第38話 道具の末路
「分かっていたさ! だけど、生きるために道具になるしかなかったんだ! ニアを一人にはできないし、ニアは馬鹿だから私が媚びを売って動くしかなかったんだ!」
マグナの道具として働いた時から溜めていたであろう気持ちを、ユティアは声を上げて吐き出し始める。
「その気持ちがあれば道具としてじゃなくて、ニアと新しく生きられるじゃない。あなたはマグナの道具として生きるのはもったいないわ」
「そうよ。戦って分かったけど、あんたは強いわ。その力を他のことに生かした方がいいわよ」
ユティアの言葉を聞いた二人が思い思いの言葉を発していると、ノアの声で「避けろ!」とハッキリと声が耳に入った。
「お、お兄ちゃん!?」
「避けろってどういうことよ?」
避けろと言われてもその場に居続ける二人だが、瞬時に現れたノアを見てことの重要性を受けたようだ。
「いいから俺の後ろに下がってくれ! 炎壁!」
今までとは違う赤黒い炎壁を見たルナは、目を丸くして驚いているようだ。
だが、今は構っていられない。なぜなら遠くにいるマグナが光り輝く槍を二本放つ態勢に入っているからだ。
「そっちの二人までは守れない! マグナの部下のお前! お前達自身でマグナの攻撃から身を守れ!」
「守らないと死んじゃうよ! あんた達にもあいつは攻撃をするわ!」
シェリアの言う通り、一本はノア達だがもう一本の方はニアとユティアに向けれられているように見える。
「来るぞ!」
ノアの言葉を革切りに、光り輝く槍がありえないほどの速度で射出された。
空を切り、音を置き去りにしている。この場にいるノアとユティア以外は光り輝く槍が射出されたことすら分からないだろう。
ただ、目を閉じて開けた瞬間に炎壁に衝突しているとしか認識していないはずだ。
「ぐぅぅぅううう! 威力が高すぎるけど、それでも防ぎきれるはずだ! もうルナを失わない! 俺が守るんだ!」
「お、お兄ちゃん頑張って!」
「あんたの魔法が負けたら死ぬんだから、ちゃんと守りなさい!」
轟音を周囲に撒き散らし、闇属性で強化をしている炎壁と拮抗している。
「よく持たせているが、そっちの道具は限界なようだぞ?」
道具という声を聞きユティアの方を見ると、輝く白色の壁が今にも砕けそうになっている。
「あいつらは嫌いだが、助けるしかないか……」
ノアは剣の炎をさらに燃え盛らせると、そこに闇属性加える。
より強力になった業炎一閃なら、炎壁を貫いて光り輝く槍を消せると考えたからだ。
「これなら消せるはずだ!」
そう宣言したノアは業炎一閃を炎壁を砕きながら放ち、光り輝く槍に数秒拮抗しつつも消すことができた。
そして業炎一閃を再度使用し、ユティアが防いでいるもう一本の光り輝く槍を辛くも消すことに成功した。
「あ、ありがとうございます……」
視線を右往左往させながら、ユティアは言葉に詰まりながらノアに向けて感謝の言葉を述べたのである。
「お前達を救ったわけじゃない。マグナの被害者を救っただけだ。お前達に俺は同情しない」
ハッキリとノアは言う。
道具としか見られず尽くしても意味がなかったユティアにとって、嘘偽りないノアの言葉は心地よかったようでなぜか笑っていた。
「ははは! 確かにそうですね!」
「何かおかしかったか?」
「いえ、何もおかしくありません。私自身の愚かさを笑っていただけですよ。未だにマグナ様を信じたい気持ちもありますが、攻撃をされては信じられませんからね」
ニアもユティアも自力で気がついたようだが、二人みたいな人が大勢いるのも事実だ。
たまたまノアは大罪人だっただけで、立場が違えばマグナに心酔していたかもしれない。
「改心したならそれでいいさ、戦えるか?」
「戦わないと生き残れませんからね。力になれるか分かりませんが、戦います」
「そうか。なら、支援を頼むぞ!」
ノアの隣にユティアが立つ。
ルナやシェリアはまさか敵だったのに味方として戦うとは思っていなかったのか、度肝を抜かれた顔をしている。
「お兄ちゃんが敵と共闘するなんて……」
「いや、おかしくないわよ。マグナと戦うなら戦力が増えた方がいいし、あの男がいたらマグナに何か変化があるかもしれないわ!」
ルナとシェリアが何やら話す声がノアに聞こえていたが、全ては聞こえていない。ただ何か話しているなという程度だ。
「ルナ達が何か言っているみたいだけど、気にするな。今は目の前にいるマグナを倒すことだけを考えろ」
「分かってますよ。私だって死ねませんし、ニアさんを一人にはできませんからね」
「理由は何だっていい。勝たなければ死ぬだけだ」
ノアとユティアは武器を構える。
するとマグナが「馬鹿な道具だ」と言葉を発しながら高笑いをし始めた。
「道具のまま働いていれば、何も知らないまま死ねたものを。ニアとユティア、お前達は馬鹿な道具だよ」
右手で顔を覆い、マグナは笑っている。
それに対してノアは「馬鹿じゃない!」と反論をすると、黒い炎を剣に纏わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます