ここの動物の水源
大して蒸し暑くもねえのにいかにも<ジャングル>なそこに、俺は踏み入った。感覚は研ぎ澄ませて、危険がありゃすぐに対処できるようにしつつな。
ちなみに俺の足の裏は下手な靴より頑丈でよ。裸足でこんなところを歩いたってなんも痛くねえんだ。足の裏だけじゃねえ。皮膚自体が並の人間より分厚くて丈夫なんだ。だから裸でも別に気にならねえ。
俺以外の奴なら、まずさっきの奴に食われて終わってただろうよ。
だが、それにしてもこのジャングル、なんか妙だよな。これだけのジャングルだってのに、鳥や虫やトカゲみてえのしかいねえ。またトカゲを捕まえて齧りながら周囲を窺う。
やっぱり、おかしい。サルがいるかどうかは知らねえが、せめてそれに近い中型の動物がいてもおかしくねえと思うんだが、見当たらねえんだ。
だが、さらに奥に向かって歩くと、
「ん……?」
木からポタポタと水が滴ってるのに気付いて、俺は立ち止った。
いや、『木から』じゃねえな。<蔓>……か? 蔓みてえな植物が途中で切れててそこから水が滴ってやがったんだ。しかも、
「こりゃ、歯で噛み切った痕……みてえだな……」
思わず呟く。そうだ。腐ってちぎれたとか、何かに擦れて切れたとか、虫に噛み切られたとかじゃねえ。なんかの動物が歯でガジガジと噛んで切ったって感じのだ。
しかし、なんでだ? 『餌として食った』って印象でもねえな。それにこの水滴がな……
だから俺は、同じような蔓があったのを手にとって、齧ってみた。硬えのは硬えんだが、普通の人間じゃ噛み切れそうにゃなかったが、俺の歯と顎なら難しくなかった。そしたら、どばあっと水が口の中に溢れてきやがった。
それこそ細いチューブに水が通ってて、ちぎったら水が出てきたみてえな勢いで。
「ああ、なるほど」
さすがの俺でもピンときた。こいつはムチャクチャ水を蓄えてんだ。しかもかなりの量を。
せっかくだからごくごくと飲む。微妙に甘みがある気がするな。悪くねえ。冷えちゃいないがミネラルウォーターだと思えば十分にイケるぜ。
たっぷり飲んでもまだボトボトと零れ落ちてくるそれはもう放っておいた。見れば他にも同じような蔓はある。しかも、それに絡まれて絞め殺されるみてえにして枯れた木もある。どうやらこいつはここの動物の水源ってとこみてえだな。放っときゃどんどん増えて木を枯らしちまう感じか。
そんでもって、さっきの噛み切られてたやつあ、ちょうど俺が噛み切った辺りで同じようになってたってことあ、この高さでこいつを噛み切る動物がいるってこったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます