第37話 凄烈な悪意
「やっと本気を出すのか大罪人! お前を殺し、ステラを殺す! そして俺は、国王様の右腕になるのだ!」
「お前はそのためだけに人を使い捨てているのか?」
「そうだ! 所詮他人は他人だ。信頼も何もない。ただの道具に過ぎない! 俺の目的のために湧いて出てくるただの道具だ!」
これがマグナの本性なのだろう。
こんな人間がいるから国民が苦しみ、国が衰退する。
ステラの夢を叶え、一人でも多くの国民が笑って暮らせる国を作らねばならない。それはルナも同じだ。戦いとは縁遠い世界で生きてほしい。
「なら、この場で終わらせる。俺はお前を殺し、国を救う!」
その言葉と共にノアの身体から黒い影が現れた。
意識したわけではない。祈りか分からないが、ただ目の前にいる悪を滅ぼしたいとの思いに呼応してくれたとノアは考えていた。しかし今は小難しい理屈はどうでもいい。力を貸してくれるのならば、素直に借りるだけだ。
「ほう、改めて見ても確かに失われた闇属性だ。どこで手に入れたかは知らないが、お前を国王様に差し出せば私の地位が上がる! お前は私の地位をあげる糧となれ! そうすればあそこで戦っている妹を生かしておいてやる!」
「お前は何を言っているんだ? そんなことに同意するわけないだろう!」
「そうか……なら、ここで何も果たせずに朽ち果てろ!」
鋭い一閃が迫る。
ノアは剣の腹で受け流す。続けて闇属性を交えた炎弾を放つが、その攻撃は後方に飛ばれて呆気なく躱されてしまう。しかしノアは攻撃の手を止めない。炎剣を発動し、そこに闇属性を交える。
どれだけの強化がされるか分からないが、託された闇属性を信じるしか勝つ道は残されていない。
「負けられない、負けない、勝つんだ!」
地面を勢いよく蹴り、一気に距離を詰める。
ノアの蹴った地面が陥没し、亀裂が走るほどだ。それほどに全体的に能力が高まっているが、ノアは気が付いていない。ただ目の前の巨悪を討ち取ることしか頭の中にない状態だ。
「早い!? だが、対処できない速度じゃないぞ!」
「それがどうした! その対処できる速度の上をいけばいいだけだろうが!」
お互いの命を懸けた斬り合いが始まった。
迫る斬撃に剣を合わせて弾く。そを音を置き去りにする速度で何度も行っている。それに、金属同士が衝突する音が離れた位置で戦っているルナに届いており、ノアの戦いの凄まじさを感じていた。
「お兄ちゃん……まだ身体が万全じゃないのに……私じゃお兄ちゃんの力になれないのかな……」
氷剣を構え、目の前にいるニアを警戒しつつ呟く。
マグナが発していた言葉はルナやシェリアにも聞こえていたので、敵であるニアやユティアにも聞こえているはずだ。それなのに未だに立ち向かって来ている。
「あんた、あの言葉が聞こえていたでしょ! ただの道具としか見られていなかったのよ! それでもまだあんな奴のために命を懸けるの!?」
「あ、あたしは……あたしはマグナ様に救われたんだ! 親が殺された時にマグナ様が救ってくれたんだ! だから――!」
「それもあいつの描いた通りってことよ! あんたも、シェリアと戦っている男もマグナの道具にされるために奪われたのよ!」
道具という言葉を聞いたニアはその場に泣き崩れてしまった。
悲しいとは思うが、ルナは決して同情はしない。同じ道具にされた者であっても、立場が違うからだ。
「道具にされてもマグナの味方になるのもいいわ。そこは自分で考えなさい」
そう言い、ルナはシェリアの方へ走って行く。
ユティアに押されているようだが、それでも負けていない。クリスがいなくとも充分に戦えているようで、助ける必要はないのかと思ってしまうほどだ。しかし押されているのには変わりない。ルナは氷壁を二人の前に出現させて、一旦距離を取らせた。
「助かったわ。あいつしつこくて大変よ」
「見ていたから分かるわ。マグナの言葉を聞いても行動を止めないなんて、よっぽど忠誠心が高いのね」
ルナの言葉が聞こえたのか、氷壁の向こうから「当たり前だ!」と叫ぶ声が聞こえる。
「マグナ様は私を救ってくれたんだ! 愚かな大罪人に家族を殺され、一人でいた時に手を差し伸べてくれた! それから私はマグナ様に尽くすと決めたんだ!」
どうやらニアもユティアもマグナに救われたと言っているが、果たして本当に救ったのか疑問だ。マグナ自身が言った言葉によれば、自身の目的のために道具として使うために引き入れたとしか思えない。
二人の想いを無下にし、自身の利益のためだけに使い倒す。そう言葉を発していたのにも関わらず、ユティアは信じ続けるつもりようだ。
「ニアって女の子の方は違うみたいだけど、あなたは信じるのね」
「当然だ! マグナ様がそんなこと言うはずがない! 何かの間違いだ!」
必死な形相で言葉を話すユティアを見ていたシェリアは、クスクスと小さく笑っていた。
「あんた大馬鹿で、おめでたい人ね どうみても道具にするために部下を使って、あなた達二人を道具にしたんじゃない。マッチポンプよマッチポンプ」
溜息をつきながらシェリアが説明をし始める。
明らかにマグナによるマッチポンプで道具となった二人だが、ユティアは頑なに認めようとしない。
「ち、違う! そんなことはない!」
「違わないわよ。そこで泣いているニアって子は認めて前に進もうとしていわよ。あんたはずっと道具でいいの? 心のどこかでは分かっていたんじゃないの?」
子供をあやす優しい口調のシェリアの言葉を聞き、ユティアは「分かっていた」と小さく言葉を発した。
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