第27話 変態&ロリコン&多様化ゴブリン

 食後のゴブリン討伐に2人とも賛成してくれたので、馬車乗り場へは向かわずに反対側である街の奥へと進んでいく。


 この街も周囲は壁に囲まれている。街の最奥には森から街を守るかのように神殿が建っている。その神殿の脇に門があり、門の先に森の奥へと続く道があるようだ。しかし、その門は閉ざされていた。

 門の前に門番らしき強そうな人がいるので、話を聞いてみる。


「この先の森に行きたいんですけど、通れますか?」


「君たち、森に行きたいのかい? この森にはゴブリンやドラゴンがいるから危険だぞ」


「え?! ド、ドラゴン?! ゴブリンだけじゃなくて、ドラゴンもいるんですか?!」


「ああ、いるぞ。森の奥にダンジョンがあって、その中にいる。『緑龍』と呼ばれるドラゴンで恐ろしいぞ」


「俺たちなんか、すぐやられちゃいますよね‥‥」


「君たちの強さは分からないが、ドラゴン討伐クエストを受けて神界の加護がないと、ここのドラゴンにはダメージが与えられない。だからクエストを受けていなければ、どんなに強くても逃げるしかないぞ」


「こ、怖いですね」


「あ、いや、怖がらせて悪かった。いくらドラゴンが強いと言っても、ダンジョンからは出てこないから特に問題はない。それよりもゴブリンの方が危険だぞ」


「一応、俺たちはゴブリン討伐クエストで来たんですが」


「そうなのかい。今、この森のゴブリンが増えて困っているんだ。少しでも倒してくれるのは有り難い」


「そうですか。じゃあ本当に少しだと思いますけど倒してきます!」


「よろしく頼むぞ」


 門番はそう言って門を開けてくれた。



 ◇



 門を出ると薄暗い深い森が広がっていた。門から先は、人が踏みならしただけの細い小道が、森の奥へと続いている。

 不気味な雰囲気が漂っているのだが。


「ゴブリンっ! ゴブリンっ! どっこかなー?」


 パパレは何も気にしていない。とても楽しそうだ。

 確かにここまで来て怖がっていても仕方がない。時間が惜しいので、さっさと1匹ぐらいは倒したいと思う。


「よし、怪しそうな奥の方へ進んでみよう!」


 そう言って俺たちは街から離れた森の奥へと進んでいき、3人で一生懸命に探すと1匹のゴブリンを発見した。

 ゴブリンの方は俺たちに気がついていないようだ。


「あの1匹でいるゴブリンをやろう。俺とパパレで最初に攻撃して、ルージュちゃんはその後に続いて」


「わかったよ、シンヤ君」


「はーい、お兄ちゃん。スキル、使っちゃおーっと」


 木の陰から慎重に進み、俺とパパレで同時にスキルを放つ。


 ノーマルスキル「火炎斬!」

 ノーマルスキル「倍速撃!」


 ゴブリンに2人からのスキル攻撃が命中する。

 やったか?!


『ギャイッ! ギャイッ! ギャイッ!』


 ゴブリンはかなりのダメージを受けたように見えるが、まだ動けるようだ。それを見て、パパレが反射的に追撃のスキルを放つ。


 ノーマルスキル「火球!」


 ゴブリンが〈火球〉の炎で動揺したところを棍棒でボコボコにしている。パパレは攻撃のセンスが良い。

 俺とルージュちゃんもパパレに負けじと斬りかかる。


『ギャイィィィィィ!』


 ゴブリンは断末魔をあげて倒れた。ゴブリン1匹に対して3人がかりでなら、余裕を持って倒す事ができた。


「やったね。ルージュちゃん、パパレ!」


「うん、シンヤ君。目標の1匹はクリアだね」


「パパレはもっと倒したいなー。ドラゴンのとこ行く?」


「行かないよ! パパレは門番さんの話を聞いてた? 今日は王都へ行かないといけないし、早いけど切り上げるよ」


「ちぇーっ、ドラゴン、見たかったなー」


「パパレちゃん、ドラゴンはまたいつかね。今日は街へ戻ろうね」


 そんな話をして、来た道を街へ引き返す事にしたのだが、周りで何やらガサガサと音がする。

 先程のゴブリンの断末魔を聞いて仲間のゴブリンたちが集まってきてしまったのだろうか。


「ルージュちゃん、パパレ。急いで街に戻ろう!」


 しかし、遅かった。視界に1匹のゴブリンが現れた。俺たちを見定めるようにこちらを眺めている。

 しばらくすると、そのゴブリンはルージュちゃんだけをガン見し始めた。俺とパパレには何の興味も無くなり、ルージュちゃんだけを舐めるようにガン見している。変態のゴブリンだ。嫌な予感がする。


『ギャイッ! ギャッギャ! ギャッギャ!」


 ルージュちゃんをガン見している変態ゴブリンが騒ぎ始めた。どうやら、ルージュちゃんの魅力で、変態ゴブリンが興奮しているようだ。当のルージュちゃんは、のほほんとしているが自分が狙われている事に気がついていないのか。


『ギャイッ! ギャッギャ! ギャッギャ!』


 変態ゴブリンがさらに騒ぎ立てる。ルージュちゃんも異変に気がついたようだ。


「えっえっえっ、何かあのゴブリン、私をずっと見てるんだけど‥‥えっえっえっ」


『ギャイッ! ギャッギャ! ギャッギャ!』


 ルージュちゃんを舐めるようにガン見する変態ゴブリンはさらにうるさく騒ぎ立て、その声を聞いた他のゴブリンたちまで集まってきた。

 これはマズイ! 絶対にマズイ!


「あわわわわわ、ルージュちゃん、ちょっと隠れて。早く街に逃げないと!」


 次々にゴブリンが集まってくる。集まってきた中にはパパレをガン見しているゴブリンがいる。ロリコンのゴブリンも集まってきた。

 そして、ついには俺をガン見しているゴブリンまで現れた。メスなのか。それともオスなのに俺をガン見しているのだろうか。多様化した社会ならあり得る話だ。

 変態&ロリコン&多様化、それぞれの趣味は自由ではあるが、この状況は俺たちにとって非常にマズイ!


「あわわわわわわわ、と、とりあえず、街へ戻る通り道にいるゴブリンだけでも倒さないと!」


この状況、街まで逃げ切る事ができるのか!?


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