第29話 ディフェンスから爆炎へ

 無事に街へ戻る事ができ、アグライアさんと話を始める。


「私はアグライア、それから後ろにいるのがパーティーメンバーのリチャード、アイン、ライデンだ。あとパーティーメンバーではないのだが、私の隣にいるのは旦那のジョージだ」


 アグライアさんがパーティーメンバーを紹介してくれた。

俺はアグライアさん以外のパーティーメンバーの名前もどこか聞き覚えがある気がしてならなかった。何だったろうかと思い出してみると、最初のパーティーメンバー候補だった人たちだという事に気がついた。アグライラさんのパーティーは俺がパーティーメンバーに選ばなかった人たちが集まっているという事か。


 何故かついでにいる旦那のジョージが気はなるところだが、ひとまずこちらのパーティーメンバーも紹介しておこう。


「俺はシンヤと言います。一応、神界の仕事人やってます。あと、こっちがルージュちゃんで、こっちがパパレです」


「ルージュです。助けてもらってありがとうございました」


「パパレです。〈爆炎の舞〉カッコよかったですっ」


「!! パパレちゃん! 〈爆炎の舞〉の良さがわかるのかい。君は小さいのに見どころがあるね。すごくいいよ。うちのパーティーに勧誘したい‥‥‥いや、それはダメだ。ちょっと興奮してしまった。すまない。ところで、シンヤ君は私の事を知っているようだったが?」


「あ、ええと、ディフェンスに定評のあるアグライアさんと聞いた事があって」


「ああ、そんな風に言われている時もあったな。確かに私は一昨日まで防御スキルしか持っていなかった。さっき言いかけたが、実はジョージとは昨日、結婚したばかりなんだ」


「ご結婚、おめでとうございます!」


「うむ、ありがとう。それでだな、結婚のお祝いとして神殿から【神界の本棚 利用券】を貰ったんだよ。それを利用したら、初めての攻撃スキル〈爆炎の舞〉のレアスキル本を引くことができたんだ。嬉しい事は続くものだな。そんなわけで、これからはディフェンスに定評のあるアグライアではなく、爆炎のアグライアと呼んで欲しい」


 アグライアさんは攻撃系のレアスキルを身に付けることができて、とても嬉しそうだ。


「そうだったんですか! おめでとうございます!」


「今からする話は信じられないかもしれないが、もう少し聞いてくれるかい。結婚の前日、式の準備をしていた午前中の事なんだが、どこからともなく『今日はありがとう。アグライアさんが攻撃系のレアスキルを引けますように』と言う不思議な声を聞いたんだ。それを聞いた時、次こそはレアスキル本が引けると確信したよ。そういえばシンヤ君の声に少し似ていたかもしれないな」


 前回、アグライアさんと別れた後、〈存在削除リセット〉をする前にそんな事を言った気がする。レアスキル本が出たのは偶然なのかも知れないが、もし運営の心遣いだとしたら、気が利いている。


「へぇ、そんな不思議な出来事があったんですね。俺は信じますよ。ところで、旦那のジョージさんはパーティーメンバーではないのに、なぜ一緒に?」


「ははっ、愚問だね。本来は今日、新婚旅行に行くつもりだったんだが、どうしても〈爆炎の舞〉を使いたくてね。試し斬りにちょうど良いゴブリン討伐クエストと新婚旅行を兼ねてみたんだよ。〈爆炎の舞〉はすぐに使いたいが、ジョージとは少しの間も別れたくはないからね」


 それを聞いて、旦那のジョージにスイッチが入った。


「アグライア、俺は危ない時もずっと一緒だよ。世界中が敵になっても俺はアグライアの味方だ。魔王だって怖くない」


「ジョージ、ありがとう」


 そうして、アグライアさんとジョージは2人の世界に入り、イチャイチャし始めてしまった。

 アグライアさんのパーティーメンバーも皆、ニコニコしている。優秀なツッコミ担当の人もここはツッコまない。寛大な人たちだ。

 ルージュちゃんは目のやり場に困っている。そんなルージュちゃんを見るのもオツなものだ。

 パパレは興味がないようだ。いつの間にかアグライアさんのパーティーメンバーに肩車をしてもらって楽しそうにしている。



 ◇



「アグライラさんにジョージさん、パーティーメンバーの皆さん、ありがとうございました」


「シンヤ君たちとは縁がある気がするよ。何かあったら頼ってくれ。またどこかで会おう」


 しばらく話をした後、アグライラさんたちのパーティーと別れる事にした。本当はもっと話をしたかったが、予定より時間が経ってしまったので仕方がない。


「ゴブリンで危ない目にあったけど、みんな無事で良かった。よし! 気を取り直して王都へ向かおう」


「うん。早く王都へ行かないといけないよね。今度からゴブリンには気をつけないといけないね。すごく見られて怖かったよ」


「パパレ、もっと強くなりたいなー。カッコいいスキルが欲しいなー」


 そんな話をしながら王都へ向かう馬車へ乗り込んだ。俺たちはすっかり疲れて爆走する馬車の中で熟睡した。目指す王都はもうすぐだ。





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