でこぼこキネマ

日笠しょう

続編は求められるまま作られないほうがいい

あ「作中人物が喫煙していると吸いたくなる現象あるじゃないですか」

空「最近何見たの?」

あ「ローグ・ワン」


 事もなげに、あかりは言った。


空「あれタバコなくない?」

あ「いや、あれは吸ってますね。最後の抱き合いながら終わりを迎えるシーンはもう、心は喫煙者ですよ。シガーキスして最期を待つ二人ですよ。4DXなら副流煙が漂うまでありました」

空「シン・ゴジラの4DXは石原さとみのフレグランスが香るんだっけ」

あ「私はアマプラで見ましたが、だとしたら持て余しすぎじゃないですか、技術」

空「新しいモノ使ってみたかったんでしょ、少年だから」

あ「納得」


 思いを巡らせる。スクリーンでは今、2代目スパイダーマンがエレクトロと戦っている。ドリンクホルダーに差し込んだ空き缶に灰を落とし、また口へ運ぶ。メンソールの香りが心地よい。


空「でもウィンストンみたいなバニラの香り来たらキレるな、私」

あ「何だったら良いんですか?」

空「マルメン」

あ「自分の銘柄なだけじゃないですか。じゃあ私セブンスター。でも、なんで吸いたくなるんですかね。格好良いから?」

空「タバコがかっこいいというより、タバコ吸ってるシーンが軒並み格好良い説はある。私はこの前コンスタンティン見て肺がんになろうが吸い続けようと思った。思うに、一番手軽にできる格好つけだから、みんな真似するんじゃないかな」

あ「すぐにできることだからです? じゃあ私がガンカタの使い手だったら思わず銃で接近戦かます恐れが?」

空「プロの格闘家はけんかしないという話があってだな」


 映画は佳境。もうすぐ問題の、我々が長らく感情のやり場を持て余すことになった最高に格好良い叶わない引きが見られる。


あ「この前コーヒー&シガレッツを途中まで見て挫折したんですけど」

空「この世全ての映画を見届けるのが野望って言ってなかった?」

あ「私がこの映画館に住んでいるのは屋根と壁とふかふかのソファがあるからです」

空「もしここが禁煙になったら来るのやめるわ」

あ「それは嫌だなあ」


 あかりが笑いながらリクライニングを倒した。


あ「望まれてたからこそ、作られなかった映画ってあるじゃないですか」

空「私はアメイジング・スパイダーマン3が見たかったし、シャーロック・ホームズ3も待ってる」


 マンホールを投げるシーンの続きを、なんど夢想したことか。


あ「でもゴースト・ライダー2は忌み子じゃないですか」

空「ゾンビランド2は愛されて生まれてきたから」

あ「結局人って待ち望んできたモノが出てきたときの採点に満点をつけることってないと思うんですよね。楽しみにしている間に頭で考えているものが最上で、形になるとどこかしらに不満を持つ」

空「待っている間が一番楽しい、って話?」

あ「封を開けて火を点けて、灰に吸い込む瞬間がクライマックスですよね」

空「一口目のビールと同じね」

あ「私まだ未成年だからわからなーい」

空「タバコもまだまだ早いんじゃないの?」

あ「酒を飲むシーンに憧れはしませんが、煙くゆらすのを見てると今すぐにでも吸いたくなるんですよね」

空「じゃあ私は帰るけれど」

あ「来週はみーちゃんもつれてきてくださいよ。一緒に鑑賞会しましょ?」

空「何見るの?」

あ「ごんぎつね」

空「泣かす気か」

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