第63話 六角ウサギ、そして
「お、今度は二角ウサギだ。いいぞ、たまには一角ウサギ以外も倒せるもんだな」
「えっえっえっ、一角ウサギ以外も本当にいるのかな? 私は今まで一角ウサギしか倒してないよ」
ルージュちゃんは【幸運】が極端に低い娘だった。可哀想ではあるが、そういう星の下に生まれたのだろう。
そこへいくとパパレは違った。
ノーマルスキル「倍速撃!」
ノーマルスキル「火球!」
レアスキル〈雷鳴の乱撃〉を止めて、ノーマルスキルを駆使しながら次々とウサギたちを倒している。
たくさん倒したウサギの中には。
「やった! 三角ウサギだっ」
「今度は四角ウサギ! 違った、良く見たらツノが5本ある! 五角ウサギだっ!」
「あ、今度のはツノが6本ある! お兄ちゃん、お姉ちゃん! 見て見て、六角ウサギを倒したよっ! あっははー」
極端に【幸運】が高いわけではないが、人生の辛さを乗り超えたパパレはツキまくっていた。
複数本ツノがあるウサギを倒しまくっている。快調にウサギを倒したパパレは普段通り元気いっぱいになっていた。
◇
六角ウサギバブルから数ヶ月が経過し、経験値6倍に釣られて来る冒険者がいなくなった兎岳は、一時期の人気が嘘のように閑散としていた。
そんな中、俺たちは兎岳に通い続けレベルも順調に上がっていた。
他の冒険者に比べると、俺たちは〈次元の神秘〉で転移できるため『ヨイヨイ』からでも気軽に行き来する事が出来る。特に帰りの事を心配しなくて済むというのはとても有利だった。
「ふぅ、すっかり人もウサギも少なくなってしまったね。こんなにここに通っているのは俺たちぐらいかな」
「そうだね、私たち良く頑張ったよね。それにしてもシンヤ君は一つの事を永遠と繰り返すのが得意なんだね」
「言われてみるとそうかもしれないな。たまにマシンと化してしまう時があるんだよ。その時は危険だから注意してね。そのまま死んじゃうかもしれないから」
俺はリセマラマシンと化していた時の事を思い出していた。
「えっえっえっ、怖いこと言わないで。気をつけておくけれど。あ、そろそろお昼にしようか? お弁当作ってきたよ」
「お、そうだね。良い時間だね」
パパレが何処かに行ってしまっているので、呼び戻す。
「『ポメポメ山の幸運娘』のパパレーー、戻ってきなー、お昼にするよ」
パパレは六角ウサギを20匹倒して『ポメポメ山の幸運娘』の称号を獲得していた。
これまで六角ウサギを狩った数は、パパレが25匹、俺が6匹、ルージュちゃんが0匹という結果だった。
パパレの幸運さは際立つが、ルージュちゃんの不憫さもなかなかのものだ。
◇
「今日も美味しかったよ。ありがとう、ルージュちゃん」
「お姉ちゃん、ごちそうさまでしたっ」
お昼休憩を終えてHPとSPも回復してきたので、そろそろウサギ狩りを始めようとした時だった。
突如として周囲のウサギたちが一目散に逃げ出した。一気に不穏な空気が漂ってくる。
「あれれ? これは何か来そうだね。幸運娘的にはどう?」
「来るよ、お兄ちゃん。強いのが来るよ」
パパレも危険な気配を感じている。
俺たちは空になったお弁当箱や広げていたレジャーシートを片付けてピクニック感を無くし、魔物たち住む山にいるという事を今更ながら思い出したかのように臨戦態勢を整える。
その時、俺たちが視線を向けている一面びっしりと笹が生い茂ったその先に、一つの大きな黒い魔物が現れた。
太く丈夫な体毛に覆われた巨躯。
下顎から顔の半分程にまで伸びた鋭い牙。
まるで岩のように硬質化した頭部。
この魔物はパパレのお父さんガレフさんが注意した方が良いと言っていた岩イノシシに間違いない。
「これはガレフさんが言っていた岩イノシシだ!」
「大きいし凄い迫力だよ、どうする? シンヤ君」
「お兄ちゃん、どうする? 戦う?」
岩イノシシは俺たちを敵視し威圧するように、右前脚で地面を掻く動作を繰り返している。
いつ突進してきてもおかしくない。
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