第36話 勇者への道

「厳かな雰囲気で身が引き締まるね」


 俺は立派な神殿に少し圧倒された。


「そうだね、シンヤ君」


「パパレも静かにしているよ、お兄ちゃん」


 神殿に入ってみると、広々とした空間に光が差し、大きな女神像が美しく輝き、神秘的な雰囲気だ。

 そんな空間の一角に石碑があり、たくさんの人の名前が刻まれている。

 その石碑について、ルージュちゃんが教えてくれた。


「ここに名前を刻まれている人たちは、魔王との戦いで功績を残した人たちなんだよ。学校の歴史の授業で習うんだけど、よくテストに出てくるから覚えたよ」


「400年も魔王と戦ってるって事だったし、たくさんの名前があるね。そのうち勇者になった俺の名前もここに刻まれる事になるのか」


「パパレの名前も書いて欲しいなー」


「えっえっえっ、シンヤ君にパパレちゃん。私たちまだ何にもしてないよ」


 俺たちの話し声が聞こえたようで、奥から威厳のありそうな初老の神官が出てきくれた。フランチェスコさんという名前らしい。そして、その神官のフランチェスコさんが俺たちに色々と話を聞かせてくれた。


「君たちは上級クラスを目指しているのかね? この国には、フリーター‥‥‥いや、ではなく冒険者はたくさんおるのだが、勇者や聖騎士などの上級クラスを志ざす若者がすっかり減ってしまっての。君たちのような若者が上級クラスを目指してくれるのは嬉しいものじゃよ」


「そうなんですか」


「今日、王都へ凱旋した勇者様たちは、若者に上級クラスの啓蒙をしてくれたりと立派な勇者様たちじゃよ。あの勇者様たちのお陰で、最近は上級クラスを目指す若者が少し増えてきておるでな。お嬢さん方の格好を見ても、とても影響力があるのがよく分かる。いや、本当にすごい影響力だな‥‥‥」


 神官のフランチェスコさんは、普段の神殿では見かけないであろうルージュちゃんたちの浮かれた格好を見て少し引いている。それにしても、あのチャラいかと思った勇者パーティーが、そんな立派な人たちだったとは。


「それで、俺は勇者になりたいと思ってるんですが、どうしたらなれるのでしょうか?」


「君は勇者を目指すのか。それならば、この上級クラスになるためのガイド本を授けよう。こういう本にまとめておかないと最近は興味を持ってもらい難いでの。準備しておるのじゃよ」


 俺は神官のフランチェスコさんから、『上級クラスへの道 〜君も上級クラスになって所得倍増〜』という本をもらった。


「その本には色々な上級クラスになるための条件が書いてあるでの。条件を満たした時にまたここへ来なさい。ワシは君たちが再びここを訪れる事を楽しみに待っておるぞ」


「はい。ありがとうございます」


「それから、勇者になった者には【神界の本棚 利用券】を30枚プレゼントしておるぞ」


「な?! 30枚! 絶対にまた来ます!」


 最後の「30枚プレゼント」という言葉に俺は俄然やる気を出し、ガイド本を片手に神殿を後にした。



 ◇



 俺たちは神殿前の噴水広場でルージュちゃん、パパレと共にもらったガイド本をさっそく読んでみる事にした。

 目次にある『勇者を目指す人たちへ』というページを開いてみる。


「なになに‥‥勇者になるには『ドラゴンスレイヤー』の称号が必要。『ドラゴンスレイヤー』ねぇ。ドラゴンぐらい倒せないと勇者とは認められないという事かな。なるほどねぇ」


「えっえっえっ、ド、ドラゴンを倒すのかぁ。怖そうだね」


「パパレはドラゴン見たいなーっ! ゴブリンがいっぱいいた森にいるんだよねっ」


「ドラゴン以前に変態ゴブリンたちにすら負けそうになった森か。俺たちが今、ドラゴンと戦っても全く歯が立たないだろうね」


 俺はガイド本の勇者になるための条件を読み進めていく。

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