだ。マックなんかじゃないよ。友達のお兄さんが個人でやってるお店で、すっごく美味しいの。あ、お金なら大丈夫だよ。今日はあたしが奢ってあげる」


 あたしは彼女に言われるままにそのハンバーガー屋さんに向かうことになった。


 駅から10分くらい歩いたところにそのお店はあった。普段学校と家の往復しかしないあたしは街の事情にめちゃくちゃ疎いんよね。こんなオシャレなお店、いつの間にできてたんよ。外装は、なんていうか、ハワイアンって感じ? お店の前に一本おっきなヤシの木が植えてあった。そんで扉に掛かった看板を見ると、カラフルに「ALOHA」って書いてある。やっぱりハワイアンだ。あたしはまなみんについて行くようにして店内に入った。店内もやっぱりハワイアン。天井に木製のプロペラみたいなのが付いててくるくる回ってる。あたしとまなみんは窓際の席に着いた。お客さんはあたしたちを含めて3組だった。土曜日のお昼どきにしては少ないのかな? 初めてだからよくわからない。席を案内した店員さんが今日もかわいいねぇ、なんてまなみんに言った。まなみんは照れた顔で、またまた〜、なんて言った。?? あたしの知ってるまなみんじゃないんだが? あたしの知ってるまなみんは、照れた顔で男にまたまた〜、なんて言わないんだが? にしてもこの男、The 陽キャって感じ。いらすとやが陽キャを描くんならこいつをモデルにするんじゃねえかなってくらいに。


「今日はみんなと一緒じゃないの?」


 男は言った。


「みんなとは後で合流するんです」


「あ、そうなんだ〜。この子、まなみんの友達?」


「はい、今日久しぶりにご飯でも行こうってなって」


「そっかぁ。注文はどうする? いつものでいい?」


「はい、いつもので。ひなたはどうする?」


 え??あっ、ちょっ、まだメニューも見てないんだからそんないきなり。やっべーきょどっちゃうじゃん。


「じゃあ、わたしもまなみんと同じもので」


「飲み物はどうします?」 


 いやだからまだメニューちゃんと見てねーってつーの。


「アイスティーとかあります?」


「ありますよ。以上で大丈夫っすか?」


 はい、大丈夫です。ってまなみん。久々に他人と会話したわ。これを会話って言っちゃうあたりがヤバいよね。ただハンバーガーとアイスティーを注文しただけだもん。


 あたしはまなみんに、最近どう? なんて聞いた。


「どうって?」


「なんか、二人で話すのって久しぶりじゃない? なにか変わったこととかあったかなって」


「うーん、とくにはないよ」


 んなわけあるかーいっ!! 変わりに変わりまくってるやろがーいっ!!服装とかメイクとか髪型とかっ! ってあたしは思ったけど、


「そっか、ならよかった」


 なんてよくわかんないことを言った。


「ひなたは? なにか変わったこととかあった?」


「なんにも変わらないよ。ほんと、いつも通り」


「そっか。お互い、なんかもっと生活に変化が欲しいよね。華のJKなんだからさ」


 ちょい待ち、まなみん、マジでなんも変わってないって体でいこうとしてんのか?? そりゃ無理だって。無理があるって。なにがあんたをそうさせてるんよ。素直に、「なんかあたし最近ギャル化してね? マジウケるよねーっ!」とか言ってくれたら話進められんのに、あんたがその感じじゃ、あたしが今日話したかったこととかできねーじゃん。しゃーないからあたしは言った。 


「なんか雰囲気変わったよね、まなみん。なんていうか、化粧とかもしてるし、ファッションも」 


「あー、確かにちょっと変わったかも」


 なんなん!? その頑なに自らの変化を認めない姿勢なんなん!?


「……。最近、みきちゃんたちとよく遊んでるよね。あの子たちちょっと悪いイメージあったから、なんていうか、まなみん大丈夫かなって」


「大丈夫って?」


「まなみんに限ってそんなことないって思うけど、悪いこととかしてないかなって心配になったっていうか」


 まなみんは笑った。


「みんないい子だよ。心配してくれるのは嬉しいけど、ひなたはもっと自分の心配をしてもいいんじゃない?」


 ……。は??


「いつまでもひとりで本ばっかり読んでて、たった1度の高校生活、それでいいの? JKでいれる時間って長い人生でほんの少ししかないんだよ? もっと楽しまないと損だと思うけどな」


 このときあたしは、プチンときちゃったんだよね。


「わたしは今の生活に満足してるよ。まなみんみたいに毎日のように友達と遊ぶのも楽しいのかもしれないけど、わたしは本を読んでる時間が好きなの。なんだか、わたしより自分のほうが上、みたいに思ってない? 高校生活の過ごしかたなんて人それぞれだし、どっちが良くてどっちが悪い、なんてことはないと思う」


 なんだかこんなに喋ったの久しぶりで、ちょっと疲れた。


「そんなに怒らないでよ。わたしはただ、他にも楽しいことはたくさんあるよってことを言いたかっただけなんだから」


 んなことは知ってるんだよ。知った上であたしは今の生活をしてんだよ。あたしはまなみんの言い草に、更に頭にきた。


「……。まなみん、最近結構お金持ってるみたいだけど、なにか始めたの?」


「あー、まあちょっとしたバイト、みたいな? パパ活ってあるでしょ? おじさんとデートしてお金もらうってやつ。お金はそれで稼いでるの」


「……。それって、そういうこともしてるってこと?」


「そういうことって、エッチのこと? わたしはしてないよ。さすがにそこまでする勇気はなくって。みんなは全然やってるんだけどね。まなみも早くやんなよっていつも怒られてる。そろそろやらなきゃなのかなぁ」


 まなみんは笑って言った。あたしの知ってるまなみんはもういなくなっちゃったんだって思った。なんだか怒りとか悲しさとかが入り混じって涙が溢れてきた。まなみんは、ちょっとどうしたの、なんて言った。涙が頬を伝った。2人分のハンバーガーと飲み物が運ばれてきて、陽キャ男が、なになに、どうしちゃったの? なんて言った。あたしはテーブルにお金を置くと、お店を飛び出した。あたしは涙を拭いながら家に向かって歩いた。

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